スラップ奏法の完全ガイド:歴史・基礎技術・練習法・機材セッティングまで
スラップ奏法とは
スラップ奏法(通称:スラップ/スラップベース)は、ベースの右手(弦を弾く側)で親指や指を用いて弦を叩いたり弾き飛ばしたりすることで、打楽器的でアタックの強い音を得る奏法です。一般的には"スラップ(thumb slap)"と"ポップ(pop)"のコンビネーションでリズムを形成し、ファンクやソウル、ロック、ポップ、ジャズなど幅広いジャンルで用いられます。電気ベースだけでなく、アップライト(コントラバス)にも早期から存在する奏法で、帯域の明瞭さとリズム感を強調することができます。
歴史と起源
スラップのルーツは二重の流れに分かれます。1つは20世紀初頭のニューオリンズ・ジャズやロカビリーに見られるアップライトベースの"スラップ奏法"で、弦を弾いて指板や胴に弦が当たる打音を利用したものです。もう1つは電気ベースにおける現在一般的な親指で弦を叩き、指で弦を弾き返す"スラップ&ポップ"の手法で、これは1960年代後半から1970年代にかけてモダンに発展しました。
電気ベースのスラップ奏法を広く知らしめた人物として最もよく挙げられるのはラリー・グラハム(Larry Graham)です。彼はシルー&ザ・ファミリー・ストーン(Sly and the Family Stone)などでの演奏を通して、ベースをリズムの中心に据える演奏スタイルを確立しました。以降、ブーツィー・コリンズ(Bootsy Collins)、マーカス・ミラー(Marcus Miller)、ヴィクター・ウッテン(Victor Wooten)、フリー(Flea)など多くの奏者が独自の発展を遂げ、スラップ奏法は多様化しています。
基本技術:スラップとポップのメカニクス
- スラップ(サム):親指の第一関節付近(または親指の腹)で弦を弾き下ろし、弦をフレットに向かって叩き付けて打撃音と明瞭なアタックを得ます。手首のスナップと親指の角度、弦に当たる位置(ブリッジ寄りは明るく、指板寄りは温かい)を調整します。
- ポップ(プル=ポップ):主に人差し指か中指で弦を引っかけて弾き、弦を弾き飛ばしてフレットに戻らせることで鋭い高音を得ます。爪を利用する奏者もいますが、爪の形状で音色が変わります。
- ミュート(消音):スラップでは、余韻をコントロールするため左手や右手の手のひらで弦を部分的にミュートすることが重要です。デッドノートやゴーストノートを混ぜることでグルーブが立ちます。
- 連続テクニック:ハンマリングオン、プリングオフ、スライド、タッピングなどを組み合わせることでフレーズの表現力を高められます。ヴィクター・ウッテンらは“ダブルサム”や両手タッピングなどを駆使して新たな表現を開拓しました。
基本的なハンドポジションと身体の使い方
正しい姿勢とハンドポジションは長時間の演奏でも疲れにくく、安定した音が出せます。ベースを身体に対してやや高めに構え、右肘はリラックスさせて手首と前腕で動きを作ると良いでしょう。親指は極端に力を入れず、手首のスナップと前腕の回内(ひねり)でアクセントを作ります。肩や首に力が入らないよう注意してください。
音作りと機材設定
スラップに向く機材のポイント:
- 弦:ラウンドワウンド弦は明るくアタックが出やすいためスラップに適しています。フラットワウンドは暖かいがアタックが抑えられる傾向。
- アクション:弦高をやや高めにする(ただし弾きづらくならない範囲で)ことで、弦を叩いたときの余裕が増し、明瞭なアタックが得られます。
- ピックアップ位置:ブリッジ寄りはシャープでアタックが強く、ネック寄りは丸みがあるので曲想に合わせて選びます。Jタイプ/Pタイプでキャラクターが異なります。
- エフェクト:コンプレッサーや軽めのプリアンプでアタックを均一化するとミックスで埋もれにくくなります。エンベロープフィルターやオクターバーで独特の効果を付与することも一般的です。
代表的なフレーズとリズムパターン
スラップ奏法はリズムの要として使われることが多く、クラシックなファンクパターンや8分音符主体の刻み、3連系フレーズなどがよく用いられます。基本練習として以下のようなパターンをメトロノームで練習しましょう:
- 四分打ちのスラップのみ(1・2・3・4の拍で親指のみ)→アタックの均一化と音量調整。
- スラップ(親指)→休符→ポップ(指)→休符の交互パターン(基礎的なファンクグルーヴ)。
- 8分音符で親指とポップを連続させるパターン、3連符のスラップ-ポップ-ポップなどのコンビネーション。
練習メニュー(初心者〜中級者)
- ウォームアップ:メトロノームで60〜80BPMから開始。親指だけで四分音符を正確に刻む(各拍で音量が均一になること)。
- ポップ導入:親指で1拍、ポップで次の拍を取る交互練習をゆっくりから始める。指のフック力とリリースの速さを養う。
- アクセント練習:アクセントを指定して強弱を付ける。ゴーストノートを混ぜ、グルーブ感を出す。
- テンポUP:安定してきたらメトロノームを5〜10BPMずつ上げ、ビートキープ能力を鍛える。
- 楽曲練習:好きなファンク/ロックの曲に合わせて実践練習。ラリー・グラハムの楽曲やレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーのフレーズなどを模倣すると参考になります。
上級テクニックと発展系
上級者は以下のようなテクニックで表現を広げます:
- ダブルサム(double-thumb):親指の引き上げを使って通常のスラップに続けてもう一度音を出すことで高速な連打を可能にする技術。ヴィクター・ウッテンらによって広められました。
- 両手タッピングの組み合わせ:右手スラップと左手のタッピングを同時に用いることで、ベースソロ的なメロディとパーカッションを同時に表現できます。
- ハーモニクスとの組み合わせ:フレット上で自然倍音を混ぜると独特の煌びやかな音色になります。
よくある間違いとケア
誤ったフォームや過剰な力みは手首の故障や腱鞘炎の原因になります。練習時は以下に注意してください:
- 力任せに叩かない:手首と肘を連動させ、リラックスしたスナップで行う。
- 無理な速度上げをしない:フォームが崩れたら速度を落として修正。
- 手のケア:演奏前後のストレッチ、十分な休息、必要ならばアイシングや専門医の相談を行う。
スラップ奏法が活きる音楽的場面
スラップは単に派手なテクニックではなく、グルーヴを支える強力な武器です。特にファンクやディスコのリズム、ソウルのタイトなバッキング、ロックでのアクセント的使用、ジャズ・フュージョンでのソロ的表現など、曲の中で存在感を出したい場面で有効です。バンドの他の楽器(ドラム、ギター、キーボード)との音域バランスや音色を考えて使うと良い結果が得られます。
練習のまとめとロードマップ
スラップ奏法習得のロードマップ:
- 初期(数週間):基礎スラップ/ポップの動作を習得し、メトロノームで安定させる。
- 中期(数ヶ月):ゴーストノート、ハンマリング、プリングオフを組み合わせ、複数パターンでグルーブを作る。
- 上級(半年〜):ダブルサム、両手タッピング、ハーモニクスなどを取り入れて独自のフレーズを構築する。
日々のルーティンに短時間でも集中した練習を組み込むことが上達の鍵です。
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参考文献
- Slap bass - Wikipedia
- Larry Graham - Wikipedia
- Marcus Miller - Wikipedia
- Victor Wooten - Wikipedia
- Flea - Wikipedia
- Bootsy Collins - Wikipedia
- Scott's Bass Lessons
- Bass Player Magazine


