第一度(トニック)のすべて:調性・和声・メロディで果たす役割と実践ガイド
第一度(トニック)とは
第一度(だいいちど)、一般にはトニック(tonic)と呼ばれるものは、ある調における基音(スケールの第1音)であり、その調性(キー)の中心点です。例えばハ長調であればC(ド)が第一度、イ短調であればA(ラ)が第一度になります。調性音楽においては、他の音や和音はこの第一度を基準にして機能や方向性を持ち、音楽的な「安定点」や「帰着先」として認識されます。
音階と表記:第一度の位置付け
西洋の長音階・短音階(メジャー/マイナー)では、音階の各音に番号を付けるのが一般的で、第一度は「1(ド)」、第二度は「2(レ)」と続きます。ローマ数字を用いる和声分析では、第一度の和音は大調では I、短調では i と表記され、これがその調の主和音(トニック・コード)です。
和声における第一度(トニック和音)の機能
トニック和音(I または i)は、和声機能の中で最も安定した役割を持ちます。一般的に以下の特徴があります。
- 安定性・終止性:楽句の終わりに置かれることで「終止(resolve)」を与える。
- 出発点・基盤:曲やフレーズの出発点として提示されることが多い。
- 他の機能の解決点:属(V)や下属(IV)といった和音の緊張がトニックで解決される。
最も基本的な終止形は完全終止(V→I、英語では authentic cadence)で、属和音からトニックへの進行は調の確立と強い解決感を生みます。IV→I のプラガル終止(いわゆる「アーメン終止」)もトニックの安定を示しますが、V→I に比べるとやや弱い終止感です。
短調における注意点:導音(leading tone)の扱い
短調(自然短音階)では第7音が長調の導音(leading tone)と異なり、半音下がった短7度(フラット7、subtonic)になるため、そのままではトニックへの強い導きが弱くなります。そこで作曲や和声では、ハーモニック・マイナー(第7音を半音上げる)やメロディック・マイナー(上行で第6・第7音を上げる)を用いて導音を作り、V→i の進行で強い解決感を得ることが多いです。
メロディにおける第一度の役割と傾向
メロディの文脈でも第一度は重心となる音であり、安定や休止のポイントとして用いられます。感覚的・認知的な研究(probe-tone 実験など)では、リスナーは第一度とその近傍の音を最も「成立感(tonal stability)」が高いと評価します。メロディにおける典型的な傾向には次のようなものがあります。
- 導音(第7音)が上行して第一度に解決する傾向が強い(V→I のメロディックな反映)。
- 第2音(supertonic)や第4音(subdominant)は第一度に向かう傾向があるが、文脈により経過音となることも多い。
- フレーズの終わりに第一度を用いることで、完結感・安堵感を表現できる。
第一度の持続と展開(プロローゲーション)
トニック自体が常に鳴っているわけではないが、作曲技法や分析では「トニックの延長(prolongation)」という概念が重要です。特にシェーンカー派の分析では、作品の深層でトニックが持続的な統一原理として現れ、間接的な和声や経過音を通して再帰されます。ポピュラー音楽でもベースにトニックがペダル的に保たれることで「安定の空気」を作ることがよくあります。
トニックの成立と音響的根拠
トニックが中心として感じられる背景には音響学的要因もあります。倍音列(ハーモニクス)の第1倍音が基音(トニック)であり、第2倍音はその1オクターブ上、第3倍音は完全5度上、といった関係は、協和感や機能関係の基礎となります。また、心理学的研究(Carol Krumhansl らによるプローブトーン実験)では、聴取者があるキーを聴いた後、各音に対して感じる「安定度」が一貫した分布を示し、第一度が最も高い安定度を持つことが示されています。
トニックの変容:転調・主調化(tonicization)
曲の中では、トニックが一時的に別のキーに置き換わることがあります。短期間の別主調化をトニック化(tonicization)と言い、二次ドミナント(V/V や V/ii など)を使って一時的な調の中心を作る技法が一般的です。大規模な転調では新しい第一度が曲全体の中心になり、調感が完全に変化します。
モード(旋法)における第一度
調性(トーナリティ)以前のモード的な音楽では、第一度はモードの「終止音」や基音として機能しますが、長短調のような属・下属という和声機能とは異なる動きを示すことがあります。ドリア、ミクソリディアなどのモードでは、第一度の性格(安定度)は残るものの、その周囲の音程関係や導き方が異なり、独特の旋法的な色彩を生み出します。
実践的な作曲・編曲への応用ポイント
第一度を意識した作曲や編曲のコツをいくつか挙げます。
- フレーズの終わりには直接的・間接的に第一度を提示して締めると、聞き手に完結感を与えやすい。
- 導音(7度)を適切に使って第一度への解決を意図的に演出すると、表情が豊かになる(短調ではハーモニック・マイナーの利用など)。
- 第一度のペダルやオスティナート(低音で繰り返す)を用いると曲の重心が安定し、他の和音の動きがより効果的に聞こえる。
- 一時的なトニック化(II7→V→I のような経路)で短い緊張と解決を作れば、曲にドラマを与えられる。
- モード楽想を使う場合は第一度周辺の音(例えば短6度や特異な4度)を活かし、従来のトーナルな期待を裏切ることで新鮮さを出せる。
まとめ:第一度のもつ多層的な価値
第一度(トニック)は単にスケールの1番目の音という以上の意味を持ちます。和声機能、メロディの帰結点、音響的・認知的な安定の源として、音楽の構造や聴取経験を規定します。作曲・編曲・分析のいずれにおいても、第一度を理解し、その外側にある導音や下属・属などの関係を操作することで、楽曲に意図的な緊張と解決、そして表情を与えることができます。
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参考文献
- Encyclopaedia Britannica — Tonic (music)
- Wikipedia(日本語)— トニック(音楽)
- Wikipedia — Probe-tone experiment(Krumhansl のトーナリティ研究)
- Wikipedia — Functional harmony
- Wikipedia — Schenkerian analysis
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