旋律的マイナー音階を徹底解説 — 理論・和声・即興での使い方と練習法
はじめに:旋律的マイナー音階とは何か
旋律的マイナー音階(せんりつてきマイナーおんかい)は、西洋音楽理論において重要な役割を果たすマイナー・スケールの一種です。クラシック音楽では上行と下行で形が変わる「古典的な旋律的短音階(ascending melodic minor)」として扱われ、ジャズ以降の現代理論では上行形をそのまま用いる「ジャズ・マイナー(jazz minor)」として両方向で固定的に使用されることが多くなりました。本稿では定義から和声化、モードの活用、即興や作曲での実践的応用、練習法までを詳しく解説します。
基本定義と音程構成
旋律的マイナー音階(上行形)は、自然短音階の6度と7度を半音上げた形を持ちます。例えばC旋律的マイナー上行は C–D–Eb–F–G–A–B です。インターバルで表すと:全音(W)・半音(H)を用いて W–H–W–W–W–W–H の配列になります。古典的用法では上行で6度・7度を上げ、下行では自然短音階(C–Bb–Ab…)に戻すという扱いが伝統的です。一方、ジャズでは上行形をそのまま上下に用いることが多く、『ジャズ・マイナー』と呼ばれます。
なぜ6度・7度を上げるのか(歴史的・機能的理由)
歴史的には、調性音楽において上行時に導音(leading tone)を用いることで主音への解決が滑らかになり、旋律の上行が自然に感じられるため6度・7度が上げられました。節回しの中で上行時に増六度や二度進行を避け、声部連結(voice leading)を改善する実用的理由があります。下行では自然短音階に戻すことが古典的習慣とされ、より自然な下行の音程関係を保ちます。
旋律的短音階とハーモニック・マイナーとの違い
ハーモニック・マイナーは第7音のみを上げ、第6音は下げたままにしているため、強い導音効果(半音進行)と増二度(augmented second、例:Ab→B)を生むことがあります。旋律的マイナーはこの増二度を回避するために第6音も上げ、より滑らかな音階線を提供します。和声的用途に応じて、作曲家・演奏者は両者を使い分けます。
モード(旋律的マイナー由来の7つのモード)
ジャズ理論では旋律的マイナー(ジャズ・マイナー)を起点に7つのモードが重要視されます。C旋律的マイナー(C D Eb F G A B)を例に各モードを整理します。
- 第1モード(ジャズ・マイナー/旋律的マイナー):C D Eb F G A B — 1 2 b3 4 5 6 7。Cm(maj7)などのスケール。
- 第2モード(Dorian b2 / Phrygian ♮6):D Eb F G A B C — 1 b2 b3 4 5 6 b7。フラメンコ的な色彩やマイナー・ペンタに近い響きを持つ。
- 第3モード(Lydian augmented):Eb F G A B C D — 1 2 3 #4 #5 6 7。拡張した明るい長調色。
- 第4モード(Lydian dominant / オルタードではないドミナント):F G A B C D Eb — 1 2 3 #4 5 6 b7。7#11的な響きでドミナント機能に使われる。
- 第5モード(Mixolydian b6):G A B C D Eb F — 1 2 3 4 5 b6 b7。ミクソリディアンに暗めの色合いを加える。
- 第6モード(Locrian #2):A B C D Eb F G — 1 2 b3 4 b5 b6 b7。ロクリアン系だが2度が自然で使いやすい。
- 第7モード(Super Locrian / Altered scale):B C D Eb F G A — 1 b2 b3 b4 b5 b6 b7。オルタード系のテンション(b9,#9,b5,#5)を含み、altered dominantに最適。
これらモードはそれぞれ個別の和声機能と色彩を持ち、即興での選択に有用です。用語は文献によって若干の呼称差がありますが、機能的な把握が重要です。
旋律的マイナーの和声化(各度に構築される和音)
旋律的マイナー上の各音に三和音や七の和音を積んだときの典型的質を示します(C旋律的マイナーを例に)。
- I(第1度):Cm(maj7) — C Eb G B。マイナーでありながら長7度を持つ特異なコード。
- II(第2度):Dm7 — D F A C。自然なマイナー・セカンドの和音。
- III(第3度):Ebmaj7#5(Eb+M7)— Eb G B D。#5を含む拡張された長三和音。
- IV(第4度):F7(ドミナント)— F A C Eb。Lydian dominant的な響きを持つ。
- V(第5度):G7(ドミナント)— G B D F。ジャズでのV7へのスケール選択に重要。
- VI(第6度):Am7b5(半減七)— A C Eb G。ロマン派的な色彩も持つ。
- VII(第7度):Bø7(半減)— B D F A。緊張感のある導音系和音。
この分布はハーモニック・マイナーとは異なります(例えばハーモニック・マイナーではVが完全なドミナント・コードを生む構成がより強調されます)。旋律的マイナーはIにCm(maj7)のような特殊な和声をもたらすことが特徴です。
ジャズでの実践的応用:スケール-コード対応
ジャズ即興では、コードに対してどのモード(またはスケール)を選ぶかが音選びの根幹です。代表的対応を挙げます。
- m(Maj7)(例:Cm(maj7)):ジャズ・マイナー(第1モード)を選ぶことでコード内の長7度を活かす。
- m7(マイナー・セブンス):Dorian系かDorian b2などの第2モードを選択し、色彩を調整。
- 7(ドミナント):用途に応じて第4モード(Lydian dominant = 7#11的)や第7モード(Super Locrian = altered)を使い分ける。例えばドミナントがalteredとして機能するならSuper Locrianを用いる。
- V→I 解決での代替:V7alt上で第7モード(Super Locrian)を使うとb9,#9,b5,#5などのテンションを自然に得られ、Iへ強い解決感を生む。
これらの対応は曲のコード進行や目的(色彩、緊張、解決)によって柔軟に組み合わせます。
作曲・編曲での利用例
旋律的マイナーはメロディの滑らかさを保ちつつ和声の多様性を与えるため、映画音楽やジャズ、現代クラシックで広く使われます。たとえばIにCm(maj7)を置くことで儚さと先の不確実性が同居する和声が得られますし、IVをLydian dominantにして#11を強調することでモーダルかつ現代的な響きになります。進行例としては Cm(maj7) → F7(#11) → Bbmaj7など、旋律的マイナー由来のモード混合が挙げられます。
練習法:スケール練習と即興ドリル
学習・実践のための具体的練習法を示します。
- 指板・鍵盤上でC旋律的マイナーを上下に反復し、音の導き(6→5や7→1)を耳で確認する。
- 各モードをコード進行(例えば ii–V–I 型)に当てはめて演奏する。例:Dm7 → G7 → Cm(maj7) に対して第2→第7→第1モードを試す。
- テンション・ターゲット練習:ドミナント上で#11やb13、b9などを意図的に狙い、解決させる練習を行う。
- フレーズ練習:短いモチーフを作り、モードを変えながらモチーフを変奏することで色彩の差を体感する。
実作例・レパートリー
旋律的マイナーはジャズのモーダル作品、現代クラシック、映画音楽などで見られます。特にジャズではモードの使用が即興語法として定着しており、Miles DavisやJohn Coltrane以降のモーダルなアプローチ、さらに現代ジャズでは複雑なテンション操作に多用されます。クラシックでは19世紀後半から20世紀にかけて旋律的処理が多くの作曲家に使われました。
注意点とよくある誤解
よくある誤解として「旋律的マイナーは常に上行だけで使うべき」というものがあります。古典的慣習では上行・下行で使い分けますが、ジャズや現代音楽では両方向同一形(ジャズ・マイナー)で使うことが一般的です。また、旋律的マイナーとハーモニック・マイナーは混同されやすいですが、和声構成や生み出すテンションが異なるため、目的に応じて明確に使い分ける必要があります。
まとめ:理論と実践の架け橋としての旋律的マイナー
旋律的マイナーは単なる『スケールの一つ』以上の役割を持ちます。古典的には滑らかな旋律処理のため、ジャズ以降では豊かなテンション源として、作曲・即興・編曲に応用されます。各モードを理解し、コード上での選択肢を増やすことで、表現の幅を大きく拡げられます。まずはスケールの音を身体に覚えさせ、モードごとの色を耳で区別する練習から始めることをおすすめします。
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参考文献
- Melodic minor scale — Wikipedia
- MusicTheory.net — Minor Scales
- Mark Levine, The Jazz Theory Book (Hal Leonard)
- Stefan Kostka & Dorothy Payne, Tonal Harmony(Pearson)


