双指向マイクの特性と実践ガイド:録音・ステレオ技術・注意点まで徹底解説
双指向マイクとは何か:基本の理解
双指向マイク(ふたしこう/figure‑8)は、前方と後方の音をほぼ同等に拾い、左右(90度・270度)の方向では感度がほぼゼロになる指向性をもつマイクロフォンです。形状から一般に「フィギュアエイト(8の字)」と呼ばれ、主にプレッシャーグラディエント(圧力差)原理のトランスデューサで実現されます。これにより、前後の音を強く、横方向を抑える特性が得られます。
動作原理と物理的特徴
双指向マイクは音波が前後の面で圧力差を生むことを利用して動作します。両側からの同位相の音は加算され、側面からの音は位相差により相殺されるため、側面に対しては感度が低くなります。これはプレッシャー(単側面での圧力)ではなくプレッシャーグラディエント(両面の差)型の特性です。
この構造は以下の重要な特徴を生みます:
- 前後に対して対称的な周波数応答
- 側面に明確なノッチ(感度ゼロ点)を持つため不要な側方音を抑制できる
- 近接効果(近づくほど低域が増強される圧力差特有の現象)が顕著である
代表的な実装方式:リボンとコンデンサ
双指向パターンはリボンマイクや双面コンデンサカプセルなどで多く見られます。
- リボンマイク:薄い金属リボンを磁界内に置き、前後の音圧差でリボンが振動して出力を得る。自然な高域の穏やかさと滑らかなトーンが特徴。例:Royer R-121、Coles 4038。
- コンデンサ(双面カプセル/差動回路):背面も開放された双面カプセルや、二つのダイアフラムを組み合わせることで双指向を作る。電気的に切り替え可能な多指向性カプセルとして実装されることも多い(例:多指向切替型のスタジオ機)。
周波数特性と指向性の周波数依存性
理想的な数学的モデルでは図形は完全な8字ですが、現実のマイクでは周波数により指向性やオフ軸特性が変化します。一般に高周波では波長が短く、カプセルの物理寸法や筐体の影響で指向性がより複雑になり、サイドや後方に副ローブや位相の乱れが生じることがあります。録音においてはメーカーの周波数特性図と偏角応答(ポーラーパターン図)を確認することが重要です。
音質上の長所と短所
- 長所:
- 前後からの音をバランスよく拾えるため、対面インタビュー(人物をマイクの前後に配置する)に便利
- ブラインやMSなどのステレオ法で非常に高い空間表現を得られる
- 側方ノイズ(隣の楽器や客席など)を自然に抑えられる
- 短所:
- 近接効果が強く、近づきすぎると低域が過剰になる(ポップやボーカルでの対応が必要)
- 前後から同レベルで音を拾うため、不要な後方反射やオフマイク音も記録されることがある
- 位相管理が他のマイクと併用する場合に難しくなる(キャンセルや位相問題)
代表的な用途とマイキングテクニック
双指向マイクは以下の用途で特に有効です:
- インタビューや対談:マイクを二人の間に挟むだけで両者を効率よく拾える。
- ステレオ録音(ブライン、Blumlein):2本の双指向マイクを90度にクロスして配置するBlumleinペアは、極めて自然なステレオイメージとルームの情報を同時に得られる。ブライン(Blumlein)はスタジオや良好な響きのあるホールで特に威力を発揮する。
- Mid-Side(MS)方式:Midにカーディオイド、Sideに双指向を使い、録音後にL=Mid+Side / R=Mid-Sideのデコードでステレオ幅を自在に調整できる。このためSideの双指向は真の変調可能ステレオに不可欠である。
- アコースティック楽器の録音:ギターやピアノ、弦楽器などで楽器正面と部屋の響きを同時に得たいときに有効。
配置と距離の実践的アドバイス
- 近接効果の管理:ボーカルや楽器に近づくと低域が増えるため、必要に応じて距離を取る、あるいはマイクのイコライジングやハイパスフィルタで調整する。
- 対面インタビュー:マイク中心から双方の口元まで均等に距離を取る(例:20〜30cm程度を基準に声量により微調整)。
- Blumlein配置:二本の双指向を互いに90度クロスさせ、カプセルをほぼ同一点に置く(コインシデント配置)。部屋の響きが音像に大きく影響するので、ホールの残響を活かしたい場合に有効。
- MS配置:Midは演奏主体に、Sideは演奏方向の正面に垂直に設置する。録音後にステレオ幅を調整できるため、ライブでも柔軟に使える。
注意点とトラブルシューティング
双指向マイクを使う際の注意点をまとめます。
- ファントム電源の扱い:古典的なパッシブ・リボンマイクは不適切なファントム電源や誤配線でダメージを受けることがあります。多くの現代リボンは保護回路やアクティブ回路でファントム対応になっていますが、機種の仕様を事前に確認してください。コンデンサ型双指向は通常ファントムが必要です。
- 風・ポップ対策:双指向も他のマイク同様、息や風に弱い。ポップフィルターやウインドスクリーン、ブリッジタイプのショックマウントを使用する。
- 位相管理:他のマイクと併用する際は位相のズレやキャンセルに注意。オンマイクとルームマイクを混ぜる場合は位相合わせ(位相反転チェック、距離調整)を行う。
- 高域の扱い:リボンは高域が穏やかで、金管や弦の「きつさ」を抑えるのに有効だが、ハイハットや指先のシャープさを望む場合は別のパターンや補助マイクを併用するとよい。
マイク選定のポイントとおすすめ機種(例)
用途に応じて選びます。ナチュラルな温かさを重視するならリボン、スイッチで多指向を切り替えたいならコンデンサの多指向モデルを検討します。現場での耐久性や前段のプリアンプのゲインも考慮してください。
- リボンの例:Royer R-121(トム/ギター、自然なトーン)、Coles 4038(クラシックなブロードなサウンド)
- 多指向コンデンサの例:NeumannやAKGなどのスタジオグレード機は可変パターンで双指向を選べるモデルがある(具体的な機種は用途と予算で選定)。
実録音での活用事例
1) 対面インタビュー:単一の双指向マイク1本で両者を拾うとセッティングが簡単で自然な距離感が得られる。2) アコースティックギターとルーム:ギター前方にカーディオイド、ルームや反射を双指向で拾って混ぜ、臨場感と明瞭度を両立する。3) オーケストラや合唱:ステレオペア(Blumlein)でステージ全体のバランスとホールトーンを取得する。
よくある誤解とその対処
- 「双指向は常に背景ノイズを減らせる」:側方ノイズは抑えられるが、後方のノイズは拾ってしまう。設置方向に注意すること。
- 「リボンは高音に弱い」:真っ当な表現だが、現代のリボンは堅牢で高SPLに耐える物が多く、前提条件をチェックすれば十分にスタジオやライブで使える。
まとめ:双指向マイクを最大限活かすために
双指向マイクは特有の指向性と豊かな音像表現力を持ち、ステレオ録音や対面インタビュー、アコースティック収録などで非常に有効です。だがその特性(近接効果、後方拾い、位相感受性)を理解した上で、配置、プリアンプ、風防や位相チェックを含む運用ルールを守ることが良い結果を生みます。用途に応じてリボンかコンデンサか、あるいはマルチマイク戦略を検討してください。
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参考文献
- Shure - Polar patterns(指向性の解説)
- Sound On Sound - Recording with the Blumlein Pair(Blumleinの解説)
- Wikipedia - Mid-side recording(MS記録方式の概要)
- Neumann - Polar patterns and their characteristics(ポーラーパターンの技術解説)
- Royer Labs - Ribbons and Phantom Power(リボンとファントム電源について)
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