音楽における「AB(二部)形式」徹底解説:歴史・構造・分析・作曲・編曲への応用

AB(二部)形式とは何か

AB(二部)形式は、楽曲を大きく2つの部分、AとBに分けて構成する最も基本的な形式の一つです。西洋音楽の史的発展の中で非常に長い間用いられてきた形式で、バロック時代の舞曲から古典派の小品、さらには現代のポピュラー音楽やエレクトロニカまで幅広く応用されています。AとBは対照や展開の関係にあり、繰り返し記号や回帰の有無、調性の扱い方などによって細かく分類されます。

歴史的背景と発展

二部形式の起源は主にバロック期の舞曲(アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグ、メヌエットなど)にあります。これらの舞曲は通常A節とB節に分かれ、それぞれが繰り返される(A:||: B:||)という構成が一般的でした。古典派に入ると、二部形式はミヌエットやバリエーションの基盤として発展し、ハイドンやモーツァルトの器楽作品でも多く利用されました。その後、二部形式は発展・変形を経て、ロンドー形式やソナタ形式、さらには現代のヴァース=コーラス(A-B)構造へと影響を与えています。

二部形式の主要なタイプ

  • 単純二部(Simple Binary):AとBは明確に異なり、Aが終わるとBに移る。調性はAが主調、Bはしばしば属調や平行調へ移行するが、最後に主調に戻るとは限らない。
  • 分節的二部(Sectional Binary):Aの終わりが完全終止(主調で終わる)しており、AとBが独立したセクションとして機能する。
  • 連続的二部(Continuous Binary):Aの終わりが不完全終止(例えば属調で終わる)で、Bがそれを受けて展開し、最終的に主調へ戻ることが多い。
  • 回帰的(二部の回帰、Rounded Binary):Bの終わり近くでAの主題が部分的に戻る。形式上はA–B–(A')に近く、三部形式(A–B–A)と類似点を持つが、戻る部分は短縮される傾向がある。

楽曲分析の観点

二部形式を分析する際は、以下のポイントが重要です。

  • モチーフと対照:AとBがどのように動機的に関連するか。BがAの発展なのか、完全な対照か。
  • 調性構造:Aの調からBでどのように調が変化するか。バロック舞曲ではAが主調で終わる(分節的)場合と属調で終わる(連続的)場合がある。
  • 反復記号の扱い:A:||: B:|| のように各セクションが繰り返される場合、演奏上・形式上の影響を考える。繰り返しは小節単位の解釈や装飾(装飾音や即興的な付加)に影響する。
  • テクスチャと配置:編曲ではAとBで楽器編成やテクスチャを変えることで対照を強めることができる。たとえばAをシンプルな伴奏に、Bでフル編成にするなど。

古典派・バロックでの具体例と特徴

バロック時代の舞曲は二部形式の典型的な例です。Aセクションで動機が提示され、Bセクションでそれを発展・対位法的展開したり、調を離れて冒険したりします。よく見られる技法としては、Aの終わりを属調で終わらせてBで主調へ戻す連続的二部、またはAとBの双方が主調で終わる分節的二部があります。古典派では、二部形式はミヌエットやメヌエット的な曲想において均衡を重視し、短い回帰主体の構成(回帰的二部)を含むことが増えました。

ポピュラー音楽での応用(ヴァース=コーラスとの関係)

現代のポピュラー音楽で一般に見られるヴァース=コーラス構造は広義のA-B形式と考えられます。ヴァース(A)は物語やムードを提示し、コーラス(B)は曲のフックや最高到達点を担うことが多いです。ここでは調性の大きな転調が起きることは少ないが、アレンジやエネルギーの変化(ダイナミクス、パートの追加、エフェクト)によってAとBの差異を作り出します。また、ブリッジ(C)やアウトロを挟むことでABの枠を超えた複雑な構造(A-B-A-B-C-Bなど)になることもあります。

作曲・編曲への実践的アドバイス

  • 対比を明確にする:AとBでメロディー、リズム、和声進行、テクスチャを変える。対比が明確だと聴衆にとって把握しやすくなる。
  • 自然な移行を作る:A→Bへの橋渡しとして短い繋ぎ(transition)を用いると効果的。和声的な導音やリズムのフェードは有効。
  • 繰り返しを活かす:A:||: B:|| のように各セクションを繰り返す場合、2回目の演奏で楽器の追加や装飾を行い変化をつける。
  • モチーフの再利用:BでAのモチーフを変形させて再登場させると、統一感が生まれる(回帰的二部の手法)。
  • 編曲のテクニック:Aはクリアな帯域で、Bは低域や高域を強める、あるいは逆にBで間引くことで静と動の対比を演出する。

分析例のスケッチ(一般形)

簡単なスケッチを示すと:

  • A(8小節): 主調で提示 → A終止(完全終止または不完全終止)
  • B(8小節): 対照または発展 → 中間で転調(属調や平行調) → 終了で主調へ帰着(回帰的ならA主題の再現を含む)

このスキームは短い器楽小品や歌の一節に非常に適しており、反復や編曲の工夫で長大な構成にも発展させられます。

二部形式と他の形式との比較

二部形式は三部形式(A-B-A)と混同されがちですが、三部ではAが完全に回帰するのに対し、回帰的二部ではAの回帰は短縮的・断片的である点が異なります。ソナタ形式はさらに複雑で、提示部(exposition)、展開部(development)、再現部(recapitulation)という大きな三部構造を持ちますが、初期のソナタは二部的要素を強く残したバロックの二部形式から発展しました。

現代的応用 — エレクトロニカやEDMでの使い方

ダンスミュージックやエレクトロニカにおいては、AB構造はビルド(A)とドロップ(B)という具合にエネルギーの対比を作るために便利です。Aで緊張を蓄え、Bで解放するというドラマ作りが直感的に行えます。プロダクションの観点ではフィルやブレイクを使った接続、サイドチェインやEQでの帯域操作がA/Bの差を強調します。

まとめ — AB形式の価値と創作への示唆

二部(AB)形式は、単純ながら表現の幅が非常に広いフォーマットです。歴史的にはバロック舞曲に端を発し、古典派を経てポピュラー音楽や電子音楽に至るまで生き延びてきました。作曲や編曲においては対比と統一のバランス、調性処理、テクスチャの操作が鍵になります。初心者にとっては学びやすく、経験者にとっては高度な変形や組合せによって豊かな作品世界を作れる汎用的なツールです。

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参考文献