収音法の完全ガイド:マイク選び・配置・位相・現場別テクニック解説
収音法とは何か:定義と目的
収音法(しゅうおんほう)は、マイクロフォンや周辺機材を用いて音源の音を最適に捉える技術と方法論の総称です。単に音を拾うだけでなく、音質(周波数バランス、ダイナミクス、空間感)、ノイズ管理、ステレオイメージ、位相関係など録音結果に影響する要素を意図的にコントロールすることを目的とします。音楽制作、放送、ライブ、フィールド録音、ポッドキャストなど用途により最適解は異なりますが、基本原理は共通しています。
収音の基礎物理:音場と距離則、指向性の影響
音源からの音圧は距離に従って減衰します(逆二乗則)。理想的な自由音場では、距離を2倍にすると音圧は約6dB減少します。これを理解することで、マイクと音源の距離を音量と室内残響のバランスを取るために使えます。マイクの指向性(無指向/カーディオイド/スーパーカーディオイド/フィギュア8など)は受ける音の比率とオフアクシス特性に影響し、近接効果(指向性マイクで低域が増強される現象)やオフアクシスの色付きを生みます。
マイクの種類と特性:用途別の選び方
用途に応じたマイク選定は収音法の出発点です。以下は主要タイプと一般的用途です。
- ダイナミックマイク:耐入力性高くライブでのボーカルやドラムのスネアに適する。感度は低めで耐久性が高い。
- コンデンサーマイク:高感度・広帯域でスタジオ録音のボーカルやアコースティック楽器に好適。ファンタム電源が必要。
- リボンマイク:ナチュラルな高域の滑らかさと音色でギターアンプや気品あるボーカルに使われるが耐入力に注意。
- ラベリア/ショットガン:フィールド録音、映像収録向け。指向性が強いショットガンは遠方の音源を狙える。
- バウンダリ(PZM):舞台や会議での残響の拾い方に特徴。床や壁に設置して使う。
加えて、極性パターン(無指向性、単一指向、双指向)と周波数特性、感度、最大SPLなどの仕様を比較して用途を決定します。
ステレオ収音テクニック:実践的な法則と代表方式
ステレオ録音では空間情報をどう捉えるかが重要です。代表的な方式と特徴は以下の通りです。
- XY(コインシデント):2本の単一指向マイクをほぼ同位置で角度を付けて配置(一般に90°前後)。位相問題が少なく定位が明確。
- ORTF:2本の指向マイクを17cm間隔、110°の角度で配置。自然なステレオ幅と指向性を両立するラジオ放送由来の方式。
- AB(スぺースドペア):間隔を持たせた2本のマイクで時間差によるステレオ感を作る。センターの定位はやや不確定になりやすい。
- ブラムライン(Blumlein):2本のフィギュア8を90°で配置。高い空間再現性を持ち、ステレオイメージが豊か。
- Mid-Side(MS):単一指向のMidとフィギュア8のSideを組合せ、後処理でステレオ幅を自在に調整可能。
実務では録音現場、楽器編成、目的(モノラル互換性、編集のしやすさ)を考え方式を決めます。
現場別・楽器別の収音テクニック(実践編)
以下は代表的な現場ごとの実践的なノウハウです。
- スタジオボーカル:コンデンサーを1本の距離20〜30cm程度から立て、ポップフィルターとショックマウントを併用。ポップや息音を抑える。近接効果を意図的に使う場合は距離を10cm以内にする。
- アコースティックギター:12フレット付近を狙う場合が多い(味付けが良い)—ボディの近く(低域)とサウンドホール付近(低域過剰に注意)を混ぜるために2本立てることもある。
- ドラムキット:キック、スネア等のクローズとオーバーヘッドで全体像を作る。オーバーヘッドはXYやORTFを基準にして位相を確認。キックには専用の低域に強いダイナミックやホールインワンマイクを使用。
- ライブ(PAとは別の録音):ステージサウンドとアンビエンスを分離して収録する。フロントオブハウスの信号を分岐して録音する場合は位相と位相反転に注意。
- フィールド録音:風防(ウィンドジャマー)を必須とし、ショットガンで指向性を確保。環境の音(交通、電源ノイズ)を確認し、必要に応じてタイミングや場所を変える。
マルチマイク収音の位相問題と対処法
複数マイクを併用する際は位相(タイミング差)による干渉が発生しやすく、これが音の抜けや薄さ(コームフィルタリング)を生みます。基本的な対処法は以下の通りです。
- 距離ルール(3:1ルール):近接マイクと隣接マイクの距離比を3:1以上に保つことで、収音される直接音と漏れ(リーク)の比率を有利にする。
- 位相反転チェック:ミックス時に個々のトラックをモノラルで再生して位相をチェック、問題があればトラックの位相を反転して確認する。
- 時間整合:DAW上で波形を拡大して目視で揃えるか、サンプル単位でノジット(nudge)して遅延を補正する。自動的には位相アライメントプラグインを使う手も有効。
- コンデンサ/ダイナミックの特性差:位相はマイク素子の内部設計でも変わるため、同じ指向性・メーカー・モデルを近接配置で混用する場合は注意が必要。
収音時の信号処理と録りの段階でできる改善
良い録音は後処理が楽になります。録音時にできること:
- ゲイン構成:過入力を避けつつ十分なSNRを確保するためにプリ段で適切なゲイン設定を行う。
- ハイパスフィルタ(ローカット):低域の不要な風や振動を録らないように80〜120Hz付近から段階的に適用。ただし楽器の低域成分を削らないよう注意。
- ダイナミクス管理:ブラインドでコンプレッションを強くかけると位相やトランジェントに悪影響があるため、録音段階では硬くならない程度に留める。
- メタデータ記録:マイク種類、位置、高さ、ケーブル経路、プリ設定を記録して編集や再録時に再現可能にする。
ポストプロダクションでの留意点:EQ・コンプ・空間処理
編集段階での注意点は、録りの意図を尊重しつつ問題を修正することです。低域の混濁はEQでカットし、不要なピークはシェルビングやノッチで対処します。位相問題が残る場合は時間整合プラグインやステレオ幅の操縦(MS処理)で対応します。リバーブは録音時の空間感と矛盾しないようプリセットを選び、残響時間(RT60)やEQを微調整して自然な奥行きを作ります。
実践チェックリストとトラブルシューティング
録音前のチェックリスト例:
- マイクの極性と指向性は目的に合っているか。
- ケーブル、コネクタ、ファンタム電源は正常か。
- 録音レベルはクリップしていないか、かつ十分な余裕(+6〜10dBヘッドルーム)を確保しているか。
- 位相チェック(モノラルでの確認)を行ったか。
- 風や床振動を物理的に対策しているか。
よくある問題と対処:
- 薄い音/定位が不明瞭:位相反転か時間差の問題。モノラルでの確認と時間調整を実施。
- 低域が濁る:近接効果、部屋の低域共振、過剰なローゲイン。HPFやEQで整理、マイク位置を調整。
- 不要な室内反射が目立つ:吸音パネルやブラインダーで処理、マイクを近づけて直接音比を増やす。
法的・倫理的配慮と現場での注意点
フィールド録音やライブ収録では被写体や出演者の同意、プライバシー、著作権に配慮する必要があります。公共の場での録音は国・地域の法律に従い、インタビューや会話の録音は必ず許可を得ましょう。また、電源ノイズ(50/60Hz)、携帯ノイズ(RF)、交通や工事の騒音など外的要因を事前に調査し、時間帯やマイク配置で対策します。
まとめ:録音は設計と検証の反復作業
収音法は理論知識(音響物理、マイク設計)と現場での経験(配置、室内音響、対処法)の組合せです。目的に応じたマイク選定、適切な距離と角度、位相管理、現場でのチェックリストの運用を徹底すれば、編集やミックスの負担を大きく減らせます。録音は『良い素材を作る』作業であり、後処理でいくらでも補えるわけではないことを常に念頭に置いてください。
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参考文献
- Shure - Microphone techniques(Shure公式)
- Neumann - Microphone Techniques(Neumann公式)
- Sound On Sound - Microphone polar patterns(解説記事)
- Sound On Sound - Mid/Side recording(解説記事)
- John Eargle, The Microphone Book(書籍)
- Audio Engineering Society(AES)公式サイト(論文・技術資料)
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