ORTFステレオ法の全貌:歴史・原理・実践テクニックと他手法との比較
ORTFとは何か
ORTFは、フランスの放送機関 Office de Radiodiffusion Télévision Française(ORTF)が1950〜60年代に実用化・普及させたステレオ録音マイク配置の一つです。正式には「ORTFステレオ法(ORTF stereo technique)」と呼ばれ、2本の単一指向性(一般的にはカーディオイド)マイクロホンを用い、カプセル中心間隔を約17cm、対向角を約110度に設定するのが標準です。
技術的仕様と原理
ORTFの代表的仕様は次の通りです。
- マイクロホンの指向性:カーディオイドが一般的(他の指向性でも応用可能)
- カプセル間の中心距離:約17センチメートル(人間の頭部の耳間距離に近い)
- 左右マイクの角度:約110度(左右に55度ずつ傾けるイメージ)
この配置は「ニアコインシデント(near-coincident)」方式に分類されます。マイクカプセルが物理的に離れているため、左右チャネル間に音の到達時間差(位相差・タイムディファレンス)が生じます。同時に角度差によるレベル差(レベルディファレンス)も組み合わさるため、人間の定位感に近い自然なステレオイメージを生成できます。耳の物理的構造を模倣する点が設計思想の核です。
音響的特徴と利点
ORTF方式の主な音響特徴と利点は次のとおりです。
- 自然な定位感:位相差とレベル差がバランスして働くため、前方定位やステレオ幅が自然に感じられることが多いです。
- 良好なモノラル互換性:完全に離れたスペースマイク(例:広い間隔のステレオペア)ほど位相問題が顕著にならず、モノに合成した際の位相干渉による音の消失が比較的少ない傾向があります。
- 音場の奥行き表現:位相差があることで残響や反射の時間的差を表現しやすく、空間の奥行きを感じさせます。
- 汎用性:室内楽、アコースティック楽器のアンサンブル、オーケストラ、コーラス、現場録音など幅広い場面で使えます。
欠点と注意点
有利な点が多い一方で、ORTFには注意すべき欠点もあります。
- センタールーティングの弱さ:完全な中央定位(例えば指揮者の直接音など)を特に強調したい場合は、より密接なコインシデント技法(M/SやXY)が有利になることがあります。
- 近接成分の扱い:非常に近いマイク配置に比べると、近接音(ソロ歌手や単独楽器)にはやや距離感が出やすく、別途スポットマイクが必要になる場合があります。
- 設置の制約:許容される高さや向きで音場の捉え方が大きく変わるため、適切な位置決めとルームバランスの把握が必要です。
実践的なセッティングと使い方
具体的な録音現場での手順とポイントを挙げます。
- スタンドとラック:専用のORTFブラケット(2本のマイクを所定の角度と距離で保持する金具)を使うと迅速に再現可能です。ブラケットがない場合は距離と角度をメジャーと角度計で正確に取ることが重要です。
- 高さと位置:室内楽や合唱では、指揮者の位置か演奏者の中央上空1〜3m程度に設置することが多いです。ホール録音では会場の残響と直接音の比率を見ながら高さを決めます。
- マイクの選択:同一モデルで揃えること。周波数特性や指向性のマッチングが定位と音色の均一性に直結します。
- チェック事項:録音前にモノラルとステレオの両方で確認し、位相問題や左右バランス、定位の中央寄り/広がりをチェックします。
混同しやすい他のステレオ方式との比較
主な近接・ニアコインシデント・コインシデント方式との違いを簡潔に示します。
- XY(コインシデント)方式:カプセルが同一点に位置し、角度だけでステレオを作る。位相差がないためモノ互換性は高いが、奥行き感が控えめ。
- NOS(ニアコインシデント):30cm間隔、90度が標準。ORTFに比べてやや広めの間隔で、定位や広がりの出方が異なる。
- Blumlein(コインシデント、フィギュア8):立体的で自然な空間表現に優れるが、指向性や設置で扱いが難しい面もある。
- Decca Tree(スパースアレイ):複数のオムニマイクを用いる方式で、広いオーケストラ録音に威力を発揮する。ORTFよりさらに広い音場をキャプチャするが機材とスペースが必要。
録音後の処理と活用のコツ
ORTFで録った素材はミックスや編集で有利に働くことが多いです。ステレオイメージの調整は慎重に行い、極端なステレオワイドニング処理は位相問題を誘発するため注意してください。必要に応じてスポットマイクを追加して前景の音を補強し、ルームマイクとブレンドすることで自然さを保ちながら明瞭さを確保できます。
実際の使用例
ORTFはラジオ放送、室内楽のライブ録音、アコースティックギターのレコーディング、合唱や小規模オーケストラのステレオ収録でよく用いられます。放送局がリスナーに自然な音像を届ける目的で採用した歴史的背景から、現代でもフィールドレコーディングやプロジェクトスタジオで人気があります。
まとめ
ORTFは「自然なステレオ感」「良好なモノラル互換性」「実用的で再現しやすいセッティング」を兼ね備えた汎用性の高いステレオ録音技法です。万能ではありませんが、ルーム特性とマイク配置を理解し適切に設置すれば、非常に説得力のあるステレオイメージを得られます。録音目的に応じて他方式と使い分けるのが最良のアプローチです。
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参考文献
- ORTF stereo technique - Wikipedia
- Office de Radiodiffusion Télévision Française - Wikipedia
- ORTF Stereo Mic Technique - Sound On Sound
- ORTF Stereo Recording Technique - Shure
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