アンドレ・コステラネッツの人気アレンジ12選:イージーリスニングの名匠
アンドレ・コステラネッツ(Andre Kostelanetz, 1901–1980)は、ロシア生まれのアメリカ人指揮者・編曲家であり、20世紀中盤に「イージーリスニング」と呼ばれるジャンルを牽引した人物です。彼はクラシック音楽とポピュラー音楽を融合させたオーケストラ・サウンドを特徴とし、映画やブロードウェイのヒット曲を華やかなストリングスやホーン・アンサンブルで再構築する手法を得意としました。本稿では、彼の代表的な「人気曲」とされる楽曲を取り上げ、それぞれのオリジナル楽曲や映画・ミュージカルの背景、そしてコステラネッツによるアレンジの特徴を解説します。
アンドレ・コステラネッツの人物像と音楽性
アンドレ・コステラネッツ(本名:アンドレイ・ワシリー・コステラネッツ)は、1901年にロシア帝国(現在のウクライナ)キエフに生まれ、若い頃にアメリカへ移住しました。ウィーンでピアノを学び、のちにニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者としても活躍しましたが、最も広く知られるのはポピュラー歌曲や映画音楽を大規模オーケストラで華麗に編曲し、ラジオ番組やレコードで多くの人々に親しまれた点です。
彼は単に既存の楽曲をカバーするだけでなく、新進作曲家や現代作家に委嘱作品を依頼し、アーロン・コープランドの『リンカーン・ポートレート』やジェローム・カーンの『マーク・トウェインの肖像』など、多くの初演を手掛けました。これにより、クラシックとポピュラーの境界を曖昧にし、「聴きやすくもあり深みもある」サウンドを生み出しました。
人気曲一覧と解説
以下では、代表的な12曲を取り上げ、それぞれのオリジナル曲や映画・ミュージカル作品、そしてコステラネッツによるオーケストラ・アレンジのポイントを紹介します。ここで取り上げる曲は、アルバム『16 Most Requested Songs』に収録された楽曲を中心に選定しています。
1. My Favorite Things(『サウンド・オブ・ミュージック』より)
オリジナル:リチャード・ロジャース(作曲)/オスカー・ハマースタインII(作詞)による1959年のミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』のナンバーです。マリア役の初演はメアリー・マーティンとパトリシア・ニュウェイが務めました。
コステラネッツは1962年のアルバム『Broadway’s Greatest Hits』で管弦楽編曲版を録音し、軽快なストリングスとホルンが特徴的な壮麗なアンサンブルに仕立てています。
- コステラネッツ版の特徴:原曲のウィットに富んだリリック(「雨のしずく、雪のかすみ」など)をストリングスの旋律に置き換えつつ、曲中盤でホルンがメロディを受け継ぐ流れはドラマティックです。オリジナルが抱く「優しい慰め」のイメージを保ちつつ、よりダイナミックな演奏空間を作り上げています。
2. Theme From “Love Story”(『ラブ・ストーリー』のテーマ)
オリジナル:フランシス・レイが作曲した1970年公開の映画『ラブ・ストーリー』のテーマ曲です。フランシス・レイ自身によるアコースティック・ギターとオーケストラが印象的で、同年のアカデミー作曲賞にノミネートされました。
コステラネッツは1971年に『Love Story』(アルバム)をリリースし、自身のオーケストラ・アレンジでメインテーマを取り上げました。
- コステラネッツ版の特徴:原曲におけるギターや弦楽器の親密なニュアンスを、ストリングスと木管・金管セクションで再現。特に冒頭の柔らかいアルペジオ風ピアノ導入部から、徐々に弦が重なりあってクライマックスへと至る構成が特徴的です。
3. Theme From “Romeo And Juliet”(『ロミオとジュリエット』のテーマ)
オリジナル:映画『ロミオとジュリエット』(1968年公開、フランシス・レイ作曲)のテーマ曲「愛のテーマ(Love Theme)」です。フランシス・レイの哀愁を帯びたメロディは世界的にヒットし、多くのアーティストにカバーされました。
コステラネッツは1969年のアルバム『Traces』や1970年の『Greatest Hits of the ’60s』などでこのテーマを取り上げ、オーケストラ・アレンジを発表しています。
- コステラネッツ版の特徴:「愛のテーマ」の繊細な旋律を、温かなストリングスと優美なホルンのハーモニーで構築。原曲の甘美な要素を損なわず、なおかつオーケストラ全体で盛り上げる豪華なサウンドが印象的です。
4. The Way We Were(『ある愛の詩』のテーマ)
オリジナル:マーヴィン・ハムリッシュ作曲、アラン・バーンスタイン作詞による1973年の映画『ある愛の詩(The Way We Were)』主題歌。バーブラ・ストライサンドの歌唱によって大ヒットし、グラミー賞やアカデミー賞を受賞しました。
コステラネッツは1974年に自身のアルバム『The Way We Were』で、この楽曲を器楽版として編曲。しっとりとした弦楽アレンジと、ホルンや木管の寂しげなソロが特徴です。
- コステラネッツ版の特徴:原曲の切ないムードを尊重しつつ、オーケストラ全体でドラマティックに表現。特にサビ部分の「思い出す あの頃の私たち」という旋律を弦が追いかけるように演奏し、聴き手の感情を揺さぶります。
5. All The Things You Are(ジャズ・スタンダード)
オリジナル:ジェローム・カーン作曲、オスカー・ハマースタインII作詞による1939年のミュージカル『ジェローム・カーンのミュージカル・ショーストッパーズ』(第2幕)から誕生したジャズ・スタンダードです。過去、ナット・キング・コール、チャーリー・パーカーらが取り上げ、広く知られています。
コステラネッツは1962年のアルバム『16 Most Requested Songs』でオーケストラ版を収録し、メロディを主要にストリングスと木管を交えたアンサンブルで演奏しています。
- コステラネッツ版の特徴:本来ジャズ・コンボによる即興演奏が中心の曲を、ベースラインを強めに打ち出した管弦楽編成で再構築。弦楽器がメロディを奏でる一方で、木管がアクセントを加え、洗練された「イージーリスニング・ジャズ」として仕上げています。
6. Tenderly(トレンダリー)
オリジナル:ウォルター・ロビンソン作曲、ジャック・アラノフ作詞による1946年のジャズ・バラード。サラ・ウォーン、ケミュエル・ベイカーらがヒットさせ、後に多くのジャズ歌手・演奏家に愛される曲となりました。
コステラネッツは1962年のアルバム『16 Most Requested Songs』にオーケストラ版を録音し、ゆったりとしたテンポで弦楽器のソロを強調しています。
- コステラネッツ版の特徴:ジャズ・ボーカルの歌心を、管弦楽の中で再現。弦楽器がまるで歌うかのようにメロディを奏で、間奏ではクラリネットやホルンが柔らかなソロを挿入。ロマンティックなムードを強調するアレンジです。
7. Tonight(『ウエストサイド物語』より)
オリジナル:レナード・バーンスタイン作曲、ステファン・ソンドハイム作詞による1957年のミュージカル『ウエストサイド物語(West Side Story)』から生まれたナンバーです。ロマンチックかつ切なさを帯びた旋律が特徴で、多くのアーティストが取り上げました。
コステラネッツは1962年頃から複数のアルバムで『Tonight』を収録しており、1959年の芝居上演後すぐに世界的に有名になった楽曲を、ストリングスと金管・木管の絶妙なハーモニーで演奏しています。
- コステラネッツ版の特徴:原曲のオペラ的要素を維持しつつ、ゆったりとしたテンポに再構築。緊張感のある導入から、弦楽器がメインテーマを繰り返しながら徐々に盛り上げ、クライマックスでホルンがメロディを力強く奏でる構成になっています。
8. Bolero(ラヴェル『ボレロ』)
オリジナル:モーリス・ラヴェル作曲の管弦楽曲『ボレロ』(1928年初演)。繰り返されるリズムと徐々に盛り上がるオーケストレーションが特徴で、クラシック音楽における傑作のひとつです。
コステラネッツは1956年のアルバム『Bolero!』でこの曲をレコーディングしました。原典の構成はほぼそのままですが、イージーリスニング的な要素としてテンポを若干落とし、弦をより豊かに響かせることで「聴きやすいラヴェル」を実現しています。
- コステラネッツ版の特徴:オリジナルのスネアドラムによるリズムを、軽やかなパーカッションで代替。弦楽器のアンサンブルを中心に、原曲の躍動感を保ちながらも、柔らかい音色で始まり、クライマックスまでテンションを徐々に高めていく演出が印象的です。
9. Love Theme from “The Godfather”(『ゴッドファーザー』の愛のテーマ)
オリジナル:ニーノ・ロータ作曲の1972年公開の映画『ゴッドファーザー』のメイン・テーマ(“Speak Softly Love” としても知られる)。同年のアカデミー作曲賞受賞曲です。
コステラネッツは1972年にアルバム『Love Theme from “The Godfather”』をリリースし、自身のオーケストラ編成で収録しました。
- コステラネッツ版の特徴:原曲の耽美的なギターイントロを、ストリングスとハープで再現。徐々に金管楽器が合流し、オリジナルの持つ哀愁と重厚感を、オーケストラ全体でドラマティックに表現しています。
10. Tara’s Theme(『風と共に去りぬ』のテーマ)
オリジナル:マックス・スタイナー作曲による1939年公開の映画『風と共に去りぬ(Gone with the Wind)』のメイン・テーマです。壮大かつ叙情的な旋律で知られ、映画史における名曲のひとつとされます。
コステラネッツは1962年頃からアルバムに収録しており、原曲のシンフォニックな構造をイージーリスニング向けにアレンジ。弦楽器の美しいメロディラインと、木管・ホルンによる間奏が特徴です。
- コステラネッツ版の特徴:オリジナルの壮麗さを損なわず、全体をややゆったりとしたテンポにすることで「聴きやすい映画音楽」として仕上げています。サビにあたる部分では弦楽器が波のように重なり合い、ホルンが主題を受け継いでいく構成です。
11. The Impossible Dream (The Quest)(『ドン・キホーテ』のナンバー)
オリジナル:ミッチ・リーソン作詞、ジョー・ダーバー作曲による1965年のミュージカル『ドン・キホーテ』のナンバーで、後にジャック・ジョーンズによるカバーも知られます。
コステラネッツは1962年頃から複数のベスト・アルバムで取り上げ、ストリングスとホルンを主体としたドラマティックなオーケストラ編成で演奏しています。
- コステラネッツ版の特徴:原曲の「不可能な夢を追う」情熱を、オーケストラ全体で表現。弦楽器がメインテーマを力強く奏で、木管や金管が合流して盛り上がりを演出することで、「壮大なクエスト感」が強調されています。
12. Love Is Blue (L’Amour Est Bleu)(『愛は限りなく』)
オリジナル:フランソワ・ド・ルーベ(作曲)、ピエール・リュネ(作詞)による1967年の楽曲で、バージニア・マクルーヴが歌ったヴァージョンが特に有名です。ポール・モーリアのインストゥルメンタル・カバーが全米チャートを席巻しました。
コステラネッツは1968年頃のベスト・アルバム『Greatest Hits of the ’60s』で取り上げ、温かみのある弦楽器アンサンブルとハープのアルペジオで編曲しています。
- コステラネッツ版の特徴:オリジナルの「切ないラブ・バラード感」を重視しつつ、ストリングスが主旋律をなぞり、途中でマリンバ的な打楽器や木管が柔らかい色合いを添えます。ラストはハープと弦が徐々にフェードアウトし、余韻を残す構成です。
おわりに
本稿では、アンドレ・コステラネッツが「イージーリスニング」の旗手としてレパートリーとした代表的な楽曲12曲を紹介しました。オリジナル・バージョンの魅力を損なわずに、彼独自の「豊潤なストリングス」と「ドラマティックなオーケストラ構築」で再解釈されたこれらの楽曲は、多くのリスナーに親しまれ、現在でも再評価され続けています。これらを通じて、コステラネッツの編曲手法や音楽性の奥深さを感じていただければ幸いです。
参考文献
https://en.wikipedia.org/wiki/Andre_Kostelanetz
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