ウェイン・ショーター入門:代表作・名盤で学ぶ聴き方と作曲の魅力
イントロダクション — 20世紀後半を貫いた「モダン・ジャズの詩人」
ウェイン・ショーター(Wayne Shorter)は、1933年生まれ(ニュージャージー州ニューアーク出身)で、2023年に逝去したアメリカのサキソフォニスト/作曲家です。彼はテナーおよびソプラノ・サクソフォン奏者としてだけでなく、作曲家としてジャズの語法そのものに大きな影響を与えました。マイルス・デイヴィスのセカンド・クインテット(1960年代中期)での活動、ジョー・ザヴィヌルと創設したフュージョン・グループWeather Report(1970年代)での挑戦、そして晩年の精緻で瞑想的なクァルテット活動まで、そのキャリアは常に革新と深い詩情に満ちていました。
経歴の概観(要点)
- 出自と学び:ニューアーク生まれ。若い頃から音楽教育を受け、のちにプロとしてのキャリアをスタート。
- 初期の台頭:ホレス・シルヴァー、アート・ブレイキーらと共演し、ハードバップ期に名をあげる。
- マイルス・デイヴィス加入:1964年ごろからマイルスのセカンド・クインテットの主要メンバーとなり、グループのサウンド形成に大きく寄与。
- Weather Report:1970年代にジョー・ザヴィヌルと共同で結成し、ジャズとロック/電子音楽を融合する先駆的グループを展開。
- リーダー活動と晩年:Blue Note/Verveなどで多くのリーダー作を発表。晩年のクァルテット(ダニーロ・ペレス、ジョン・パティトゥッチ、ブライアン・ブレイド等)での演奏は高い評価を受けた。
演奏表現の特徴
- 音色:乾いた木質的で落ち着いたトーン。無駄な装飾を排し、強い個性と内省的な暖かさを併せ持つ。
- フレージング:シンプルなモチーフを繰り返し変形させる手法、間(あいだ)を活かす間接的な語り口。直線的に行かず、意外な小節・音程に転じることで物語性を生む。
- 和声観:伝統的なジャズ・コード進行に縛られない、モーダル/非機能的な和声への志向。短いモチーフに新たな意味を与えるようなコード・セットの使い方が特徴的。
- 即興と構成:即興は単なる「ソロ」ではなく、全体の構造を意識した「語り」。リズム隊との相互作用(対話)を重視するため、バンドの音像が一つの有機体として成長する。
作曲家としての魅力 — なぜ彼の曲が「標準」になるのか
ショーターの魅力は演奏技術だけでなく、作曲そのものにあります。彼の曲は即興のための「足場」を与えつつ、同時に独立した音楽作品として聴き手の印象に残るメロディと構成を持っています。以下が主な特長です。
- 短く印象的なモチーフ:耳に残るが単純すぎない主題。繰り返しの変化で物語を進める。
- 調性とモードの遊び:機能和声に依存しないため、演奏ごとに異なる解釈が生まれやすい。
- リズムと間の使い方:拍感を動かしたり、あえて余白を残すことで緊張と解放を創出する。
- 楽曲の「彫りの深さ」:1フレーズには多層的な意味が込められており、何度も聴くごとに新たな発見がある。
代表作・名盤(聴いておきたい作品)
ここではリーダー作、共演作、バンド作の中から、入門〜深堀りに適した盤を紹介します。
- Speak No Evil(リーダー作) — ショーターの作曲・アレンジ能力が凝縮された名盤。ポスト・バップの金字塔。
- Night Dreamer / JuJu / The All-Seeing Eye(リーダー作群) — 1960年代中盤の傑作群。個性的な音楽観が芽吹く時期を示す。
- Miles Davis(E.S.P., Miles Smiles, Nefertiti 他/共演) — マイルスのセカンド・クインテットでの活動は、現代ジャズの方向性に大きな影響を与えた。ショーターの作・演奏が多数含まれる。
- Weather Report(Mysterious Traveller, Heavy Weather 等) — フュージョン期の実験と音響美学。バンドとしてのダイナミクスとアンサンブル感が光る。
- Alegría / Beyond the Sound Barrier / Footprints Live!(晩年のクァルテット) — ダニーロ・ペレスらと創った緊密で現代的な四重奏は、精神性と即興の深さを兼ね備える。
- Emanon(後期の野心作) — クァルテットにオーケストラを加えた大作。短いフレーズから宇宙的な広がりを作る創作姿勢が伺える。
影響力と継承
ショーターの影響は幅広いです。現代のサキソフォン奏者や作曲家はもちろん、バンド・リーダーのアレンジ術、グループのインタープレイ、さらにはフュージョン以降のサウンド造形にも多大な影響を残しました。彼の作品はスタンダードとして世界中のミュージシャンに演奏され続けており、その楽曲の「余白」を活かすアプローチは当代随一と言えます。
聴き方・楽しみ方(ポイント)
- テーマを堪能する:ショーターの曲は短い主題が鍵になることが多い。まずはテーマ(ヘッド)をよく聴いて、それがどのように変容するかを追ってみてください。
- アンサンブルに注目する:彼は個人のソロだけで完結させない。リズム隊やピアノとの対話の中に核心があるので、全体像を意識すること。
- 繰り返し聴く:一回で全てを理解しようとしない。繰り返すほど、和声的・リズム的な“仕掛け”が見えてきます。
- 時代ごとの差異を比較する:マイルス期のミニマルな緊張感、Weather Reportのテクスチャ重視、晩年クァルテットの深い対話。それぞれの時期を比較するとショーターの多面性が理解できます。
人となりと哲学
ショーターは音楽家である以前に「語り手」でした。楽曲に込められた物語性、精神性、絵画的なイメージ志向──彼はしばしば音楽を通して哲学や夢、神話的なテーマに触れました。また絵画や視覚芸術、宗教的/精神的探求にも関心があり、それらが音楽に反映されています。派手さではなく「深み」のある表現を追求した人物像が浮かび上がります。
結び — 何故ショーターを聴き続けるのか
ショーターの音楽は、単に「テクニックや新奇性」を示すものではなく、聴き手の感受性を深め、時には無言の感動を残します。メロディの簡潔さ、和声の曖昧さ、アンサンブルの有機性──これらが合わさって、彼の作品は世代を超えた普遍性を帯びています。ジャズを学ぶ人、深く味わいたいリスナー、作曲や即興に興味がある人、すべてにとって、ショーターの音楽は学びと感動の源泉です。
代表トラック(入門プレイリスト例)
- 「Speak No Evil」(タイトル曲) — 代表的なリーダー作のテーマ。
- 「Footprints」 — マイルス・デイヴィス盤やショーター自身の演奏で繰り返し演奏される名作。
- 「Nefertiti」 — マイルス・クインテットでの独特なアンサンブル運びを感じられる一曲。
- Weather Reportの「Black Market」や「Birdland」周辺の曲(バンドとしてのサウンドを味わう)
- 晩年クァルテットのライヴ録音(例:「Footprints Live!」など) — 現代における即興の到達点を聴ける。
参考文献
- ウェイン・ショーター - Wikipedia(日本語)
- Wayne Shorter - Wikipedia(English)
- Wayne Shorter obituary — The New York Times
- Blue Note: Wayne Shorter artist page
- Official Wayne Shorter website
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