Tito Schipa入門:抒情テノールの必聴レコード5選と盤選びのコツ
はじめに
Tito Schipa(ティート・シピャ、1888–1965)は20世紀前半に活躍したイタリアの抒情テノールの巨匠です。やわらかく歌う「歌う声(voce cantabile)」の美しさ、細やかなフレージングと優れたイタリックな発音で知られ、特にドニゼッティらのベル・カント作品やナポリ民謡・ロマンツァ類で高い評価を受けました。本コラムでは「聴くべきレコード」を軸に、各盤の聴きどころと選び方の観点を深掘りして紹介します。
Tito Schipaの特徴 — 何が特別だったか
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声質:やわらかく温かい明るいリリック・テノール。必要以上にドラマティックにならず、音の繋がり(レガート)と透明なフォルテ・ピアノの対比に優れました。
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表現:ディクションが明瞭で、文節ごとの意味づけや息遣いによる表現の幅が豊か。小さな音での語りかけるような表現(インティマシー)が得意です。
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レパートリー:ドニゼッティ等のベル・カントからイタリア歌曲・ナポリ民謡、ラジオやサロン曲まで幅広く録音。劇的な大声量よりも「歌の美しさ」を追求した歌手でした。
おすすめレコード(厳選5)
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「Schipa:アンソロジー/コンピレーション盤(歴史的録音集)」
解説:78回転時代のスタジオ録音やラジオ音源を集めた総合的なアンソロジーは、シピャの芸風を俯瞰するのに最適です。複数のレーベル(Marston、Preiser、Pearl、EMIなど)から質の良いリマスター盤が出ています。収録曲はオペラのアリア、ロマンツァ、ナポリ民謡など多岐にわたり、歌い口やディクションの妙を一枚で楽しめます。
聴きどころ:短い録音断片の中にも見える細やかな息づかい、アーティキュレーション。時代音響ながら表現力で没入できます。
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「ドニゼッティ:『愛の妙薬(L'elisir d'amore)』など、シピャが歌う代表アリア収録の盤」
解説:特に「Una furtiva lagrima(ひそかな涙)」はシピャの代表レパートリーの一つで、彼の繊細なピアニッシモ表現とレガートが最大限に活きます。フル・オペラ盤が見つかれば理想的ですが、アリア集でも十分に満足できます。
聴きどころ:アリア前後の余白や呼吸の扱い、歌詞の語尾の処理など、演技的ではなく音楽的な「語り」の妙に注目して聴いてください。
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「ナポリ民謡/Canzoni napoletane のリサイタル盤」
解説:シピャはナポリ民謡の解釈でも高く評価されています。スタジオ録音やラジオ・ライブでのナポリ曲集は、彼の親密で語りかけるような歌い方がポピュラー曲にどう適用されるかを知るのに有用です。
聴きどころ:言葉のニュアンス、フレーズの仕切り方、控えめながら感情のこもった語り口。クラシックのテクニックがポピュラー曲に溶け込む好例です。
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「ロマンツァ/サロン曲集(イタリア語歌曲・室内的ナンバー)」
解説:シピャの美点は大きな舞台だけでなく小品の中でも発揮されます。ロマンツァやサロン向けの歌曲集では、より緻密なダイナミクスと微妙な語尾処理を見ることができます。音質の良いリマスター盤を選ぶと、細部がよくわかります。
聴きどころ:一音一音の語感、語尾の余韻、ピアニッシモのコントロール。
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「放送/ライヴ録音の復刻盤(RAIなどのラジオ・アーカイブ)」
解説:スタジオ録音では見えにくい舞台上の即興性や聴衆とのやり取りを感じられるのがライヴ音源の魅力です。復刻盤として出ることがあり、音質は様々ですが歴史的価値と芸の生々しさは格別です。
聴きどころ:舞台でのテンポ処理、余韻の伸ばし方、歌と演技のバランス。
盤選びのポイント(リイシューや中古で探すとき)
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リマスター品質を確認する:歴史的録音はノイズ除去やイコライジングの差が大きく、自然な音色を保った良いリマスターを選ぶと表情が豊かに聴こえます。レビューやライナーノーツを参照しましょう。
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解説(ライナーノーツ)の有無:録音年代や共演者、録音状況の情報があると聴き取りが深まります。信頼できる編集(Preiser、Marston、Pearl、EMI系の歴史音源企画など)が望ましいです。
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収録内容の重複に注意:複数のコンピレーションが存在するため、所持曲や未収録曲の違いをチェックして、目的に合った盤を選んでください。
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オペラ全曲盤を狙うかアンソロジーで俯瞰するか:オペラ全曲盤は役柄を総体的に聴ける利点、アンソロジーは多様な曲種を短時間で体験できる利点があります。
代表曲・必聴トラック(入門ガイド)
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Una furtiva lagrima(ドニゼッティ『愛の妙薬』より) — シピャの代表的なアリア。繊細なピアニッシモとレガートの美しさを堪能できる一曲。
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ナポリ民謡(各種) — 言葉の温度や抑揚のつけ方が際立ち、ポピュラー領域での表現力を味わえます。
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ロマンツァ系の小品(イタリア歌曲) — 声の色合いや語り口の微妙な差がわかりやすいので、シピャの魅力を理解するのに最適。
シピャを深く聴くための聞き方アドバイス
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短いフレーズごとに注意を向ける:大声量や劇的効果ではなく、フレージングの中の息づかいや語尾の処理に耳を傾けると発見が多いです。
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複数録音を比較する:同じアリアや歌を時期違いで聴き比べると解釈の変化や成熟の跡が見えます(若い頃の鮮やかさと晩年の語りかけるような表現など)。
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共演者や伴奏の違いにも注目:ピアノ伴奏の細かなニュアンス、指揮とオーケストラの伴奏処理が歌に与える影響を確認しましょう。
まとめ
Tito Schipaは「声そのものの美しさ」と「言葉を歌で伝える力」に長けた歌手です。まずは良好なリマスターによるアンソロジーで彼のスタイルを俯瞰し、その後にナポリ曲集やオペラのアリア/全曲盤、さらに放送・ライヴ録音へと進むと、より立体的に彼の魅力が感じられます。音量や派手さではなく「聴き方の密度」が報われる歌手なので、静かに耳を澄まして聴くことをおすすめします。
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