スワップインとは?原因・性能影響・Linux/Windowsでの監視と対策を徹底解説
スワップインとは — 基本定義
スワップイン(swap-in)とは、仮想メモリ管理において、ディスク上のスワップ領域(スワップファイルやスワップパーティション)に退避していたメモリページを主記憶(RAM)へ読み戻す操作のことを指します。対になる概念はスワップアウト(swap-out)で、これはメモリ上のページをディスクに書き出して退避させる処理です。スワップインは通常、プロセスがそのページにアクセスしようとしてページフォルト(page fault)が発生した際に実行されます。
なぜスワップインが発生するのか
スワップ領域は、実メモリが不足した際に一時的にデータを退避させるための領域です。主な発生要因は以下の通りです。
- システム全体のメモリ需要が供給を超えた(メモリ圧迫)
- 長時間アクセスされていないページがスワップアウトされ、再度アクセスされた
- プロセスの起動やメモリマップドファイルの読み込みで新たなページが必要になった
- ハイバネーションや一部のスナップショット/スワップ利用機能
スワップインの内部動作(OSレベルの概要)
一般的な仮想メモリの流れは「需要ページング」です。プロセスが未ロードのページへアクセスするとソフトウェアページフォルトが発生し、OSは該当ページをメモリに持っているか確認します。ページがスワップ領域にあればディスクから読み出してページフレームに配置し、ページテーブルを更新してプロセスに制御を戻します。読み戻し(スワップイン)にはディスクI/Oが伴うため、遅延が発生します。
スワップインとスワップアウトの指標・監視方法(主にLinux)
スワップの動作は各種ツールで監視できます。主なもの:
- vmstat: si(swap in)、so(swap out)列で秒あたりのスワップ量を確認できます。例:
vmstat 1 - /proc/vmstat: カウンタ
pswpin(スワップイン回数/量)およびpswpoutが確認可能です。例:cat /proc/vmstat | grep pswp - free: スワップの合計・使用量を確認。例:
free -h - swapon --show: 現在有効なスワップ領域を表示
- top/htop: サマリにスワップ使用状況やページフォルト頻度が出る場合があります
- iostat / iotop: ディスクI/Oがスワップによるものかを調べる
Windowsでの対応指標
Windowsでは「ハードページフォルト(hard page fault)」が発生するとページがディスク(ページファイル)から読み込まれます。監視方法:
- パフォーマンスモニター(Performance Monitor): カウンタ「\Memory\Pages/sec」「\Memory\Page Reads/sec」など
- Resource Monitor(リソースモニター): プロセスごとのメモリとディスクの関連を視覚的に確認可能
- PowerShell:
Get-Counter "\\Memory\\Pages/sec"
スワップインが引き起こす問題とパフォーマンス影響
スワップイン自体は設計上必要な機能ですが、過度に発生すると以下の問題を招きます。
- 応答性の悪化:ディスクアクセスはRAMに比べて桁違いに遅く、アプリケーションの遅延やユーザー体感遅延を生む
- スラッシング(thrashing):スワップアウトとスワップインが頻発しCPUがメモリ管理に多く使われ、実際の計算処理が進まなくなる
- SSDの書き込み寿命への影響:頻繁なスワップによる書き込みはNANDフラッシュの寿命に影響する可能性がある(ただし現代SSDの耐久性は向上)
OS別の挙動とチューニング(代表例)
Linux:
- スワップ戦略はカーネルのページ置換アルゴリズム(LRU近似)に依存する
- スワップによる優先度(積極性)は
vm.swappiness(0〜100、デフォルト60)で制御可能。値を小さくするとスワップを避け、値を大きくするとより積極的にスワップする - 圧縮スワップ(zswap, zram)を用いると物理ディスクに書く前に圧縮でメモリ上に退避させ、I/Oとメモリ効率を改善できる
- スワップファイルとスワップパーティションの違いは運用面での柔軟性。最近のLinuxではスワップファイルの性能差はほとんどない
Windows:
- Windowsはページフォルトの種類(ソフト vs ハード)で区別され、ハードフォルトはディスクI/Oを伴う
- 自動ページファイル管理が既定だが、必要に応じて手動サイズ設定や別ディスク配置で最適化可能
仮想化環境における注意点
仮想マシン(VM)環境ではホストとゲスト双方でスワップが発生すると二重スワップ(二重退避)となり、極端な性能低下を招きます。主要なポイント:
- ホストがゲストのメモリをスワップアウトすると、ゲスト内でさらにスワップ処理が走る可能性がある
- 多くのハイパーバイザは「バルーニング(ballooning)」という技術でゲストのメモリを回収するが、これもゲスト内でのページ移動を誘発するため注意が必要
- 運用上はホスト側に十分な物理メモリを割り当てる、または過度なメモリオーバーコミットを避けることが推奨される
実務での対応・対策
スワップインが頻発している、あるいはパフォーマンス問題が疑われる場合の検査と対策例:
- 監視:vmstatや/proc/vmstatでスワップ量・ページフォルトを定期監視し、閾値を超えたらアラート
- ボトルネック特定:iostat/iotopでディスクI/Oがスワップ由来か確認、topでプロセスのメモリ使用状況を確認
- メモリ増設:根本的な解決は物理メモリの増設
- スワップ設定調整:Linuxなら
vm.swappinessを見直す。例えばデスクトップやレイテンシ重視のサーバでは10〜20に下げることがある - 圧縮スワップの活用:zswap/zram を使うとI/Oを減らせるケースがある(特にI/Oが遅い環境やメモリが限られる組み込み系)
- ストレージ高速化:NVMe等の高速ストレージをスワップ領域にすることでスワップによる遅延を軽減
- 仮想化運用の見直し:ホスト側のメモリ管理ポリシー、ゲストへの割当、バルーニングの設定を最適化
実例コマンド(Linux)
簡単な確認コマンド例:
free -h— スワップ合計と使用量を表示vmstat 1 5— si/soの変化を観察cat /proc/vmstat | grep pswp— pswpin/pswpout カウンタを見るswapon --show— 有効なスワップ領域を表示sysctl vm.swappiness— 現在のswappiness値を確認、sysctl -w vm.swappiness=10で変更(永続化は /etc/sysctl.conf など)
まとめ
スワップインは仮想メモリシステムの正常な機能であり、メモリ不足時に不可欠な役割を果たします。しかし、頻繁なスワップインは性能低下やスラッシング、ストレージ寿命への懸念を招くため、適切な監視とチューニング、必要なら物理メモリやストレージの改善が求められます。特に仮想化環境ではホスト/ゲスト双方のメモリポリシーを意識し、二重スワップを避ける設計が重要です。
参考文献
- Linux Kernel — zswap (公式ドキュメント)
- Linux Kernel — zram (公式ドキュメント)
- Linux Kernel — vm sysctl(swappiness等)
- vmstat(8) — Linux manual (man7)
- /proc filesystem — proc(5) (man7)
- Microsoft Docs — Working Set and Virtual Memory
- Microsoft Docs — Memory Tuning Guidance
- VMware Knowledge Base — Swapping performance best practices
- Thrashing — Wikipedia(概念解説)


