LXC徹底解説:軽量システムコンテナの仕組みとLXD運用、Dockerとの比較

LXCとは — 概要

LXC(Linux Containers)は、Linuxカーネルの機能(名前空間(namespaces)や制御グループ(cgroups)など)を利用して、軽量な「コンテナ」環境を提供する技術およびユーザーランドツール群です。仮想マシン(VM)のように別のカーネルを実行するのではなく、ホストの単一のLinuxカーネルを共有しながら、プロセス・ネットワーク・ファイルシステムなどを隔離して動作させる点が特徴です。

仕組み(namespaces と cgroups)

  • Namespaces(名前空間):PID、UTS、IPC、マウント、ネットワーク、ユーザーなどの名前空間により、コンテナ内部からは独立したプロセスツリーやホスト名、ネットワークインターフェース、ユーザーID空間が見えるようになります。これにより、「コンテナ内はあたかも別のマシンである」かのような隔離が実現します。

  • cgroups(制御グループ):CPU、メモリ、I/O、デバイスアクセスなどのリソース使用を制限・監視できます。これによりホスト上で複数コンテナを並列に動かしたときのリソース分配と安定性を確保します。

主要コンポーネント

  • liblxc / lxc-utils:LXCの低レベルライブラリとツール。コンテナの作成、起動、停止、設定管理などの基本機能を提供します。

  • LXD:Canonicalが開発するLXCの上位管理デーモンで、REST API、イメージ管理、ネットワーク・ストレージの統合、クラスタ管理、スナップショットや移行機能などを提供します。LXC単体よりも運用性・自動化に優れます。

利点

  • 軽量性 — コンテナはホストカーネルを共有するため、起動が高速でオーバーヘッドが小さい。

  • 高密度運用 — 同一ホストで多くのコンテナを効率的に動かせる。

  • 柔軟な隔離レベル — ユーザー名前空間やAppArmor/SELinux、capabilities、seccompなどを組み合わせてセキュリティ要件に応じた隔離を構成できる。

  • フルOSイメージ(システムコンテナ) — LXCはシステムコンテナを得意とし、フルのinitプロセスやsystemdを含む「仮想的なサーバ」を構築できる。

制約・注意点

  • カーネル共有のリスク — コンテナはホストカーネルを共有するため、カーネルレベルの脆弱性があるとホスト全体が影響を受ける可能性がある。完全なハードウェア分離(ハイパーバイザー型)に比べるとセキュリティ境界は弱い。

  • カーネル依存 — コンテナ内部のOSはホストカーネルに依存する(例えばカーネルバージョン依存の機能が必要なアプリは動かせない場合がある)。

  • ユーザー名前空間のサポート — unprivileged(非特権)コンテナを安全に使うにはカーネルとディストリビューションの設定が必要。環境によっては制限がある。

ネットワーク・ストレージ・セキュリティの詳細

ネットワークはブリッジ+veth、macvlan/ipvlan、NATベースの接続など複数の方式が選べます。LXDは内部でプロファイルや仮想ネットワークを管理し、DHCPやルーティング、ファイアウォール統合も提供します。

ストレージ面では、overlayfs、btrfs、ZFS、LVMなど多様なバックエンドをサポートし、スナップショットや差分コピー(コピーオンライト)を活用して効率的なイメージ管理が可能です。LXDはこれらを透過的に扱えます。

セキュリティは多層で考えます。capabilitiesで不要な権限を剥ぎ、seccompでシステムコールを絞り、AppArmor/SELinuxでプロファイルを適用し、ユーザー名前空間でUIDマッピングを行うことで特権分離を強化します。ただし設定ミスやカーネルバグによるエスケープリスクは常に存在します。

基本的な運用とコマンド(概念説明)

LXCの基本操作は、コンテナの作成、起動、停止、シェル接続、破棄といった流れです。liblxc系ツールやLXDのREST APIを使います。LXDはイメージのimport/export、プロファイル管理やクラスタ化を簡単に行えるため、運用面での負担を大きく軽減します。

LXCとDockerなどの比較

  • LXC:システムコンテナ向け(フルOS、systemd等)、低レイヤーで柔軟な設定。運用管理はLXDで強化。

  • Docker(コンテナエコシステム):アプリコンテナ向けにイメージ層や再利用性、OCI仕様、コンテナランタイム(containerd)などを中心に設計。アプリケーション単位のデプロイに適する。

  • その他(rkt、systemd-nspawn):設計思想や管理機能、互換性に差がある。用途に応じた選択が重要。

ユースケース

  • CI/CDでの高速ビルド環境(軽量にリセットできるシステム環境)

  • テナント分離が必要なクラウドホスティング(LXDクラスタ)

  • レガシーなフルOSをコンテナ化しての移行や検証環境

  • 高密度サーバー上で多数のサービスを隔離して運用するケース

高度な機能:スナップショット、移行、CRIU

ファイルシステムバックエンドの機能を利用してスナップショットや差分複製が可能です。LXDはスナップショットやイメージ配布を統合で提供します。チェックポイント/リストア(CRIU)を用いた移行や一時停止・再開もサポートしていますが、すべてのワークロードで完全に動作するとは限らないためテストが必要です。

導入時のポイント

  • ホストカーネルが必要な名前空間・cgroup機能をサポートしていることを確認する(近年の主要ディストリは対応済み)。

  • 非特権コンテナを使うならユーザー名前空間設定やsubuid/subgidの準備を行う。

  • セキュリティプロファイル(AppArmor/SELinux/seccomp)を適切に設定する。

  • バックアップ/スナップショットとネットワーク設定を運用手順に含める。

まとめ

LXCはLinuxカーネルの機能を活用した軽量で高性能なコンテナ技術で、システムコンテナを構築してフルOS環境を効率的に隔離・運用するのに向いています。LXDを組み合わせれば、実運用に必要な管理機能やクラスタ機能を容易に得られます。一方で、カーネル共有に起因するセキュリティ上の注意点やカーネル依存性があるため、用途に応じて設計・運用・テストを行う必要があります。

参考文献