USBの基礎から最新規格まで徹底解説:Type-C・PD・USB4を網羅する完全ガイド
USBとは:概要と意義
USB(Universal Serial Bus)は、パーソナルコンピュータと周辺機器の接続を容易にするために設計されたシリアル通信規格です。1990年代半ばに策定されて以来、マウスやキーボード、外付けストレージ、スマートフォン充電、ディスプレイ出力、ドッキングステーションまで幅広い用途に使われ、物理コネクタ・プロトコル・電源供給の統一規格として事実上の標準となりました。USBはハードウェア設計者だけでなく、一般ユーザーにも扱いやすい「抜き差し可能」「自動認識(列挙)」「電源供給」を一体化した点が普及の大きな要因です。
歴史と規格の変遷
- USB 1.0 / 1.1(1996 / 1998) — Low Speed(1.5 Mbps)/ Full Speed(12 Mbps)。主にマウスやキーボードといった低速周辺機器用。
- USB 2.0(2000) — High Speed(480 Mbps)。ストレージやオーディオ機器など、高スループットを必要とする用途で普及。
- USB 3.0 / 3.1 / 3.2(2008〜2017) — SuperSpeed(5 Gbps、USB 3.0)、SuperSpeed+(10 Gbps、USB 3.1 Gen2)、その後の再命名でUSB 3.2として5/10/20 Gbpsのバリエーションが整理されました(3.2 Gen2x2で20 Gbps、複数レーンを用いる)。
- USB4(2019) — Thunderbolt 3の技術をベースにし、最大40 Gbpsをサポート、PCIeやDisplayPortトンネリングに対応。USB-Cコネクタの使用が前提。
これらの進化は単なる速度向上だけでなく、電力供給(Power Delivery)やAlternate Mode(映像信号の透過)など機能面でも拡張が行われてきました。規格の策定とロゴ管理はUSB Implementers Forum(USB-IF)が担っています。
コネクタの種類と特徴
- Type-A — 伝統的にホスト側(PC側)で使われる平たいコネクタ。
- Type-B / Mini / Micro — プリンタや古い機器、スマートフォン向けに使われてきた変種。
- USB-C(Type-C) — リバーシブルな新世代コネクタ。上下の向きを気にせず抜き差しでき、最大で多機能(データ、電源、映像、Alternate Mode)を一本でまかなえます。24ピン構成で、CCピンによる役割交渉(向き、電力ロール、オルタネートモード)を行います。
ケーブルには受動(passive)と能動(active)があり、長さや伝送帯域によっては能動ケーブルやe-marker(電子的に識別情報を持つケーブル)が必要になります。特に高電力(5A対応など)や高帯域(20〜40 Gbps)では規格に沿ったケーブル選びが重要です。
データ転送速度と転送方式
USBは世代ごとに理論上の最大速度が上がってきました。代表的な速度は以下の通りです。
- Low Speed:1.5 Mbps
- Full Speed:12 Mbps
- High Speed(USB 2.0):480 Mbps
- SuperSpeed(USB 3.0 / 3.1 Gen1):5 Gbps
- SuperSpeed+(USB 3.1 Gen2 / 3.2):10 Gbps(2レーンで20 Gbps)
- USB4:最大40 Gbps(規格上)
プロトコル的には、USBはホスト中心のアーキテクチャで、転送タイプはControl(制御)、Bulk(大量データ)、Interrupt(割込み的短周期データ)、Isochronous(等時性:オーディオ/映像向け)に分類されます。用途に応じてエンドポイントや転送保証の有無が異なります(Isochronousは遅延保証が重視されるが再送は保証されない等)。
アーキテクチャと列挙(Enumeration)プロセス
USBは「ホスト(PC等)」「デバイス(USBメモリ等)」「ハブ(分岐)」という階層構造をとります。デバイスを接続すると、ホストは電源を供給し、デバイスから送られるデスクリプタ(識別情報)を取得してドライバを割り当てる列挙プロセスを行います。これによりOSはどのクラス(ヒューマンインタフェース、マスストレージ等)かを判断します。
従来のUSBでは「ホスト=電源供給」といった役割が固定されていましたが、USB On-The-Go(OTG)やUSB-C/Power Deliveryにより、どちらがホスト(=コントローラ)/デバイス/供給側になるかを動的に決められるようになりました(ロールスワップ)。
充電とUSB Power Delivery(PD)
初期のUSBは500 mA(USB 2.0)や900 mA(USB 3.0)の規定がありましたが、スマートフォンやノートPCの普及に伴い電力供給の強化が進みました。代表的な仕組みには以下があります。
- Dedicated Charging Port / Battery Charging(BC)規格 — データ線を短絡することで高速充電器を識別する古典的方式。
- USB Power Delivery(PD) — 通信により電圧・電流をネゴシエートするプロトコル。PD 3.1(2021)で拡張され、最大20V→48Vの供給のためのExtended Power Range(EPR)を導入し、最大240W(48V×5A)まで対応可能になりました(ケーブル側も5A対応のものが必要)。
PDは単に電力を供給するだけでなく、電力の方向(ホスト→デバイスだけでなく逆も可)やロールスワップ、サプライチェンジの協議を行える点が特徴です。
互換性、ケーブルの注意点、物理長さの制限
USBは下位互換性を意図していますが、コネクタやケーブルの物理的・電気的特性により互換性に注意が必要です。例えばUSB-Cコネクタでも、使用するケーブルやPD非対応の機器では最大速度や電力が制限されます。また長いケーブルや不適切なケーブルを使うと信号劣化が起き、高速通信が成立しないことがあります。一般的な目安としては:
- USB 2.0(High Speed)の実用的な長さ上限は約5m(パッシブ、ハブを含む)
- USB 3.x や USB4 では伝送特性上、一般に短いケーブル(数十cm〜数m)を推奨。長尺は能動ケーブルやリピータが必要
高電力(5A)に対応するケーブルはe-markerで識別され、安全に高電流を扱えることを示します。安価な非準拠ケーブルは発熱や故障の原因になるため注意が必要です。
セキュリティリスクと対策
USBは利便性が高い一方で、セキュリティリスクも存在します。
- BadUSB(ファームウェア改変) — USBデバイスのファームウェアを書き換えてキーボードとして振る舞わせ、コマンドを注入する攻撃が研究されています。信頼できないUSBデバイスは使用を避ける、組織ではUSBポート制御を行うなどの対策が重要です。
- Juice jacking(充電を装った盗用/マルウェア感染) — 公衆充電器や見知らぬケーブルを介してデータが読み書きされるリスク。対策としては充電専用ケーブル/USBデータブロッカーの使用、信頼できる電源のみを使うことが挙げられます。
- 自動実行やドライバインストール — OSの自動実行機能を無効にする、最小権限のポリシーを適用する等が有効です。
実際の利用例と今後の展望
USBはフラッシュメモリや外付けHDD、マウス・キーボード、プリンタ、スマートフォン充電、オーディオインターフェース、モニタ接続(DisplayPort Alt Mode)やドッキングステーションまで幅広く使われています。特にUSB-CとPD、USB4の組合せにより、「一本のケーブルで映像・データ・電源を一括接続する」体験が一般化しつつあります。
今後も高速化と電力供給能力の向上、プロトコルの統合(Thunderboltとの親和性強化)やケーブル管理(e-marker普及)などが進む見込みです。ユーザーとしては、用途に応じたケーブルと対応機器を選ぶこと、そしてセキュリティ面を常に意識することが重要です。
参考文献
- USB Implementers Forum(USB-IF)公式サイト
- USB Type-C Cable and Connector Specification(USB-IF)
- USB 2.0 Specification(USB-IF)
- USB4 Specification(USB-IF)
- USB Power Delivery Specifications(USB-IF)
- BadUSB — On Accessories that Turn Evil(SRLabs / Karsten Nohl et al., 2014)
- Thunderbolt Technology(Intel)
- USB(Wikipedia:歴史と概要の整理)


