UPS(無停電電源装置)の基礎から選定・設置・運用までの完全ガイド

UPSとは — 無停電電源装置の基本概念

UPS(Uninterruptible Power Supply、無停電電源装置)は、商用電源の瞬断・停電・電圧変動・瞬時の周波数変化などから機器を保護し、必要に応じてバッテリからの電力供給で継続稼働を可能にする装置です。サーバ、ネットワーク機器、医療機器、産業制御装置など、電源障害が業務や安全に重大な影響を与える機器に不可欠なインフラです。

UPSの主な機能

  • 無停電電源供給(停電時の瞬時バックアップ)
  • 電圧変動(低電圧/過電圧)および瞬時電源変動の補正
  • 電源ノイズや高調波の低減(電源クリーンアップ)
  • 安全なシャットダウンや通知を行う監視・通信機能(SNMP, Modbus, シリアル等)

UPSの種類(動作方式)

UPSは主に次の3方式に分類されます。それぞれ特性と用途が異なります。

  • スタンバイ(オフライン)UPS:通常は商用電源を直接出力し、停電検知後に瞬時にバッテリ/インバータに切り替える方式。低コストだが切替時間(一般に数ミリ秒〜数十ミリ秒)が発生し、出力波形が疑似正弦波の場合があるため、感度の高い機器には不向き。
  • ラインインタラクティブUPS:自動電圧調整(AVR)を備え、商用電源の変動を電圧調整で補正。停電時はインバータに切り替えるが、切替時間は小さい。中小規模サーバやネットワーク機器で広く使われる。
  • オンライン(ダブルコンバージョン)UPS:商用電源はまず整流器で直流に変換され、インバータで常時交流出力を生成するため、停電時でも切替遅延はほとんどなく(「ゼロスイッチング」)、電源品質が最も高い。データセンターや医療等、可用性が極めて重要な用途で使用される。

主要構成要素

  • バッテリ(蓄電池):UPSの心臓部。鉛(VRLA)、フロート充電や近年増加しているリチウムイオンなど。
  • 整流器(充電器):交流を直流に変換し、バッテリを充電するとともにインバータへ電力を供給。
  • インバータ:直流を交流に変換し、負荷へ電力を供給。波形品質(正弦波)や効率が重要。
  • バイパス回路/切替器:保守時や故障時に商用電源へ切り替えるための回路(メンテナンスバイパス)。
  • 監視/制御回路:通信(SNMP/Modbus)、アラーム、自己診断、シャットダウン制御など。

容量と表記(VAとW)

UPSは一般に「VA(ボルトアンペア)」で容量が表記されますが、実際の機器消費は「W(ワット)」で表されます。負荷の力率(PF)によりVAとWの比が変わるため、選定時には両方を考慮する必要があります。最近のUPSは出力力率が高く(0.9〜1.0)記載されることが多いです。

バッテリについて(種類・寿命・温度影響)

  • 鉛蓄電池(VRLA):一般的でコストが低い。寿命は使用条件で異なるが通常3〜6年程度(設置温度に大きく依存)。
  • リチウムイオン電池:初期費用は高いが、寿命が長く(5〜15年)、サイクル寿命やエネルギー密度に優れる。高温環境での劣化が小さい。
  • 温度の影響:バッテリ寿命は温度に非常に敏感で、一般的に設計基準温度(例:20〜25°C)から10°C上昇すると寿命が約半分になるという目安が使われます(バッテリ特性に依存)。

UPSの選定ポイント

  • 必要なバックアップ時間(ランタイム)— SLAやシャットダウン時間に基づき決定。
  • ピーク/突入電流や負荷の力率を含めた容量(VA/W)評価。
  • 波形品質(真の正弦波が必要か)と産業機器への適合性。
  • 冗長性要件(N+1、2N、N+N など)と並列拡張性。
  • 設置環境(温度、換気、床面/ラック搭載、重量、騒音)と保守スペース。
  • 管理機能(SNMP、Web、シリアル、クラウド連携)と通知方法。

冗長化の考え方

UPSの冗長化には複数の設計パターンがあり、可用性要件によって選びます。

  • N+1:必要な台数に予備1台を加える方式。コスト効率と可用性のバランスが良い。
  • 2N:完全な二重化。故障時にも無停止で運用可能だがコストが高い。
  • N+N(パラレル冗長):同容量の複数UPSを並列運転し、片側故障でも継続。

設置・運用・保守の実務ポイント

  • 定期的なバッテリ点検(容量検査、内部抵抗測定、目視)と交換計画。年1回の点検と必要時の負荷試験を推奨。
  • 温度管理。バッテリ寿命を最大化するために設計基準温度で運用。
  • ファームウェア更新、ログ監視、アラーム運用ルールの整備。
  • 保守バイパス回路の導入で、UPS交換時にも負荷を停止せずにメンテナンス可能に。
  • 廃棄・リサイクル:バッテリは有害廃棄物扱いのため法令に従って適切に処理。

UPSとサージプロテクタの違い

サージプロテクタ(SPD)は雷や一時的な過電圧を吸収して機器を守るが、停電時に電源を供給することはできません。UPSはサージ保護に加え、停電時のバックアップと電源品質改善(周波数・波形安定化)を提供します。両者は併用が一般的です。

運用上の注意・よくあるトラブル

  • バッテリ劣化:最も多い障害原因。定期交換と温度管理でリスク低減。
  • 過負荷:UPSの定格を超えるとバイパス動作やシャットダウンが発生。余裕を持った容量設計を。
  • 誤った停電検知・切替時間:スタンバイ系UPSでは切替時間が機器に影響を与える場合があるため、感度の高い機器にはオンラインUPSを推奨。
  • 保守不足:バッテリ端子緩み、通気不良、ファーム更新未実施などが原因で故障に至ることがある。

導入事例・用途

  • データセンター:オンラインUPS+冗長化(2N/N+1)で高可用性を確保。
  • オフィスのサーバ/ネットワーク機器:ラインインタラクティブや小容量オンライングレードで運用。
  • 医療機器:厳格な電源品質と冗長化を必要とするため、オンラインUPSが標準。
  • 産業制御:電源ノイズや瞬断耐性のためにUPSと電源コンディショナの組合せが用いられる。

簡単なランタイム計算例

バッテリ容量(Ah)×バッテリ電圧(V)×インバータ効率(例0.9) ÷ 負荷(W) = 理論ランタイム(時間)。実運用では温度、バッテリ劣化、放電深度などで短くなる点に留意。

まとめ

UPSは単なる「停電の保険」ではなく、電源品質の改善、機器保護、システム可用性維持のための重要装置です。用途に応じて方式(スタンバイ/ラインインタラクティブ/オンライン)、容量、バッテリ種別、冗長化方式を選定し、定期保守と監視を実施することが長期的な安定稼働につながります。導入・運用計画には専門ベンダーとの協議を推奨します。

参考文献