5 GHz Wi‑Fiを徹底解説:規格・UNII帯・チャネル割当・DFS/TPC・実務運用のポイント

はじめに:5 GHzとは何か

「5 GHz(ギガヘルツ)」は周波数を表す用語で、1ギガヘルツは10億ヘルツを意味します。一般的にIT・ネットワークの文脈で「5 GHz」と言えば、主にWi‑Fiなどの無線通信で利用される「約5ギガヘルツ帯」の周波数帯域を指します。具体的にはおおむね5.15 GHzから5.85 GHz付近の帯域が該当し、家庭やオフィスで使う無線LAN(IEEE 802.11a/n/ac/ax など)の主要な動作周波数です。

物理的な意味と電波の性質

周波数が高くなるほど電波の周期は短く、5 GHzの波長はおよそ6 cm(波長 λ = c / f、3×10^8 m/s ÷ 5×10^9 Hz ≒ 0.06 m)です。この物理特性から以下の特徴が生じます。

  • 伝搬距離が短く、障害物(壁や床など)による減衰が大きい:2.4 GHzに比べて届きにくい。
  • 反射や回折の影響が強く、室内での多経路(マルチパス)や死角の発生が異なる。
  • アンテナは小型化しやすい:小さなデバイスに高利得アンテナを搭載しやすい。

Wi‑Fi と 5 GHz の関係 — 規格の歴史

1999年に策定されたIEEE 802.11aは5 GHz帯を用いる最初期のWi‑Fi規格の一つで、その後の規格(802.11n、802.11ac、802.11ax=Wi‑Fi 6 等)でも5 GHz帯は高速通信の主要な選択肢でした。特に802.11ac(Wi‑Fi 5)は5 GHz帯でのチャネル幅拡張(80 MHz、160 MHz)と高度な変調・MIMO技術により大幅なスループット向上を実現しました。802.11ax(Wi‑Fi 6)では2.4 GHzと5 GHzの両方を活用し、効率化(OFDMA、MU‑MIMOなど)を図っています。

チャネル割当とUNIIバンド、DFS/TPCの説明

5 GHz帯のチャネルは20 MHz刻みで中心周波数が設定されています(チャネル番号36→5180 MHz等)。ただし利用可能なチャネルや出力制限は地域(米国/欧州/日本など)や用途(屋内/屋外)で異なります。北米での分類としてはUNII(Unlicensed National Information Infrastructure)という区分が使われ、代表的には以下のような帯域があります(各地域での細かな違いや例外あり)。

  • UNII‑1(低域):約5.150–5.250 GHz(屋内限定などの制約があることが多い)
  • UNII‑2 / UNII‑2e(中域・拡張):約5.250–5.350 GHz および 5.470–5.725 GHz(多くはDFS義務が課される領域を含む)
  • UNII‑3(高域):約5.725–5.850 GHz(屋外利用や高出力が比較的許可されることがある)

DFS(Dynamic Frequency Selection、動的周波数選択)は航空・気象レーダーなどの優先システムと共存するため、AP(アクセスポイント)がレーダー波を検知した場合にチャネルを空ける(避難する)仕組みです。TPC(Transmit Power Control)は送信出力を自動制御して他の機器へ与える干渉を抑える手法です。これらは各国の規制により必須とされる場合があります。

5 GHzの利点と欠点

5 GHz を使うメリット・デメリットを整理します。

  • 利点
    • チャンネル幅を広く取りやすく高スループット(20/40/80/160 MHz)に対応可能
    • 2.4 GHz帯より混雑が少なく、電子レンジやBluetoothなどの干渉が少ない
    • チャネル数が多いため、隣接APとの周波数分離がやりやすい
  • 欠点
    • 電波の到達距離と室内透過性が劣る(壁・床で減衰しやすい)
    • DFSにより突発的にチャネル移動が発生することがある(オンラインゲーム等で影響する場合あり)
    • 古い端末は5 GHz未対応のことがあるため互換性に注意

技術的な深掘り:チャネル幅・変調・MIMO

高速化にはいくつかの要素が寄与します。

  • チャネル幅:幅を広げれば単純に最大理論帯域は増える(例:40 MHzは20 MHzの2倍、80 MHzは4倍)。ただし広くすると隣接APとの干渉やチャネル枯渇の問題が生じる。
  • 変調方式:802.11ac以降は256QAMやさらに高次変調が利用されることでビット毎シンボルを増やし、スループットを向上させる(ただしSNRが必要)。
  • MIMO / MU‑MIMO:複数アンテナを用いて同時に複数ストリームを送受信し、空間多重で伝送効率を上げる。5 GHzはアンテナが小さく作りやすいため多素子アンテナの実装が有利。
  • OFDMA(802.11ax):チャネルを小さいサブキャリアに分割して多人数で効率的に使う技術で、特に混雑環境で有効。

実務的な運用上のポイント

現場での運用や設定で押さえておくべき点を挙げます。

  • デバイスの対応確認:クライアント機器(スマホ・PC・IoT)が5 GHzに対応しているか確認する。
  • チャネル幅の選定:住宅密集地では20/40 MHzを基本に、空いている環境なら80/160 MHzで高速化を試す。
  • DFSの運用理解:DFSチャネルは一時的なチャネル停止(レーダ検出で)を起こす可能性があるため、リアルタイム性が厳しい用途での安定性を重視するならDFSフリーのチャネルを選ぶことも検討する。
  • 出力制御:過度な出力は隣のAPへ干渉を与える。必要に応じてEIRPを下げて空間再利用を図る。
  • サイトサーベイ:WLANアナライザで電波状況(RSSI、干渉、チャネル使用率)を確認し、最適なチャネル配置とAP配置を設計する。

各国の規制差と注意点

5 GHz帯の利用条件は国や地域によって細かく異なります。代表的な違いは「利用可能なチャネル」「最大許容出力」「DFS/TPCの義務有無」などです。例えば米国(FCC)はUNII区分を使い特定の帯域で屋外高出力を認める一方、欧州(ETSI)や日本(総務省/MIC)のルールではチャネルや出力制限、屋外利用条件に違いがあります。導入前には必ず対象国の技術基準を確認してください。

5 GHz以外との比較・今後の展望

2.4 GHzとの比較は既述の通りですが、最近はWi‑Fi 6Eの登場により「6 GHz帯」が一部地域で開放され、さらに広帯域・低遅延の選択肢が増えています。今後は5 GHzと6 GHzを用途や設置状況に応じて併用し、高密度環境での周波数管理(自動チャネル割当、OFDMAによる効率化など)が重要になります。

まとめ:5 GHzはどんな場面で選ぶべきか

5 GHzは「混雑した2.4 GHzを避けつつ高スループットを得たい場面」に最適です。動画ストリーミング、高速ファイル転送、オンラインゲーム、屋内オフィスの企業ネットワークなどで威力を発揮します。ただし、壁や距離による減衰が大きいため、カバレッジ設計(APの数や配置)が重要です。DFSや地域規制にも注意しつつ、サイトサーベイと適切な設定で安定した無線環境を構築してください。

参考文献