VRR(可変リフレッシュレート)完全ガイド:仕組み・規格・実装・測定・導入ポイントとトラブルシューティング

可変リフレッシュレート(Variable Refresh Rate)とは

可変リフレッシュレート(VRR: Variable Refresh Rate)は、ディスプレイの垂直リフレッシュレート(Hz)をGPUやコンテンツ側のフレーム生成レートに合わせて動的に変化させる技術です。従来の固定リフレッシュ(例:60Hz、120Hz)はディスプレイ側が一定周期で必ず画面を更新しますが、VRRは「ディスプレイの更新タイミングをフレームの到着に同期」させることで、ティアリングの低減、スタッタリングの軽減、入力遅延の改善を狙います。

なぜ必要か:固定リフレッシュの問題点

  • ティアリング:GPUがディスプレイの更新と独立してフレームを更新すると、画面の一部が新フレーム、一部が旧フレームになる「破断(ティアリング)」が発生します。

  • スタッタリング(カクつき):フレームレートが不安定で、フレーム間の表示時間が不均一だと、視覚的にぎこちない動きになります。

  • 待ち時間(レイテンシ):垂直同期(VSync)を強制するとフレームの提示を次の垂直走査まで待つ必要があり、入力遅延が増えるケースがあります。

VRRの基本的な動作原理

VRR対応ディスプレイは、内部のタイミングコントローラ(スキャンアウト制御)を柔軟に動かし、GPUが新しいフレームを用意した瞬間にスキャンアウト(表示)を開始します。これにより「ディスプレイの更新周期=GPUのフレーム生成周期」に近づけ、以下を実現します:

  • フレーム完了と表示開始が同期してティアリングを防ぐ

  • フレーム間隔が均等化されスタッタリングが減る

  • フレーム提示の待ち時間を最小化し、入力遅延を改善

主な規格・実装方式

  • DisplayPort Adaptive-Sync(VESA):DisplayPort 1.2a(2014年)で導入された規格で、ディスプレイ側がリフレッシュレートを可変化できる仕様です。多くのFreeSyncモニタはこの仕組みに基づきます。

  • AMD FreeSync:DisplayPort Adaptive-Syncを利用したAMDのブランド名。ディスプレイ側の可変リフレッシュに対応し、低フレームレート補償(LFC)などの追加仕様を組み合わせる場合があります。

  • NVIDIA G-Sync:当初は専用のハードウェアモジュールをモニタ側に搭載する方式で品質を保証していました。後にNVIDIAはAdaptive-Syncベースの「G-Sync Compatible」認証を導入しました。

  • HDMI VRR:HDMI 2.1で公式にサポートされたVRR機能。最新のゲーム機(PS5、Xbox Series X/S)や多くの最新テレビがHDMI VRRをサポートします。

低フレームレート時の課題と対策(LFCなど)

多くのVRR実装は「対応可能な最小リフレッシュレート」と「最大リフレッシュレート」の範囲を持ちます(例:48Hz〜144Hz)。GPUの描画がその下に落ちると、表示が不安定になります。AMDのFreeSyncでは「Low Framerate Compensation(LFC)」という手法を採り、低すぎるフレームレート時に同じフレームを複数回出力して実効的にディスプレイの最小可変レート内に収め、ちらつきや不均一な描画間隔を防ぐ仕組みがあります。

モバイル・タブレットでの可変リフレッシュ(省電力との関係)

スマートフォンやタブレットでは、VRRに近い概念で「動的リフレッシュレート」「Adaptive Refresh」が導入されています。LTPO(低温多結晶酸化物)やLTPSディスプレイ技術により、1Hz〜120Hzのように非常に広い可変幅での更新が可能になり、静止画や文字表示時に低周波へ落として消費電力を削減し、スクロールやゲームでは高リフレッシュで滑らかさを確保します。AppleのProMotionや各社の「Adaptive 120Hz」などがこれに該当します。

メリットと注意点

  • メリット:ティアリングやスタッタリングの低減、入力遅延の改善、モバイルでは省電力化が期待できる。

  • 注意点:・ディスプレイとGPU・ドライバの互換性が必要。・VRRの有効範囲(最小/最大Hz)を把握しておく必要がある。・一部古いゲームや古いエンジンでは互換性問題が出る場合がある。

  • 品質差:G-Syncの初期モジュールは一定の品質を保証していましたが、Adaptive-Sync系はメーカー実装に差が出ることがあるため「G-Sync Compatible」や「FreeSync Premium」等の認証やレビューを参考にする価値があります。

導入時の確認ポイント

  • ディスプレイがサポートするVRR規格(DisplayPort Adaptive-Sync / HDMI VRR / FreeSync / G-Sync)を確認する。

  • 対応リフレッシュレート範囲(例:40〜144Hz)とLFCの有無を確認する。

  • GPUとドライバがそのVRRをサポートしているか(PCではメーカーサイトやドライバのリリースノートを確認)。

  • ゲーム機接続時は、HDMIケーブルのバージョン(HDMI 2.1推奨)やコンソール/TVのVRR設定を確認する。

測定とトラブルシューティング

実際の表示を検証するには、ソフト側のフレーム計測(RTSS、CapFrameX、NVIDIA FrameView等)や高速度カメラを使った実機検証が有効です。代表的な問題と対処:

  • 映像がちらつく・不安定:ドライバのアップデート、モニタのファームウェア、ケーブル(DisplayPort/HDMI)やポートの確認。

  • 互換性がない表示:ゲームやアプリのVSync設定、フルスクリーン/ボーダレスウィンドウの表示モードを切り替えて試す。

  • 入力遅延が期待通り改善されない:GPUのレンダリング設定(バッファリング、低レイテンシモード)やOSのコンポジタ挙動を確認。

まとめ

可変リフレッシュレートは、モダンなディスプレイ体験を支える重要な技術です。特にゲームではティアリングやスタッタリングを減らし、応答性を向上させるために有効であり、モバイルでは省電力と滑らかさを両立します。採用時はディスプレイ・GPU・ケーブル・ドライバの対応状況と、VRRの動作範囲(およびLFCの有無)を確認することが重要です。

参考文献