プログレッシブとインターレースの完全ガイド:映像品質・伝送・編集で選ぶ最適な方式と実務ポイント
非インターレース(プログレッシブ)とは何か
非インターレース(非走査交互方式)、一般には「プログレッシブ(progressive scan)」と呼ばれる方式は、映像の各フレームを上から下へ連続して走査(スキャン)し、1回のフレームで全ラインの画素情報を送受信・表示する方式です。対義語である「インターレース(走査交互方式)」は、1フレームを奇数ライン(上位フィールド)と偶数ライン(下位フィールド)の2つのフィールドに分け、順次表示することで1秒あたりの画面更新回数を確保する仕組みです。
なぜインターレースが作られたのか(歴史的背景)
インターレースは主にブラウン管(CRT)ディスプレイと古いアナログ放送システムの制約から生まれました。初期のテレビ受像機は画面全体を毎秒十分な頻度で書き換えられず、直線的にフレームを完全更新するとちらつき(フリッカー)が発生しやすかったため、半分ずつ(フィールドごと)表示することで有効輝度更新回数を上げつつ、トランスミッション帯域を節約する目的で採用されました(例:NTSCは525本・約60フィールド/秒、PALは625本・50フィールド/秒)。
技術的な違い(仕組みの比較)
- インターレース:1フレームを奇数ラインと偶数ラインの2フィールドに分割して順次送信。実際のフレームレートは低いが、フィールドレートが高いため動きのちらつきが抑えられる。
- 非インターレース(プログレッシブ):1フレームで全ラインを一度に送信・表示。フレーム単位での移動を扱うので細かい動きやエッジが鮮明に表現される。
利点:非インターレースがもたらすメリット
- 映像の鮮明さ:フレームごとに全ラインが揃うため、動きのあるエッジに「コーミング(櫛状ノイズ)」が出にくく、特に動きの速い被写体で効果を発揮します。
- デジタル映像処理との相性:モーション推定やブロックベース符号化(H.264/HEVCなど)はフレーム単位の処理が基本で、プログレッシブはこれらと相性が良く、効率的に圧縮できます。
- 編集・合成の容易さ:タイムコードやフレーム単位での合成・カット編集が直感的で、フィールドオーダーの扱いやずれを気にする必要が少ない。
- 現代ディスプレイとの親和性:LCDやOLEDなどのフラットパネルは基本的にプログレッシブ表示であり、デインタレース処理が不要になります。
欠点・注意点(デメリット)
- 帯域・データ量:同じ「見かけのちらつき防止(有効リフレッシュ)」を確保するためには、高いフレームレートが必要になり得るため、歴史的には帯域効率が問題になりました(ただし現代のコーデックや配信回線では解消されつつあります)。
- 古い放送インフラとの互換性:従来のインターレース前提の放送システムや機器との変換・互換性に留意する必要がある(フィールドオーダー、デインタレース処理など)。
プログレッシブと解像度・フレームレートの実例
現代のHD/4Kフォーマットでは「1080p」「720p」「480p」などプログレッシブ表記が一般的です。一方、放送では「1080i」や「480i」などインターレース表記も残っています。一般的な傾向は次の通りです。
- 1080i(インターレース): 高い垂直解像度(1080ライン)を持つがインターレース。スポーツなど動きが速い場面ではコーミングが問題となることがある。
- 720p(プログレッシブ): 720ラインだが高フレームレート(例:60p)が取りやすく、動きの滑らかさでスポーツ中継に好まれることがある。
- 1080p(プログレッシブ): 高解像度かつプログレッシブ。映画やネット配信、Blu-ray、ゲーム配信などで標準的に使用される。
- 4K/8K(主にプログレッシブ): 高解像度・プログレッシブが主流。放送においては伝送方式やコーデックの進化で採用が進む。
フィールドオーダーと編集での注意点
インターレース映像には「フィールドオーダー(上位フィールド先か下位フィールド先か)」というメタデータが重要です。編集時に誤ったフィールドオーダーで処理すると、映像にジッターや動きの歪みが生じます。プログレッシブはその煩雑さがないため、編集ワークフローが簡素になります。
デインタレース(逆インターレース)と変換手法
インターレース映像をプログレッシブ表示に変換する処理を「デインタレース」といいます。主な手法は次の通りです。
- Weave(ウィーブ): 2つのフィールドをそのまま重ね合わせて1フレームに戻す。静止画では有効だが動きのあるシーンではコーミングが発生する。
- Bob(ボブ): 各フィールドを独立したフレームとして拡大(垂直補間)して表示。動きに強いが垂直解像度が落ちる。
- モーション補償型(MCTF/MCデインタレース): 隣接フレームを用いて動きを推定し、適応的に補間する高度な手法。コーミングを抑えつつ画質を保つが計算コストが高い。
- プログレッシブセグメンテッドフレーム(PsF): プログレッシブフレームをインターレース伝送のフォーマットに入れる際に用いる手法。フレーム自体はプログレッシブだが、フィールド形式で搬送されるため互換性が取れる。
コーデックと伝送における考慮点
H.264/AVCやHEVCなどの現代コーデックはインターレース対応もしていますが、モーション推定や圧縮効率はプログレッシブの方が扱いやすいことが多いです。インターレース映像をそのまま符号化すると、フィールド間の時間的差により効率が落ちたり、復号後にデインタレースが必要になったりします。ストリーミングやウェブ配信では基本的にプログレッシブが推奨されます。
利用シーンと選択ガイドライン
- ウェブ配信・VOD・SNS:プログレッシブを強く推奨。デバイスがプログレッシブ表示を前提に作られているため映像品質が安定する。
- スポーツ中継:フレームレート重視なら720p/60p、解像度重視なら1080i(ただしデインタレース処理が鍵)といったトレードオフがある。
- 映画制作:撮影は24p(プログレッシブ)が基本。放送や伝送時に互換性が必要ならPsFが使われることがある。
- アーチビング・マスタリング:将来の再利用を考えると可能な限りプログレッシブか、フィールド情報を厳密に管理することが望ましい。
実務でのチェックポイント(制作・配信担当者向け)
- 撮影機材がプログレッシブ出力かインターレース出力かを確認する。
- 編集ソフトのプロジェクト設定(フレームレート、解像度、フィールドオーダー)を素材に合わせて正しく設定する。
- 配信フォーマット(プラットフォームの推奨解像度・フレームレート)に合わせてエンコード設定を行う。
- 古いインターレース素材を扱う場合は、適切なデインタレース/復元処理を行い、視覚アーティファクトを最小化する。
まとめ:なぜ今プログレッシブが重要か
ディスプレイ技術・コーデック・伝送帯域が進化した現在、プログレッシブは映像制作・配信におけるデファクトスタンダードになりつつあります。プログレッシブは映像の鮮明さ、編集の容易さ、圧縮効率の面で有利であり、特にウェブやモバイル、ゲーム実況、ストリーミングといった分野では明確な利点があります。とはいえ、放送やレガシー機器との互換性、また帯域や制作ワークフローの制約によりインターレースが完全に消えたわけではありません。選択は目的・配信先・視聴環境に依存するため、それぞれの長所短所を理解した上で適切な方式を選ぶことが重要です。
参考文献
- Wikipedia — 走査方式(インターレースとプログレッシブ)
- Wikipedia — プログレッシブスキャン
- Wikipedia — Interlaced video (English)
- Wikipedia — Progressive picture (English)
- Wikipedia — Deinterlacing (English)
- ITU — International Telecommunication Union(映像コーディング・放送標準の参照先)


