ビル・ラスウェルの名盤ガイド:Baselines から Tabla Beat Science まで、境界を越えるサウンドの聴き方とおすすめ盤
序文 — ビル・ラスウェルという音楽家の魅力
Bill Laswell(ビル・ラスウェル)はベーシスト、プロデューサー、コンポーザーとして1980年代から現在まで国境とジャンルを横断し続ける稀有な存在です。ジャズ、ダブ、アンビエント、ワールドミュージック、ポストパンク、ヘヴィロック、エレクトロニカまで自在に行き来し、コラボレーターとの相互作用によって常に“境界を溶かす”音像を生み出してきました。本稿ではレコード(アナログ)のフォーマットで聴く価値の高い推薦盤を選び、各作の背景、聴きどころ、作品が放つ意味について深堀りして解説します。
選び方の視点(短く)
- 「プロジェクト単位で聴く」:Laswellはソロ名義よりもバンド/プロデュース作品で特色が出ることが多いので、プロジェクト名で追うと系譜がわかりやすい。
- 「コラボレーターを軸に聴く」:共演者(例:ウィリアム・S・バロウズ、バケットヘッド、タルヴィン・シン、ザキール・フセインなど)でサウンドの方向性が大きく変わる。
- 「ジャンル横断を楽しむ」:一枚ごとに期待するジャンルをリセットして聴くと、Laswellの“接着力”を楽しめる。
推薦盤 1 — Baselines(Bill Laswell 名義)
概要:Laswell の初期ソロ的作。ベースを軸にジャズの即興性、ファンクのグルーヴ、ダブ的な空間処理が混ざり合う作品です。彼の“ベースによる世界観構築”を素直に感じられる点で入門に向いています。
聴きどころ:
- 低音の立ち上がりと残響処理の使い方に注目。ベースがメロディ/テクスチャ両方の役割を果たします。
- 即興的なやりとりや空間処理が多く、長めのトラックで「場」が変化する様を追うと面白い。
なぜおすすめか:Laswell の音楽的な基盤(グルーヴ感、録音空間の使い方、ジャンル融合)が端的に示されており、その後の多彩なプロジェクトを理解するための“原点”として有効です。
推薦盤 2 — Material:Memory Serves(Material 名義/初期作品)
概要:Material は Laswell が中心になって動かしたコレクティヴ的プロジェクト。初期作はポストパンク的な鋭さとファンク/ジャズをブレンドしたサウンドが特徴で、80年代の実験精神が濃厚に残ります。
聴きどころ:
- リズムの硬質さと低音の太さの対比。エッジのあるギターや電子音響がアクセント。
- ヴォーカル/ゲスト奏者のバラエティが豊かで、曲ごとに色合いが大きく変わる。
なぜおすすめか:Laswell が“プロデュースする側”としての手法(編集、ダブ的処理、ゲストの配置)がよく出ているため、後年の膨大なプロデュースワークを辿る上で重要です。
推薦盤 3 — Seven Souls(Material + William S. Burroughs)
概要:ウィリアム・S・バロウズ(作家)による朗読/語りと Laswell(Material)サウンドが融合したコンセプチュアルな作品。言葉と音の相互作用を前面に押し出した、文学的かつ実験的なアルバムです。
聴きどころ:
- バロウズの声の存在感と、それを取り巻く重層的な低域/ダブ処理。言葉が音響に溶け込んでいくさまを聴く。
- 民族的なモチーフやリズムが断片的に差し込まれ、物語性と音響実験が同居する点。
なぜおすすめか:文学と音響の境界を探る貴重な例であり、Laswell の“コラボレーションによる意味生成”という手法が最も明確に示された作品の一つです。
推薦盤 4 — Oscillations(Bill Laswell 名義/電子・アンビエント寄りのシリーズ)
概要:電子的・反復的な要素を強めたソロ/プロジェクト作品群。ダブの空間感とミニマル/アンビエントの反復構造が混在します。
聴きどころ:
- 反復されるモチーフと微細に変化するテクスチャ。短い変化を追っていくと作品の“内部構造”が見えてくる。
- 低域のコントロールと残響、フィルター処理が楽曲の表情を決定づける。
なぜおすすめか:派手さはないが“聴く時間”の作り方が巧妙で、Laswell の音響設計能力を音響的に体感できます。夜間や集中して聴くのに向いています。
推薦盤 5 — Praxis:Transmutation (Mutatis Mutandis)
概要:Praxis は Laswell が参加/主導した実験的ロック/エクスペリメンタルユニット。ギター・ヘヴィなサウンドと即興、ダブやファンクの要素が混ざり合う作品で、ロック寄りの激しいダイナミクスが特徴です。
聴きどころ:
- ギターの極端な音色処理や重低域の衝撃。アグレッシブな音像を楽しめます。
- 即興性が強いため、フレーズの瞬間的な展開を聴き逃さないようにするのが鍵。
なぜおすすめか:Laswell の“ロック方面での表現”を示す代表作で、彼がいかにジャンルの壁を壊していったかを体感できるアルバムです。
推薦盤 6 — Tabla Beat Science:Tala Matrix(または同名義の作品)
概要:南アジアの打楽器(タブラ等)とエレクトロニクス/プロダクションを融合させるプロジェクト。Laswell はワールド・ミュージックやフォーク音楽の要素をエレクトロニクスと接合する手法に長けており、ここではその手腕が明確に表れます。
聴きどころ:
- 打楽器の繊細なリズムと、Laswell 的な重低域・空間処理のバランス。
- 伝統的なリズムの“循環”と現代的プロダクションの干渉が生む緊張感。
なぜおすすめか:ワールドミュージック寄りの実験が好きなリスナーにとって、Laswell の“文化横断的なプロダクション”の好例となる一枚です。
各アルバムを深く聴くためのポイント(実践的)
- 一回目は「大きな流れ」を掴む:曲の始まり〜中盤〜終盤の構造変化に注目する。
- 二回目以降は「要素別リスニング」:低音、ドラム、エフェクト、ゲストの声/ソロなどを分離して聴くと発見がある。
- 類似作と並べて聴く:Material の初期作→Seven Souls→Oscillations の順など、作風の移り変わりを見るとLaswellの作為が見えてくる。
- 歌詞や朗読がある作品では、言葉の位置づけ(前面/背景・ループ)を意識すると、音の意味付けがわかる。
おすすめの聴き順(初心者向け)
- まずはBaselinesでLaswellのベース感覚と空間作りに慣れる。
- 次にMaterialの初期作でコラボレーション/編集的作法を学ぶ。
- 七つの魂(Seven Souls)で文学的実験を体験し、その延長でOscillations系を聴いて音響の美学に浸る。
- 最後にPraxisやTabla Beat Scienceでジャンル横断の“衝突”を味わう。
ラスウェルを掘るための周辺人物/作品(短め)
- William S. Burroughs(朗読とのコラボ)
- 様々なゲスト・ミュージシャン(インプロヴィゼーション系、ワールド系、ロック系)— 彼らとの接点が作品の色を決める
- Laswell が関わったアーティストのリミックス/プロデュース作品(幅広く横断的)
最後に — Laswell のレコードを楽しみ尽くすために
Bill Laswell の作品は「一回で理解できる」タイプではなく、聴き方を重ねるごとに新しい結び付きが見えてくるタイプです。各アルバムは単なる“曲の集合”ではなく、プロデューサー/アレンジャーとしてのLaswellが配置した音のパズルであり、コラボレーターと共同で作った“場”です。ジャンルの境目が気にならないリスナー、音響の構造やプロダクションに興味がある人ほど、彼のディスコグラフィーは宝の山になるでしょう。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery


