レス・マッキャンのソウルジャズ名盤ガイド:Swiss Movementを起点に聴き方・時代別解釈・社会性を徹底解説
レス・マッキャン(Les McCann)とは — まずイントロダクション
レス・マッキャンはピアニスト/声楽表現を併せ持ったソウルジャズの代表的なアーティストです。1960年代のアコースティックなトリオ~カルテットでのソウルフルな演奏から、1970年代に入ってのエレクトリック化・ゴスペル的な大編成・政治的メッセージを帯びた作品まで、幅広い音楽性を残しています。ジャズのグルーヴ、ブラック・ミュージックの感覚、そして時に政治的/社会的な言葉を伴う歌唱が同居する点が彼の魅力です。
おすすめレコード(厳選)と深掘り解説
1. Swiss Movement(Les McCann + Eddie Harris) — 「米国ソウルジャズの爆発」
概説:1969年のモントルー・ジャズ・フェスティバルでのライヴを収録したアルバム。レス・マッキャンとテナー奏者エディ・ハリスの共演は、ジャズとソウルの境界を飛び越え、瞬時に大衆の心をつかみました。
- 聴きどころ:代表曲「Compared to What」は政治的/社会的メッセージを込めた歌詞と、激しい即興の掛け合いが印象的。スウィング感よりもグルーヴを重んじた演奏で、観客を巻き込む熱量があります。
- 音楽的意義:ジャズの“ヒット”が生まれた例のひとつ。即興とソウルフルなボーカル表現が結びつき、後のフュージョンやクロスオーバーの潮流に影響を与えました。
- おすすめの聴き方:まず「Compared to What」を一度通して聴き、その後全編を通してライブならではのテンポ感や空気を味わってください。
2. Les McCann(初期トリオ/アコースティック期の代表作群) — 「ソウルジャズの基礎を味わう」
概説:レス・マッキャンの初期はピアノ・トリオを基盤とした演奏が多く、ブルージーでソウルフルなタッチ、即興の歌心が前面に出ています。こうしたレコード群は“ソウルジャズ”というジャンルの教科書的側面を持ちます。
- 聴きどころ:ピアノのタッチ、リズムセクションとの密なグルーヴ、シンプルだが説得力のあるメロディライン。
- 音楽的意義:エレクトリック時代以前の、ジャズとしての「骨格」を示すレコード。ジャズ・ピアノの暖かさとブラック・ミュージック由来のリズム感が学べます。
- おすすめの聴き方:アルバム単位で通して聴くと、プレイヤーとしての成長や演奏スタイルの変化がよくわかります。コアなジャズファンは、これらを「本質」を理解するための入口にしてください。
3. Invitation to Openness(電化期の大作) — 「実験性と解放感」
概説:1970年代に入ると、レス・マッキャンはエレクトリック楽器、長尺の即興、大編成コーラスなどを取り入れた作品を発表します。本作は自由な演奏時間とモード的な展開、ファンク/ゴスペルの要素が溶け合った野心的なアルバムです。
- 聴きどころ:長尺トラックによる展開の妙。反復されるリフの上でソロが伸び、ゴスペル的なコーラスやホーン・アレンジが厚みを出します。
- 音楽的意義:ジャズの即興性と黒人音楽の集団的表現が融合した一枚で、当時のクロスオーバー志向を象徴します。ヒップホップ以降のサンプリング文化からも評価される要素を含みます。
- おすすめの聴き方:一気に聴くよりも、長めのトラックを区切りなく通して聴き、展開のビルドアップを体感してください。
4. Talk to the People(歌とメッセージを強く押し出した作品) — 「社会性と歌の力」
概説:この時期の作品には明確なメッセージ性があり、歌詞やコーラスで直接的に社会問題や連帯を語る曲が含まれます。レスのヴォーカル表現は感情の直截さが魅力で、ジャズ的な技巧を超えた説得力を持ちます。
- 聴きどころ:ボーカル表現、コーラスワーク、社会的テーマを扱う歌詞。ゴスペルやR&B的な感情表現が前面に出ます。
- 音楽的意義:ジャズ・ミュージシャンが社会的発言を音楽に組み込む好例。ジャズが単なる音楽的娯楽でなく、メッセージ伝達の手段になりうることを示しています。
- おすすめの聴き方:歌詞を目で追いながら聴くと、当時の文脈やレスの人間性がより深く伝わります。
5. 1970年代のファンク/クロスオーバー期の名作群 — 「ダンス・フィールと即興の混交」
概説:レス・マッキャンは70年代中盤に、よりファンキーでダンサブルな要素を強めたアルバム群を残しています。ホーン・アレンジやエレクトリック・ピアノ、リズムの強調により、クラブやラジオで映えるサウンドに進化しました。
- 聴きどころ:短めのグルーヴィーな楽曲と、演奏のスピード感。DJやサンプラーに発見されやすいリフやブレイクが多く含まれます。
- 音楽的意義:ジャズの裾野がダンス・ミュージックやR&Bに接近した時代の記録。ブラック・ミュージックの流れを俯瞰するうえで重要です。
- おすすめの聴き方:ベスト盤やコンピでファンク寄りの曲をまず掴み、そこからアルバム全体に入っていくと入りやすいです。
どういう順番で聴くのが良いか(聴取ガイド)
- 入口:まずはSwiss Movementで“レス・マッキャンの熱量”を体験。
- 次に:初期トリオ作品でピアノの基本とソウルフルな感性を確認。
- その後:Invitation to Opennessなどの長尺・電化作品で新境地を味わう。
- 最後に:Talk to the Peopleやファンク寄りのアルバムで社会性とダンス感覚を理解する。
ディープリスニングのポイント — 聞き分けるコツ
- ピアノのタッチ:初期はアコースティックな“鍵盤の叩き”が前面に出ます。中期以降はエレクトリック鍵盤の色合いが増えます。
- 歌(ヴォーカル)の有無:レスはボーカルも行うため、インスト中心なのか歌が主軸なのかで楽しみ方が変わります。
- アンサンブルの厚み:トリオ〜クインテットと大編成/コーラスありの作品では、ダイナミクスと編曲の重心が変わるので注目してください。
- 社会的文脈:歌詞やアルバムのムードに当時の社会情勢(公民権運動、反戦運動など)が反映されていることが多いです。歌詞を追うと新たな理解が得られます。
まとめ:レス・マッキャンを楽しむために
レス・マッキャンは「ソウル」と「ジャズ」を橋渡しする稀有な表現者です。ライヴの熱量、ピアノの直感、歌の生々しさ、そして70年代の実験的試み――どのフェーズから入っても魅力に溺れます。まずは一枚、次に別のフェーズの一枚、というふうに聴くと変化と一貫性が見えてきます。
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参考文献
- Les McCann — Wikipedia (英語)
- Swiss Movement — Wikipedia (英語)
- Les McCann — AllMusic
- Les McCann — Discogs
- Montreux Jazz Festival — Official site


