Nurse With Wound(NWW)プロフィールと代表作・聴き方ガイド—実験音楽の世界を探る
Nurse With Wound — プロフィール
Nurse With Wound(以下 NWW)は、イギリス出身の実験音楽プロジェクトで、中心人物はスティーヴン・ステイプルトン(Steven Stapleton)です。1978年にスティーヴン・ステイプルトン、ジョン・フォザーギル(John Fothergill)、ヒーマン・パタク(Heman Pathak)によって結成され、初期は複数人の即興演奏を基盤にした作品群を発表しました。やがてステイプルトンが実質的な主宰者となり、さまざまなゲストやコラボレーターを迎えつつ、膨大で断片的、そして予測不可能なサウンドワークを生み出すプロジェクトとして知られるようになりました。
サウンドとスタイルの特徴
コラージュ/テープ操作:NWWの核は、フィールド録音、テープループ、既存音源の切り貼り、サウンドエフェクトを重ねることで生まれる音のコラージュ技法です。楽曲というより「音の風景」を構成する手法が多く見られます。
ジャンル横断的・反ジャンル性:ポストパンク、インダストリアル、ノイズ、アンビエント、現代音楽、フォーク、ジャズ的断片など、あらゆる要素を融解させるため、明確なジャンルに収まりません。
シュールリアリズムとユーモア:不穏で奇怪な響きだけでなく、ブラックユーモアや視覚的イメージを伴う作品が多く、カバーアートやタイトルも重要な表現要素です。
コラボレーション/ゲスト:Current 93(デイヴィッド・チベット)やCoilなど、同時代の前衛アーティストとの緊密な関係があり、しばしばゲスト参加者が音像に特異な色を与えます。
プロダクションの実験性:リズムやメロディを従来通り追うのではなく、空間・テクスチャ・ノイズの「質感」を徹底的に探求します。そこから生まれる不安感・陶酔感・異様な美しさが魅力です。
代表作・名盤(解説付き)
Chance Meeting on a Dissecting Table of a Sewing Machine and an Umbrella(1979)
NWWのデビュー作で、グループ初期の衝動と実験精神が凝縮された一枚。即興のテンション、過激な編集、そして後の「Nurse With Woundリスト」を含むパッケージは、当時の前衛/インダストリアル・シーンに衝撃を与えました。To the Quiet Men from a Tiny Girl(1980)
初期の即興性を保ちつつ、より抽象的・前衛的な音響世界を推し進めた作品。音の間や沈黙の使い方が印象的で、聞き手に解釈の余地を多く残します。Spiral Insana(1986)
複数のコラージュ手法、ゲストワーク、より精密な編集技術が結び付き、NWWの「濃密な音の迷宮」が顕在化したアルバム。長尺で展開する断片的パートの連なりが特徴です。Soliloquy for Lilith(1988)
ドローン的で陰鬱な美が際立つ作品。NWWの中でも特に静的・沈澱した感覚が強く、じっくりと“場”を堆積させるタイプの傑作として高く評価されています。A Sucked Orange(編集・逓減的作品集, 1989)
断片的な音源やアウトテイクを集めた一連の編集盤的作品で、NWWの「残響」を拾い上げるような楽しみがあります。コレクターズアイテムとしても価値が高いです。
「Nurse With Woundリスト」とその影響
NWWのデビュー作のパッケージに附属していた「Nurse With Woundリスト」は、ステイプルトンらが影響を受けた膨大なアーティスト名の一覧です。このリストは当時ほとんど知られていなかった実験音楽/アヴァンギャルド系のアーティストを照らし出し、後に多くのリスナーがその名前を手がかりに発掘を始めるという波及効果を生みました。事実上の「発見ガイド」として、NWWは自身の影響源を提示することでシーン全体の視野を広げました。
コラボレーションとコミュニティ的側面
NWWは単独作業だけでなく、同時代の実験音楽家たちとの協働によってその音楽領域を拡張してきました。Current 93、Coil、などとの交流は互いに刺激を与え合い、80年代以降の英国アンダーグラウンド音楽の重要な結節点となりました。また、ステイプルトンが主宰するレーベル(United Dairiesなど)を通して独自のリリース哲学を展開し、実験音楽の流通と保存にも貢献しています。
Nurse With Woundの魅力 — なぜ聴き続けられるのか
発見の余地が尽きない:断片的で非線形な構成ゆえ、何度聴いても新しいディテールや接続が発見できます。
想像力を刺激する音像:映像を伴わない「音の映画」的な濃密さがあり、聴く人それぞれの想像を喚起します。
反商業的な美学:流行やラジオ・ヒットを意図せず、実験そのものを追求する姿勢が強い共感を呼びます。
芸術としての一貫性:長年にわたる活動の中で一貫した視覚・音響の美学を保ちつつ常に変化している点が、コアな支持を集めています。
聴き方の提案(入門〜深掘り)
入門者は代表作(上記のデビュー作やSoliloquy for Lilith、Spiral Insana)から聴くとNWWの“核”に触れやすいです。
ひとつのアルバムを通して“流れ”を追うより、断片ごとに耳を傾けることで各テクスチャの差異や編集の妙を味わえます。
関連アーティスト(リストに挙がる古今の実験家たち)を掘ることで、NWWがどのような音楽史的脈絡の中にあるかをより深く理解できます。
まとめ
Nurse With Woundは、単なる音楽プロジェクトを越えた「実験の場」であり、20世紀後半以降のアンダーグラウンド音楽に対して持続的かつ多層的な影響を与えてきました。スティーヴン・ステイプルトンのビジョンは、音響的な遊びと美学的な執着が混ざり合った独自の宇宙を作り上げ、聴き手に終わりなき探求を促します。実験音楽に興味があるなら、ぜひ一度その奇怪で魅惑的なサウンドの海に足を踏み入れてみてください。
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参考文献
- Nurse with Wound — Wikipedia
- Nurse With Wound — Biography (AllMusic)
- Brainwashed — Nurse With Wound
- Nurse With Wound — Discogs


