Proof of Space(PoS)入門:仕組み・PoSTとの違い・利点・欠点とChia・Burstcoinなどの実装事例
Proof of Spaceとは
Proof of Space(PoS、ここでは「空き領域証明」と訳します)は、暗号通貨や分散システムにおいて「一定量の記憶領域(ディスク容量)を確保していること」を効率的に証明するための暗号的プロトコル群の総称です。従来のProof of Work(PoW:計算量証明)が計算リソース(電力とハッシュ計算)を消費するのに対し、Proof of Spaceは主にストレージ容量をリソースとして利用します。
歴史的背景と発展
Proof of Spaceに近い考え方はPoWの代替案を模索する流れの中で登場しました。2010年代に「Proof of Capacity」として既存のプロジェクト(例:Burstcoin)で実装されたのち、2017〜2018年にBram Cohenが提案したChiaプロジェクトにより「Proof of Space + Proof of Time(PoST)」という形で広く注目を集めました。Chiaはエネルギー消費の削減を主張し、新たな経済的インセンティブと技術的課題(ディスク磨耗やストレージ需給の変化)を生み出しました。
基本的な仕組み(技術的解説)
概念的には以下の2段階に分かれます。
- プロット(plotting):ランダムなデータを用いてディスク上に大容量の構造化されたデータセット(プロット)を事前に作成・保存します。プロット作成は計算(CPUや一時的なSSD使用)を要しますが、一度書き込めばその後は保管に主にストレージを使います。
- ファーミング/証明生成(farming / proving):ブロックチェーンからのランダムなチャレンジに対し、保存してあるプロットを高速に参照して短い応答(証明)を生成します。検証者はその応答を短時間で検証でき、応答が正当であればそのファーマー(保存者)は報酬の権利を得ます。
重要なポイントは、検証が非常に軽量である一方、プロット作成時に大量のディスク領域と初期の計算が必要であることです。非対話的な設定では、チャレンジと応答をハッシュ関数で結び付けることで改ざん耐性と再現性を担保します(Fiat–Shamirのような考え方)。
Proof of Space と Proof of Space-Time(PoST)の違い
「Proof of Space」単体は“ある時点でその空間を保有している”ことを示すのに対し、「Proof of Space-Time」は“ある期間にわたりその空間を継続的に保有していたこと”を証明します。ChiaなどはProof of Spaceに加えてVerifiable Delay Function(VDF)やProof of Timeを導入し、短期間の“グラインディング(多数のプロットを使った試行)”などの戦略的攻撃を抑止し、時間経過を考慮した公平性を確保しようとします。
代表的な実装例
- Burstcoin / Proof of Capacity:先駆的なプロジェクトで、ディスクに計算済みのノンス(nonce)を保存して検証に使う方式を採用しました。
- Chia:Bram Cohenが提唱した設計で、プロットの構造化・チャレンジ応答・Proof of Timeの組合せにより新しいエコシステムを構築しました。Chiaでは「プロッティング(plotting)」と呼ばれる前処理と、「ファーミング(farming)」と呼ばれる継続的参加が特徴です。
利点
- 消費電力がPoW(ビットコイン等)に比べ相対的に低いとされる(継続的なハッシュ計算による大量電力消費を避けられる)。
- 既存の汎用ハード(HDD/SSD)を利用できるため、初期投資がASIC主導のPoWより低くなる場合がある。
- 検証が軽量で高速:ネットワーク上での検証コストが小さい。
欠点・批判点
- ディスク寿命と部品消耗:大量の書き込みを伴うプロット作成はSSDの耐久性を大きく消耗し、短期的にSSD需要を増やして供給問題と廃棄物(E-waste)の増加を招く可能性があると指摘されました。
- 実質的な資源消費:エネルギー消費が低くても、大量のストレージの生産・輸送・廃棄が環境負荷になる点は無視できません。
- 中心化のリスク:大量の空き領域を先に用意できる事業者や大規模農場が有利になり得る。低コストで大量のストレージを確保する企業がネットワークを支配する懸念があります。
- 攻撃ベクトル:Proof of Space単体では、チャレンジに対して最適化されたプロットを多数作ることで優位を取る“グラインディング”やSybil的な参入が完全には防げないため、PoSTなど追加メカニズムが必要です。
攻撃と対策
代表的な攻撃とその対策は以下の通りです。
- 大量作成(スパム的プロット生成):ストレージ数がそのまま勝率に直結するため、安価に大量のプロットを作れる主体が有利になります。これを緩和するためにProof of TimeやVDF(一定時間を要する関数)で応答の順序性や公平性を保とうとする設計が採られます。
- プロット最適化(grinding):特定のプロット構成が当選確率を高めるような最適化が可能かどうかが研究課題です。設計側はプロット作成のランダム性や検証時のチャレンジ選びを工夫して対策します。
- データ改ざん:保存データを改ざんしたら証明は成立しないため、通常の暗号的整合性チェック(ハッシュ等)で防げます。
運用上の実務的注意点
PoS系のネットワークに参加する際の現実的な留意点は次の通りです。
- プロット作成は一回あたり計算負荷が高く一時的にSSDを酷使するため、専用の一時ストレージ(高耐久SSD)を使いプロット完成後に長期保管用のHDDに移すといった運用が一般的です。
- 保有するストレージ容量がそのまま競争力になるため、事業者化・大規模化しやすい側面があり、分散性の維持には設計・運用ポリシーが重要です。
- 環境面の配慮(リユースHDDの利用、廃棄ポリシー)や地域の電力事情も考慮すると良いでしょう。
今後の展望
Proof of SpaceはPoWに対する一つの現実的代替としての魅力を持ちますが、完全な解となるわけではありません。ストレージを巡る経済的・環境的インセンティブ、中央集権化の危険性、攻撃耐性の設計(PoSTやVDFの導入)など、技術面・社会面の双方で検討を要します。ブロックチェーンのスケーラビリティや持続可能性を高めるために、今後もハイブリッドな合意方式や新しい検証手法が研究・実装されるでしょう。
参考文献
- Proof of space — Wikipedia
- Chia Network — A new cryptocurrency based on proof of space and time(Bram Cohen; チア・ホワイトペーパー)
- Proof of capacity — Wikipedia (Burstcoin などの実装例)
- Ars Technica — Chia wants to be green but is killing SSDs (記事:Chiaの影響)
- CoinDesk — Chia Coin demand and SSD supply (報道記事)


