キャロル・ケイのベース演奏を聴く:60年代〜70年代の名盤ガイドと聴きどころ
はじめに — キャロル・ケイとは
キャロル・ケイ(Carol Kaye)は、1960年代から70年代にかけてハリウッドのスタジオ・シーンで数え切れないセッションに参加した、伝説的なベーシスト/ギタリストです。いわゆる「ザ・レッキング・クルー(The Wrecking Crew)」の中心的存在でもあり、ポップ、ロック、ソウル、フィルム音楽、テレビ主題歌など幅広いジャンルのヒット曲にそのプレイが刻まれています。本コラムでは「レコード(盤)」という切り口で、キャロル・ケイのプレイを楽しめるおすすめ作品と、聴きどころを深掘りします。なお、セッションクレジットは資料や版によって差異があるため、参加状況については可能な限り出典を明示します。
おすすめレコード(聴きどころ付き)
Nancy Sinatra — Boots(1966)
代表曲「These Boots Are Made for Walkin'」を含むアルバム。低域でリズムをぐっと支える、グルーヴの要となるベースラインはキャロル・ケイによる演奏として広く知られています。シンセや多重録音の前、シンプルなエレキ・ベースで曲全体を引き締める技巧が味わえます。
聴きどころ:イントロ〜Aメロでのワンフレーズの繰り返しと、ブリッジでのアクセント。ワンプレイで曲を牽引する“歌うベース”を意識して聴いてください。
Various Artists — The Wrecking Crew(サウンドトラック/コンピレーション)
「ザ・レッキング・クルー」関連のコンピレーションやドキュメンタリー・サウンドトラック(映画『The Wrecking Crew』関連)には、キャロル・ケイのプレイが多数収録されています。個々のヒット単曲ごとに参加者が異なるため、「当たり」を探しながら聴く楽しさがあります。
聴きどころ:ジャンルを横断する彼女のアプローチ(シンプルなルート弾きからメロディックな動きまで)が一枚で比較できます。
Sonny & Cher — シングル/ヒット集(1960年代のシングル群)
「The Beat Goes On」など、60年代のヒット・シングル群ではキャロル・ケイが参加したとされる曲が多く見られます。ポップ/フォーク寄りの曲でもベースが巧みに曲調を形成しているのが分かります。
聴きどころ:メロディーを邪魔しないシンプルさと、必要な瞬間に入るフィルやハーモニックな動き。
Phil Spectorプロデュース楽曲のシングル群(例:「You've Lost That Lovin' Feelin'」等)
フィル・スペクターの“ウォール・オブ・サウンド”系のセッションにもキャロルは多く参加しました。厚いアレンジの中で低域を明確に保つことで、密度の高いミックスを成立させる役割が聴き取れます。
聴きどころ:密なアレンジの中での音の抜け方、ベースのアタック感とサステインの使い分け。
The Beach Boys 関連(「Pet Sounds」などのセッション曲)
ブライアン・ウィルソンの壮麗なアレンジ作品にも、キャロル・ケイが参加したとする資料が多くあります(セッション録音の記録は諸説あり)。メロディと和声を同時に支えるような、歌心のあるベースワークが特徴です。
聴きどころ:「Wouldn't It Be Nice」「God Only Knows」系の繊細なバッキングでの音楽的な選択(どの音を抜くか・加えるか)に注目。
TV/映画音楽のシングル&アルバム(60s〜70s)
テレビ主題歌や映画音楽でもキャロルは多数の録音に携わっています。短いフレーズで印象を残す技術、ジャンル適応力の高さが光ります。
聴きどころ:短尺フレーズで「印象を決める」極意──曲のアイデンティティを支える低音の言葉選び。
コンピレーション/アーカイブ盤(ディスコグラフィ検索で見つける)
ディスコグラフィ(Discogs や公式サイト)には彼女の参加が確認されるシングル/アルバムが数多く登録されています。ジャンルや年代別に聴き比べると、プレイの違いや進化が明確になります。
聴きどころ:年代別の機材(プレシジョン/ジャズベース、ピックや指弾き、アンプ)の違いとそれがサウンドに与える影響。
聴くときのポイント(ベーシスト以外にもおすすめ)
「フレーズの選び方」を追う:キャロルのプレイは決して過度に装飾的ではなく、曲の輪郭を整えるための最小限の動きが効果的に使われます。どの音を省き、どの音を強調しているかを追ってみてください。
「音の置き場所(タイミング)」に注目:彼女はワン&スリーを強調するだけでなく、サブディビジョンでの小さな遅れやアクセントでグルーヴを作ります。スナップやアタックのニュアンスに注目すると面白いです。
モノ〜初期ステレオ録音を楽しむ:当時のミックスは現在と違い、ベースの位置やEQがユニークです。原盤で聴くと当時のスタジオ感がより明確になります。
アレンジと対話するベース:ストリングスやブラス、ギターとの掛け合いでどのように「隙間」を作っているかを確認してください。良いセッションベースは“フィラー”ではなく“対話”です。
聴き比べのおすすめプラン
ステップ1:代表的なヒット(例:「These Boots Are Made for Walkin'」)を1曲じっくり聴き、ベースラインの輪郭を掴む。
ステップ2:同時代の別ジャンル(Phil Spector系の厚いプロダクション、ビーチボーイズ型の精密アレンジ)を並べ、ベースの役割の違いを比較する。
ステップ3:コンピレーションやディスコグラフィで“クレジットが確かな曲”を掘っていく。演奏のバリエーションやコピーの違いも面白い発見になります。
注意点(クレジット表記について)
1960年代のスタジオ録音はクレジットが不完全だったり、資料によって参加者リストが食い違うことが多々あります。ここで挙げた曲・アルバムも、出典によって「参加が報告されている」「複数のミュージシャンが担当した可能性がある」といった表現が見られます。正確な参加状況を確認したい場合は、下の参考文献やディスコグラフィ資料を参照してください。
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まとめ
キャロル・ケイの真価は「目立つかどうかではなく、曲を成立させること」にあります。初心者でも楽しめるキャッチーなラインから、プロの耳に訴える精緻なバッキングまで、その演奏は学びと発見の宝庫です。まずは一曲、耳をすませて低域の“選択”と“間”を感じ取ってみてください。
参考文献
- Carol Kaye — 公式サイト(Sessionography 等)
- Carol Kaye — Wikipedia(英語)
- Carol Kaye — Discogs(ディスコグラフィ)
- Carol Kaye — AllMusic(略歴・参加作品)
- The Wrecking Crew(ドキュメンタリー映画) — IMDb
- The Wrecking Crew 関連コンピレーション(参考)


