ムラトゥ・アスタトケのエチオ・ジャズ・レコード完全ガイド—名盤と聴きどころ・購入のポイントを徹底解説
はじめに — ムラトゥ・アスタトケとは何者か
ムラトゥ・アスタトケ(Mulatu Astatke)は「エチオ・ジャズ(Ethio-Jazz)」の開拓者として世界的に知られる作曲家/奏者です。西洋のジャズ理論やラテン・リズムの技法を、エチオピア固有の旋法(qenet:テゼタ/バティなど)や民俗メロディに溶け込ませたユニークなサウンドは、1960〜70年代のアディスアベバ音楽シーンを越えて、世代を超えて愛されています。本コラムでは「レコード(LP)」にフォーカスして、音楽的な魅力、代表作・名盤の聴きどころ、買うときに知っておきたいポイントを深掘りします。
ムラトゥの音楽的特徴(レコードを聴く上で押さえておきたいこと)
モード(旋法)感覚:エチオピアの伝統旋法(テゼタ、バティ等)に基づいたメロディラインが土台。西洋ジャズのハーモニーや即興と結びつくことで、独特の「懐かしさ」と「新しさ」が同居します。
リズムとアレンジ:ラテン〜アフロ・キューバン由来のパーカッション、ファンキーなベースライン、ブラスの編成を導入。これにより“ジャズ+民族音楽+ダンス性”という多層的なグルーヴが生まれます。
打楽器とヴィブラフォン:ムラトゥ自身の主楽器であるヴィブラフォン(vibraphone)は、メロディを浮かび上がらせる重要な要素。レコードでの録音帯域やアレンジ次第で、ヴィブラフォンの音色が作品の印象を大きく左右します。
おすすめレコード(名盤・入門盤)
Mulatu of Ethiopia(初期アルバム/代表作)
ムラトゥの初期〜70年代のスタイルがそのまま詰まった一枚。民族旋法をベースにしたメロディ、ラテン〜ジャズのリズム、ホーン・アレンジのバランスがよくわかるため、エチオ・ジャズ入門にも最適です。初期オリジナル盤はコレクターズアイテムですが、近年の良質なリイシュー(リマスター盤)で十分に音楽の核心を楽しめます。
聴きどころ:ヴィブラフォンのリリカルな旋律、ホーンセクションとパーカッションの掛け合い、代表的モードに基づくメロディの展開。
Mulatu Steps Ahead / その他70年代アルバム(ファンキー/ダンサブル寄り)
ムラトゥの70年代作で、ファンクやソウルの影響が色濃く出た作品群。映画音楽的なドラマ性や都会的なグルーヴが特徴で、ダンス要素の強いトラックも多く、DJやサンプリングの対象にもなっています。
聴きどころ:ブラスのリフ、ファンキーなリズムセクション、エレクトリック楽器と伝統旋法の融合。
New York - Addis - London: The Story of Ethio-Jazz 1965–1975(編集・コンピレーション)
ムラトゥを含むエチオ・ジャズの重要音源を年代順にまとめたコンピレーション。個別LPを追い切れない場合、これ一本で様々なスタイルと歴史的背景を把握できます。オリジナルのシングル盤やマイナー盤を含めて聴ける場合が多く、コレクションの入口としておすすめです。
聴きどころ:時代ごとのスタイル変遷、ムラトゥ以外のプレイヤーとの比較、録音の多様性。
Inspiration Information(Mulatu Astatke & The Heliocentrics/現代的再解釈)
2000年代に入ってからの再評価期に制作されたコラボ作で、英国のサイケ/ヒップホップ的センスを持つThe Heliocentricsとの共作です。古いモチーフの再構築やスタジオの実験精神が際立ち、オリジナルの魅力を現代的に再提示しています。音質やアレンジにこだわるリスナーにも刺さるリイマジネーション作品。
聴きどころ:過去のテーマのモダンな再解釈、サンプリング感覚に近い編集やプロダクション。
Ethiopiquesシリーズ(Buda Musique)に収録されたムラトゥの音源
フランスのレーベルが編纂した「Ethiopiques」シリーズは、エチオピア音楽全体を知る上で必須のコレクション。ムラトゥの重要トラックが複数の巻に拾われており、単独LPを探すより発見が多い場合があります。背景解説も充実しているので、音楽史的理解を深めたい人に向きます。
聴きどころ:他プレイヤーとの比較、当時の音楽シーンの文脈。
ライヴ盤/近年のコラボレーション盤(現場の熱量を知る)
ムラトゥのライブ演奏は、レコーディングとまた別の即興性・ダイナミクスを持っています。現行のバンド編成や観客とのインタラクションを記録した盤を1枚持っておくと、スタジオ盤とは違う側面が見えてきます。
聴きどころ:即興の展開、リズムのアグレッシブさ、ライブならではのアレンジ。
各盤を買うときの実務的なポイント(購入ガイド)
オリジナル盤はコレクター価値が高く、価格が跳ね上がっていることがある。音質や歴史的価値を重視するならオリジナルを探すのもアリだが、良質な公式リイシュー(リマスター・180gプレス等)で聴くほうがコスパは良い。
コンピレーション(Ethiopiques、Strut系の編集盤など)は、時代背景や別テイクをまとめてチェックできるため“まずはこれ”という選択肢に向く。
再発盤の帯域バランスやマスタリングの違いでヴィブラフォンやホーンの抜け方が変わるため、試聴できるなら複数盤を比較するのが理想。
クレジット(録音年、ミュージシャン表記)を確認すると、その盤がどの時期の演奏か、どのミュージシャンが関わっているかがわかり、音楽的な興味の深掘りにつながります。
代表曲(入門におすすめのトラック例)
Yegelle Tezeta(テゼタ系の美しいメロディ)
Yekatit(リズムとブラスが印象的なナンバー)
Tezeta(ムラトゥの旋法感覚がよくわかる曲)
(コラボ・再構築系)Inspiration Information に収められた再解釈トラック
※上に挙げた曲はアルバムによってテイク違いや別タイトルで収録されていることがあります。収録盤のトラックリストを確認すると、同一曲の別テイクや別録音に出会える場合があります。
聴きどころガイド(曲ごとの注目点)
イントロ:多くの楽曲で即座に民族旋法のモードが提示され、その後リズム・アレンジが加わる設計になっています。イントロで「モード」を掴むと聴きやすくなります。
ヴィブラフォンの扱い:メロディの主導権を握ることが多く、音色・マレットのタッチに注目すると演奏表現の奥行きが見えます。
ホーン・セクション:短いリフを繰り返すことでムードを作る一方、突発的なソロでジャズ的即興が顔を出します。アレンジの巧みさをチェックしましょう。
聴く目的別のおすすめ
「エチオピア音楽の歴史を俯瞰したい」→ Ethiopiquesシリーズや年代別コンピ(New York–Addis–London系)
「ムラトゥのコアな70sサウンドを楽しみたい」→ Mulatu of Ethiopia や当時のオリジナルLP(または良質なリイシュー)
「現代的なアレンジやコラボを楽しみたい」→ Inspiration Information(The Heliocentricsとの共作)
まとめ(何から買うべきか)
最初の一枚は「コンピレーション(EthiopiquesまたはNew York–Addis–London系)」でエチオ・ジャズ全体の文脈を掴み、次に「Mulatu of Ethiopia」などの代表的スタジオ盤でムラトゥ本人の世界を深掘りするのが効率的です。オリジナル盤⇄リイシューのどちらを選ぶかは、音質重視かコレクション重視かで判断してください。現代的な解釈やライブ表現に興味があれば、The Heliocentricsとの共作やライヴ盤も強くおすすめします。
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