イングリッシュ・バロック・ソリスツ(EBS)とガーディナーの歴史的演奏法:原典主義で聴く名盤と聴き方ガイド

プロフィール:イングリッシュ・バロック・ソリスツとは

イングリッシュ・バロック・ソリスツ(English Baroque Soloists、以下EBS)は、バロック音楽を専門とする英国の古楽オーケストラです。創設者であり長年の芸術監督はサー・ジョン・エリオット・ガーディナー(Sir John Eliot Gardiner)。ガーディナーはモンテヴェルディ合唱団(Monteverdi Choir)を率いてきた指揮者としても知られ、EBS は合唱団と密接に連携して大規模な宗教曲や声楽曲から室内的な協奏曲まで幅広いレパートリーを扱います。

結成の背景と理念

EBS は伝統的なオーケストラ編成ではなく、歴史的に正確な演奏習慣(Historically Informed Performance:HIP)を重視した編成で活動しています。楽器は当時の形状や奏法に基づく復元楽器(ガット弦の弦楽器、バロック・ボウ、ナチュラル・トランペットやバロック・オーボエなど)を用い、テンポ、アーティキュレーション、装飾や通奏低音(continuo)の扱いなど、演奏の細部まで17〜18世紀の音楽語法を再現しようとする姿勢が特徴です。

代表プロジェクトと名盤

  • バッハ・カンタータ・ピルグリミッジ(Bach Cantata Pilgrimage, 2000)

    ガーディナー率いるモンテヴェルディ合唱団とEBS による2000年の大規模ツアー兼録音プロジェクト。教会や聖堂でバッハのカンタータを公演し、その多くがSoli Deo Gloria(SDG)レーベルでリリースされました。演奏の熱量、文節に即した表現、実演で育まれたコミュニティ感は高く評価されています。

  • バッハ:ミサ曲ロ短調、受難曲(マタイ、ヨハネ)

    EBS とモンテヴェルディ合唱団の共演による大型宗教曲の録音・演奏は、明晰さとドラマ性を兼ね備えた解釈として多くの聴衆に支持されています。

  • モンテヴェルディ:ヴェスプロ(Vespro della Beata Vergine)などのルネサンス/初期バロック作品

    古楽アプローチでの復元的演奏により、声と古楽器の色彩感が際立つ名演が多数あります。

  • ヘンデル、ヴィヴァルディ、ブランデンブルク協奏曲などの器楽曲

    バロック協奏曲・オーケストラ曲におけるリズム感とテンポ設定、対話的アンサンブルは EBS の魅力がよく出る分野です。

EBS のサウンドと演奏の魅力 — 深掘りポイント

  • 透明性とテクスチャーの明確さ

    ガット弦や古い木管楽器を用いることで音色に倍音の少ない、やや枯れた艶が生まれ、合奏の中で各声部がはっきりと浮かび上がります。結果として対位法や内声部の動きが視覚的にではなく「聞いてわかる」かたちで提示されます。

  • リズムと「ダンス感」

    バロック音楽の多くは舞曲や舞曲由来のリズムを基礎にしているため、EBS は拍節感と「ダンス的」な軽やかさを重視します。これが音楽の躍動感や「自然な」フレージングにつながります。

  • 発話的フレージング(レトリック的アプローチ)

    歌詞を重視した表現、言葉の起伏を反映する器楽のフレージングなど、音楽を「語り」として成立させる演奏が多いのも特徴です。

  • 装飾と即興のセンス

    古楽で期待される装飾(オルナメンテーション)や歌手・奏者間の即興的フレーズ処理を意識した演奏は、確固たる基礎を持ちながら柔軟に変化します。

  • 規模感のコントロール

    小〜中規模の編成を用いることで、卸し広げるような「巨大な」響きよりも室内的で緊密な対話を実現。合唱と独唱、楽器群のバランスを細かく調整します。

指揮者ジョン・エリオット・ガーディナーの影響

ガーディナーは徹底したテクスト研究、原典への回帰、徹底的なリハーサルによる精緻なアンサンブル作りで知られます。彼の指導のもと、EBS は「学究的な背景」と「コンサートの生々しい表現性」を両立させてきました。しばしば史実に基づいた解釈の選択理由を演奏前後に説明することもあり、聴衆に対する教育的側面も重視されています。

どんな人におすすめか(聴き方ガイド)

  • バロック音楽を「原典的な音」で聴いてみたい人
  • 楽器の色彩や対位法のこまやかな動きを楽しみたい人
  • 声楽と器楽の掛け合い、レトリック的表現を重視するリスナー
  • コンサートでの迫力ある生演奏を体感したい人(録音も良いがライブでの一体感は格別)

おすすめの聴きどころ(楽曲別)

  • バッハのカンタータ群

    独唱と合唱、通奏低音の細かな応答を見ること。合唱節やリトル・アリアの語り口に注目すると、個々の音がどのように文章(テキスト)に働きかけているかが分かります。

  • ブランデンブルク協奏曲/協奏曲集

    楽器間の対話、ソロ群と合奏群のダイナミックな切り替え、リズムの躍動感を聴きましょう。古楽器ならではの軽やかなテンポ感が魅力です。

  • モンテヴェルディの宗教曲

    声と楽器の色彩感、特に高音域の声と古楽器の混ざり方を聴くと、17世紀当時の響きが想像できます。

批評的な視点(EBS の限界・注意点)

  • 「原典主義」が常に唯一の正解というわけではない:現代の聴衆の耳やホールの響きによっては、あえて現代的な弦の厚みやテンポ選択の方が響くこともあります。
  • プロジェクトによっては録音条件や残響の違いで印象が変わる:ライブ録音の即時感は魅力ですが、音の均質性ではスタジオ録音に劣る場合もあります。

聴き始めのための入門盤(簡潔リスト)

  • バッハ:カンタータ・シリーズ(Bach Cantata Pilgrimage/SDG)
  • バッハ:ミサ曲ロ短調(EBS & Monteverdi Choir と共演)
  • モンテヴェルディ:ヴェスプロ 1610(代表的解釈の一つ)
  • ブランデンブルク協奏曲集(古楽器ならではの対話感を堪能)

楽しみ方の提案

  • 初めて聴くときはヘッドフォンよりもスピーカーで低域のバランスを確かめると、古楽器の色彩感がつかみやすいです。
  • 歌詞の日本語訳や英訳を手元に用意して聴くと、ガーディナー流のレトリック的表現の意図が伝わりやすくなります。
  • ライブに行く機会があれば、演奏の即興性や会場ごとの響きの違いを体感してみてください。

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参考文献