Concentus Musicus Wien入門—HIP演奏法で聴くモンテヴェルディからバッハまでの名盤と聴き方

はじめに — Concentus Musicus Wienとは

Concentus Musicus Wien(コンセントゥス・ムジクス・ウィーン、以下CMW)は、1953年にニコラウス・ハルノンクルト(Nikolaus Harnoncourt)とアリス・ハルノンクルトによって設立されたオーストリアの古楽アンサンブルです。歴史的奏法(Historically Informed Performance, HIP)を実践し、原典や当時の奏法・楽器を重視した解釈でバロック〜古典派のレパートリーを再構築しました。クラシック音楽の聴き方を大きく変えた先駆的グループの一つであり、ディスクグラフィーには数々の名盤が残されています。

CMWを聴く価値 — なぜ推奨盤が重要か

CMWの録音は単なる「古い楽器で演奏した復刻」ではありません。楽曲の構造や駆動力、歌唱表現(特にバロック声楽の「話すような」アプローチ)を再発見させる試みの連続であり、以下の点で学びが多いです。

  • 楽曲の語り口(句読点やアゴーギク)を歴史的資料に基づいて再現することで、知られた曲が別の物語に変わる。
  • 小編成・原典調の音色により、各声部や楽器の役割がよりクリアに聴き取れる。
  • 演奏慣習(装飾、テンポの自由、ピッチの違い等)を知ることで、楽曲理解が深まる。

おすすめレコード(録音)とその深掘り

以下は、CMWの代表的な録音を「聴きどころ」「歴史的意義」「おすすめ盤(レーベルや初出)」の観点で解説します。順序は必ずしも優劣ではなく、入門〜深化の流れを意識しています。

1. モンテヴェルディ:ヴェスプロ(Vespro della Beata Vergine 1610)

聴きどころ:声楽と器楽が交錯する禅問答のような対位法、宗教的な劇性と器楽的色彩。CMWは当時としては画期的に古楽器と古典的発声を組み合わせ、モンテヴェルディの多様な色調を再現しました。

歴史的意義:この録音は「ルネサンスからバロックへの橋渡し」を生き生きと表現し、20世紀後半におけるモンテヴェルディ再評価の一翼を担いました。テンポの起伏、声部の独立性、通奏低音の扱いに注目してください。

初出・レーベル:Teldec(後に再発多数)。初期の録音ながら録音技術と演奏解釈の両面で今も参照に値します。

2. J.S.バッハ:マタイ受難曲(St Matthew Passion)

聴きどころ:長大なドラマを小編成と歴史的奏法で再構成。レチタティーヴォの語り、コラールの対比、合唱の扱いが従来の大型オーケストラ/合唱像と異なり、登場人物の声や受難の瞬間が身近に感じられます。

歴史的意義:ハルノンクルトの解釈は「劇的現場」を強調する一方で、テクスチュアの透明性を追求しました。従来のロマン派的重厚さに対する代替として、以後のHIP系演奏に大きな影響を与えました。

初出・レーベル:Teldecを中心に録音。ソリストや合唱の編成、演出的な選択が話題になりやすいので、複数のリリースや復刻を比較すると面白いです。

3. J.S.バッハ:ミサ曲ロ短調(Mass in B minor)

聴きどころ:厳格な対位法と宗教的表現、合唱と独唱のバランス。CMWは通奏低音や弦のアーティキュレーションでバッハの構造美を浮かび上がらせます。

歴史的意義:ロ短調ミサの「総合芸術」性をHIPで再解釈する試みとして評価が高く、細部の装飾やフレージングを通じて楽曲の宗教的・音楽的意味を再提示しました。

4. ヘンデル:メサイア(Messiah)

聴きどころ:合唱の取り扱いとアリアの語り口。CMWの演奏は原典に近いテンポとリズム感で進み、アリアでは歌手の発語性(テキストの明瞭さ)を重視します。

歴史的意義:ロマンティックな広がりとは異なる、原典志向の『メサイア』像を提示し、感情表現をテキストと音楽の関係性から再考させます。

5. ヴィヴァルディ/バロック協奏曲集

聴きどころ:弦楽器群や通奏低音の色彩、ソロ楽器と合奏の対話。CMWのヴィヴァルディ演奏はリズムの躍動と装飾の機知が魅力です。

歴史的意義:バロック協奏曲の「軽快さ」と「構築性」を同時に示す録音群として、ヴィヴァルディ再評価に寄与しました。

6. その他注目録音:パーセル、スカルラッティ、ラモー など

聴きどころ:イングリッシュ・バロック(パーセル)やイタリア・バロック(スカルラッティ)、フランス・バロック(ラモー)といった地域性の違いを、当時の楽器と奏法で明確に描き分けます。レパートリーの広さもCMWの魅力です。

聴き方のコツ — CMW録音をより楽しむために

  • 「声と言葉」を聴く:ソロのレチタティーヴォや合唱のコラールで、テキストの語り口に注目すると表現意図がよく分かります。
  • 編成感を意識する:現代オーケストラとは異なる小編成の利点(透明性、対位法の明瞭さ)を味わってください。
  • 装飾とイントネーションを比較する:同じ楽曲の現代的演奏とCMW演奏を並べて聴くと、フレージングや装飾の違いが良く分かります。
  • 復刻盤やライナーノートを読む:当時の楽器、奏法、ハルノンクルトの解釈方針についての解説が理解を深めます。

盤の選び方(レーベルと復刻について)

CMWの重要録音はTeldec(Archiv Produktion系で再発)やDecca/Deutsche Grammophonなど複数のレーベルで流通しています。オリジナル・アナログ盤(初出)とデジタル復刻のどちらを選ぶかは好みによりますが、注目点は以下です。

  • 復刻の際に音質調整(リマスター)が入ることが多い。元の演奏解釈は変わらないが音色の印象は違う場合がある。
  • ライナーノートや解説が充実している復刻盤を選ぶと背景知識が得られる。
  • 特にモンテヴェルディやバッハの大作は複数の録音が出ているため、録音年・キャスト(ソリスト・合唱の編成)を比較して自分の好みを見つけるのが良い。

Concentus Musicus Wien を巡る議論と受容

CMWとハルノンクルトの解釈は高く評価される一方で、当時は賛否両論がありました。主な議論点は「テンポや表情の過激さ」「小編成化による宗教作品の劇性の再解釈」などです。しかしその議論自体が音楽学と演奏実践を活性化させ、今日の多様な演奏スタイルの基盤を作りました。

まとめ — まず何を聴くべきか

入門者にはまず「モンテヴェルディ:ヴェスプロ」と「バッハ:マタイ受難曲」を強くおすすめします。前者でバロック初期の色彩感を、後者でバロック宗教劇の劇性と細部の対位法を体感できます。その後、メサイアやヴィヴァルディ集へ広げると、CMWの多面的な魅力が理解できるはずです。

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参考文献