アル・ジョルソン(Al Jolson)とは?『ジャズ・シンガー』を軸に読む20世紀の大衆音楽と映画史

概要:Al Jolsonとは

Al Jolson(アル・ジョルソン、1886年生〜1950年没)は、20世紀初頭から中葉にかけてアメリカの大衆娯楽を牽引した歌手・俳優・舞台人です。本名はAsa Yoelson(またはジャーリーソン系の表記)で、ロシア帝国(現在のリトアニア地域)で生まれ、幼少期にアメリカへ移住しました。ヴォードヴィルやブロードウェイで人気を博し、1927年の映画『The Jazz Singer(ジャズ・シンガー)』でトーキー(トーキング=音声付き映画)時代の幕開けを象徴する存在となりました。

略歴(要点)

  • 幼少〜若年期:移民家庭の出身で、貧しい環境からヴォードヴィルに入り、舞台表現を学んだ。
  • 舞台と録音の成功:1910年代〜1920年代にかけて、舞台演出と録音で大衆の支持を集め、「My Mammy」「Swanee」などのヒットを生む。
  • 映画『The Jazz Singer』:1927年に公開された同作は、トーキー時代到来の象徴となり、ジョルソンはその顔と声で新時代のスターとなった。
  • 晩年:ラジオやライブで活動を続け、1950年に死去。生前の人気と影響力は後世の大衆歌手やエンターテイナーに大きな影響を与えた。

代表曲・名盤・主要出演作

  • 代表曲:My Mammy(マミー)、Swanee、April Showers、Rock-a-Bye Your Baby with a Dixie Melodyなど(ジョルソンのレパートリーは舞台曲・ポピュラーソングを横断)
  • 映画:The Jazz Singer(1927)、The Singing Fool(1928)など—興行的に大成功した作品が含まれる
  • 録音:1910年代〜30年代のシングル録音群。初期のレコード・ラジオでの露出により、広範な人気を獲得した

Al Jolsonの「魅力」を多角的に分析

1) 表現力と「直接性」

ジョルソンの最大の魅力は、舞台上での圧倒的な「直接性」にあります。彼は感情を強くこめて歌い、観客との対話を重視しました。単に歌を歌うのではなく、言葉・身振り・視線で観客を引き込み、歌詞の世界を生きるように見せることが得意でした。このスタイルは、観客が歌手の内面に触れるような親密さを生み、当時の大衆に強い印象を残しました。

2) メディアを横断するスター性

ジョルソンは舞台、録音、ラジオ、映画といった複数の媒体で成功を収めました。特に『The Jazz Singer』は、ジョルソンの声と喋りの魅力が映画という新しいメディアで発揮された好例で、彼自身が“次世代のスター像”を体現しました。メディアの変化に迅速に対応し、自らのパフォーマンスを新技術に合わせて進化させた点も魅力です。

3) 歌唱・演技のミックス(ヴォードヴィル的手法)

彼は歌と演技(コミカルな間、即興、観客との掛け合い)を融合させた表現を磨きました。これはヴォードヴィル的な伝統に根ざしますが、ジョルソンはそれを洗練させ、ポピュラーミュージックの文脈で有効に使いました。感情の増幅やユーモア、劇的な一瞬での表現切替が彼のトレードマークです。

4) 黒人音楽の普及(複雑な側面を伴う)

ジョルソンはブルースやラグタイム、初期ジャズなど、アフリカ系アメリカ人の音楽要素を白人大衆に広める上で大きな役割を果たしました。これにより黒人音楽が広い聴衆に届き、後のジャズ・ポップスの発展に寄与した側面は評価できます。ただし、彼が黒塗り(blackface)を舞台で用いたことは重大な問題であり、その点は後述します。

5) 観客感情を動かす「誠実さ」

ジョルソンの歌唱には、誇張がちな表現の中にも「誠実さ」を感じさせる要素がありました。たとえば《母親への情愛》や《郷愁》といったテーマを歌うときに、観客は嘘偽りのない心情が伝わってくると感じたと言われます。これは彼のカリスマ性の核でした。

舞台技術・ヴォーカルの特徴

  • 感情的なビルドアップと解放を多用するフレージング
  • 観客との即興的なやり取り(客いじり)を積極的に取り入れる
  • マイク時代以前からマイクを意識した近接表現(後の「クロウニング」的手法への前段)

論争と現代的評価

Al Jolsonに対する現代の評価は二面性を持ちます。一方では、20世紀のエンターテイメントと音楽ビジネスの発展における開拓者、舞台・録音・映画を横断した初期のスーパースターとして高く評価されます。特に『The Jazz Singer』は映画史的に重要です。

他方で、彼の黒塗り(blackface)パフォーマンスは現代の視点からは明白に人種差別的であり、許容できない行為です。この点はジョルソンのキャリアと遺産を語る上で避けて通れません。歴史的に彼の行為が当時の文化的文脈に根ざしていたとしても、現代においてはその影響と痛みを認識し、批判的に再評価する必要があります。

また、ジョルソンが黒人芸術家の音楽を広めたこと、黒人アーティストを支援した例があるとする主張もありますが、これらはあくまで複雑で矛盾を含む史実の一部であり、単純な賛辞だけで片付けられるものではありません。

Al Jolsonが現代に残したもの

彼の影響は複数の側面で今日のエンターテイメントに残っています。

  • 感情を前面に出すポピュラー歌唱スタイル(後のクロージング/クロウニング的表現など)
  • メディア横断型のスター像(舞台→録音→ラジオ→映画の流れを作った)
  • 黒人音楽が主流に取り込まれていく過程での触媒的役割(賛否両論あり)

終わりに:ジョルソンの魅力は何か

Al Jolsonの魅力は単純な「歌の上手さ」だけではなく、舞台での圧倒的な表現力、観客を巻き込む力、そして新しいメディアに先んじて適応する柔軟さにあります。その一方で、彼のパフォーマンスには現代の倫理観で断罪される側面があり、歴史的文脈を踏まえつつ批判的に向き合うことが重要です。つまり、ジョルソンは20世紀大衆文化の明暗を象徴する人物であり、その「魅力」と「問題点」を併せて理解することで、より正確な文化史の見取り図が見えてきます。

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参考文献