ヴァッテッドモルト(Vatted Malt)徹底解説:定義・製法・味わい・選び方と代表銘柄ガイド

はじめに:ヴァッテッドモルトとは何か

ヴァッテッドモルト(vatted malt)は、同じ蒸溜所の原酒に限らない複数のモルトウイスキー(大麦麦芽を原料にしたモルトウイスキー)をブレンドしてつくられるタイプのウイスキーを指します。重要なのは「グレーンウイスキー(穀物原料の連続式蒸溜によるウイスキー)を含まない」点で、つまり“モルトだけで構成されたブレンド”です。近年では英語表記で“blended malt”や“pure malt”と表記されることが多く、業界用語としては“vatted malt”は歴史的・慣用的な名称という位置づけになっています。

用語の変遷と法的表記

かつて「vatted malt」や「pure malt」という表現が多く使われていましたが、国や地域の表示ルールの整備に伴い、国際的には“blended malt”の表記が一般化しています。特にスコッチウイスキーの表示ルールでは「シングルモルト(single malt)」と区別するために“blended malt Scotch whisky”という表記が採られます。名称の違いは呼称の問題であり、中身(複数のモルト原酒を混ぜること)は同一概念です。

製法と技術:どのように作られるか

ヴァッテッドモルトの製造工程は大きく分けて以下のとおりです。

  • 各蒸溜所で製造・熟成された複数のシングルモルト原酒を選定する。
  • 原酒同士を小分けにしたバット(大きなタンク)やブレンドタンクで合わせ、味わいを馴染ませる。
  • 必要に応じて追加の熟成(バッティング後の熟成)やカスクフィニッシュを行う。
  • 最終的にボトリング規格に合わせて加水し、ボトリングする。

マスターブレンダーの役割が極めて重要で、各モルト原酒の個性(ピート、フルーティ、スパイシー、オーク感など)を把握し、目的のスタイルに合う比率で組み合わせます。バッティング後に短期間の“結合熟成”を行うことで、香味の一体感を高めることも一般的です。

シングルモルト/ブレンデッドウイスキーとの違い

  • シングルモルト:単一蒸溜所のモルト原酒のみで構成される(複数の樽のブレンドは可)。
  • ブレンデッドウイスキー:モルトとグレーン原酒を混合して作られることが普通(例:大手ブランドの大多数)。
  • ヴァッテッドモルト(blended malt):複数蒸溜所のモルト原酒だけで構成され、グレーンを含まない。

したがって味わいの方向性は、シングルモルトの個性の寄せ集めでもありながら、ブレンダーの意図で新たなプロファイルを作れる点がヴァッテッドモルトの魅力です。

味わいの特徴とバリエーション要因

ヴァッテッドモルトの味わいは、原酒の持つ要素とブレンドによる相互作用で決まります。代表的な要因は以下の通りです。

  • 原酒の地域性:アイラ系のピーティさ、スペイサイド系のフルーティさ、ハイランド系のスパイシーさなど。
  • カスクの種類:バーボン樽、シェリー樽、ポートやワイン樽のフィニッシュにより甘味・タンニン・フルーツ感が変化。
  • 熟成年数・割合:若い原酒が多ければエッジのある活きた味わい、長熟原酒が多ければ丸みと深みが増す。
  • ピートの有無と度合い:燻製香の加減で全体の骨格が変わる。

ブレンダーはこれらを掛け合わせて、統一感がありながらも複雑さを持つボトルを目指します。シングルモルトよりも風味の幅を自由に設計できるのが強みです。

実用的なテイスティング・アドバイス

ヴァッテッドモルトを正しく評価するためのポイント:

  • 色合い:カスク由来の色(シェリーは濃い、バーボンはライト)がヒントになる。
  • 香り:グラスを回して立ち上る香りの層(フルーツ、ナッツ、ハチミツ、スモークなど)を順に確認する。
  • 味わい:舌の前方で甘さ、中盤でスパイス感、後味で残る余韻を観察する。
  • 加水のテスト:数滴の水で香りが開くか、味のバランスがどう変わるかを見てみる。

ヴァッテッドモルトはブレンドの妙を楽しむ酒であり、ボトルごとの個性把握が面白さにつながります。

代表的な銘柄・事例

市販のヴァッテッドモルト(またはblended malt)にはいくつか有名な銘柄があります。例:

  • Monkey Shoulder(モンキーショルダー):スペイサイドの複数モルトをブレンドしたモダンなヴァッテッドモルトで、カクテルにも使いやすい。
  • Johnnie Walker Green Label(旧グリーンラベル):ジョニーウォーカーの中でもヴァッテッドモルトに該当するブレンド(※ラインナップは時期により変わる場合あり)。
  • Compass Box(コンパスボックス):個性的なブレンドで知られ、ヴァッテッド/ブレンデッドモルト的な作品を多く手がける。

上記はあくまで例で、ラベル表記や商品ラインナップは変更されることがあります。購入時はラベル表記と商品説明を確認してください。

購入・保存・飲み方のコツ

  • 購入時:原酒の地域性、カスクフィニッシュ、熟成年数(ある場合)をチェック。試飲できるなら香りの傾向を確認する。
  • 保存:直射日光と高温を避け、湿度変化が少ない場所に保管。開封後は1年以内に飲み切るのが望ましい(保管条件に依る)。
  • 飲み方:ロック、ストレート、加水、またはカクテルに使うなど多用途。ヴァッテッドモルトはブレンド設計上カクテル材料として扱いやすい製品が多い。

コレクションと投資性

シングルモルトの長期熟成や限定リリースが投資対象となる一方で、ヴァッテッドモルトはブレンド構成の変更や再現性の高さから希少性が出にくい傾向があります。ただし限定版や特別なカスク構成、ブランドの希少ボトルは収集対象になり得ます。ラベルのロット情報やボトルごとのバックストーリーを確認すると収集価値の見極めに役立ちます。

よくある誤解と注意点

  • 「ヴァッテッド=低品質」ではない:ブレンドの技術次第で非常に高度な味わいが作れる。
  • 「ピュア=シングル」ではない:「pure malt」は複数のモルトを含む場合があり、表記だけで混同しやすいのでラベルを読むことが重要。
  • 法規表記は国や時期で変わる:商品名やパッケージ表記は流通地域の規制に応じて変わるため最新情報を確認すること。

まとめ:ヴァッテッドモルトの魅力

ヴァッテッドモルトは、複数蒸溜所のモルト原酒をブレンドすることで生まれる多層的な味わいと、ブレンダーの創造性を楽しめるウイスキーです。シングルモルトの個性とブレンデッドの汎用性の中間に位置する存在で、初心者にも上級者にも学びと発見があるカテゴリと言えます。ラベル表記や原材料を確認しつつ、自分好みのスタイルを探してみてください。

参考文献