イコライゼーション完全ガイド|音作りからミックス・マスタリングまで

イコライゼーションとは何か

イコライゼーション(EQ)は音の周波数成分に対してゲインを調整する処理で、音作りやミックス、マスタリングで最も基本的かつ重要な技術のひとつです。EQは不要な周波数を削ることでクリアさを得たり、特定の帯域を強調して楽器の存在感や感情表現を変えたりできます。デジタルとアナログの両面で数多くの実装があり、それぞれに特性があります。

基本パラメータ:周波数、ゲイン、Q(帯域幅)

EQの基本は3つのパラメータです。周波数(Frequency)は操作対象の中心周波数を決め、ゲイン(Gain)はその周波数帯の増減量をdBで指定します。Q(またはBandwidth)は影響する周波数幅を決め、Qが高いほど狭い帯域に作用します。Qが低いと広い領域を穏やかに変化させます。適切なQ選びは効果の自然さや問題の切り取り方に直結します。

主要なフィルタータイプ

  • シェルビングフィルター(Shelving): ハイシェルフやロウシェルフは指定周波数より上または下を均一に持ち上げたり下げたりします。マスタリングやトラック全体のトーン調整に良く使われます。

  • ピーキングフィルター(Peak/ Bell): 中域の調整に使う一般的なタイプで、中心周波数を中心にブーストやカットを行います。

  • ローパス / ハイパス(Low-pass / High-pass): 指定周波数より高域または低域を減衰させる。不要な低域の除去やシステム保護に有効です。

  • ノッチフィルター(Notch): 非常に狭いQで特定の周波数のみをカットする。フィードバック除去やハムノイズ処理に使います。

  • グラフィックEQとパラメトリックEQ: グラフィックは固定周波数のスライダー群で視覚的に操作するタイプ、パラメトリックは中心周波数、Q、ゲインを自由設定できる柔軟なタイプです。

周波数帯と楽器ごとの目安

以下は一般的な楽器や音の特徴が現れやすい周波数帯の目安です。これは絶対値ではなく、参照として使ってください。

  • 20-60Hz: サブベースの重み。キックやベースの体感低域。過剰はモヤつく原因になる。

  • 60-120Hz: ボディ感。ベース、キックのパンチ。低域のクリアさ調整に重要。

  • 120-250Hz: 暖かさと厚み。過剰だと濁りの原因。

  • 250-500Hz: こもりやボックス感が出やすい帯域。不要なエネルギーはここをカットすることで抜けが良くなる。

  • 500-1kHz: 中音域の存在感。ボーカルやギターの主体的な領域。

  • 1-3kHz: アタックや明瞭さ。ここを強めると音が前に出るが、耳障りにもなりやすい。

  • 3-6kHz: 子音やディテール。ボーカルの理解性に関与。

  • 6-12kHz: 空気感と輝き。マスタリングで全体の艶付けに使用。

  • 12-20kHz: 超高域の空気。過剰にするとヒスノイズが目立つ。

イコライザーの使い方とワークフロー

EQは目的に応じて方法が変わります。一般的なワークフローの一例を示します。

  • 1. ハイパスで不要な低域を削る: 各トラックに対して低域の明確な不要部分は最初に切る。ボーカルやギターなど、低域が必要ないトラックは80-120Hzあたりでハイパスすることが多い。

  • 2. 問題の周波数を発見してカット: 実際に耳で聴いてゴムゴムしく感じる帯域をブーストして見つけ、Qを狭めにしてカットする(スウィープ法)。

  • 3. 必要なキャラクターをブースト: トーン作りは広めのQで少し持ち上げることが多い。過度なブーストは歪みやマスキングを生むので注意。

  • 4. ミックス全体を確認しながら微調整: 単体で良くてもミックス内では変わるため、常にソロとアンサンブルを行き来する。

サブトラクティブEQとブーストの使い分け

多くのエンジニアはまず削る(サブトラクティブ)アプローチを推奨します。不要な周波数をカットすることでマスキングを減らし、元の録音の純度を保ちながら目的の音を前へ出します。ブーストは慎重に、広いQで少量を心がけると自然に聴こえます。

ダイナミックEQとマルチバンド処理

ダイナミックEQは指定した帯域だけを特定の閾値で動的に処理するツールで、トランジェントやレベル依存の問題に柔軟に対応できます。マルチバンドコンプレッションも似た用途で、帯域ごとのダイナミクス制御に有効です。例えばボーカルのサ行のみを抑える、あるいはブーミーな低域が瞬間的に出るのを抑えるといった用途があります。

位相とリニアフェーズEQ

デジタルEQには最小位相(minimum-phase)とリニアフェーズの実装があります。最小位相は位相変化が発生しますが計算負荷が低く音の自然さに寄与することが多い。一方リニアフェーズEQは位相を保持するため、複数トラックを合成する際に位相干渉を避けられますが、プリリンギングというアーティファクトと処理遅延(レイテンシー)が生じやすい点に注意が必要です。

アナログモデリングとサチュレーション

多くのプラグインやハードEQはアナログ機材をモデル化しており、フィルター曲線の違いやトランス・回路の色付けが音に『暖かさ』や『太さ』を与えます。単純な周波数調整以上に音色のキャラクターを作る手段としてサチュレーションやテープ風味の処理と組み合わせることが効果的です。

よくある用途と具体例

  • ボーカル: 80-120Hzでハイパス、1-3kHzで透明感を調整、3-6kHzで子音の明瞭さ、8-12kHzで空気感を付与。

  • キック: 50-100Hzを強調して低域のパンチ、2-4kHzでアタックの存在感を作る。

  • ベース: 40-100Hzを調整しつつ、700Hzあたりの濁りをカットして明瞭さを確保。

  • アコースティックギター: 80-120Hzで余分な低域カット、2-5kHzでピッキングのディテール、10kHzで艶をコントロール。

視覚ツールの活用:スペクトラムアナライザーとRTA

耳だけでなく、リアルタイムスペクトラムアナライザー(RTA)や周波数表示は問題点の発見に有効です。特に複数トラックのマスキングやループして聞く場合、視覚情報は素早い判断を助けます。ただし視覚に頼りすぎず最終判断は耳で行うことが重要です。

よくある間違いと回避策

  • 過度のブースト: まずはカットで問題を解決する。大きなブーストはミックスを崩しがち。

  • モニター環境の未整備: 補正されていない部屋でのEQ判断は誤差を生む。ヘッドホンやリファレンス曲でクロスチェックする。

  • ソロでの最適化: 単体で良くてもアンサンブルでは悪化することがある。必ずミックス内で確認。

マスタリングにおけるEQの注意点

マスタリングでは幅広いQでの微調整が中心です。全体のバランスを崩さないように0.5dB〜1.5dB程度の微妙な操作を行うことが多いです。帯域を持ち上げるだけでなく、不要な帯域の除去により全体の明瞭感を向上させることが重要です。また、リニアフェーズEQの選択や、処理による位相特性の変化をチェックすることも不可欠です。

実践的なチェックリスト

  • 低域の不要なエネルギーをカットしたか

  • 問題帯域はQを狭めて特定し、削っているか

  • 広いQで少量ブーストして音色を作っているか

  • ソロとバランスの両方で確認しているか

  • スペクトラムと耳で一致した問題を修正しているか

おすすめのツールとプラグイン

市販のEQプラグインは用途や音色に応じて選びます。基本は高品質なパラメトリックEQ、ダイナミックEQ、グラフィックEQ、スペクトラムアナライザーを揃えること。アナログモデルのEQはキャラクター作りに便利です。リニアフェーズEQはマスタリング時に活躍します。

学習と耳のトレーニング

EQスキルは理論だけでなく耳の訓練が不可欠です。周波数帯域の特徴を認識するために、ワンノブEQや帯域を意図的にブースト/カットして変化を聴き取るトレーニングが有効です。また、商業リファレンストラックと自分のミックスを比較し、スペクトル差を観察する習慣を持つとよいでしょう。

まとめ

イコライゼーションは単なる周波数の増減ではなく、音の役割を明確にし、楽器同士のマスキングを解消し、全体のバランスを整えるためのアートとサイエンスの融合です。基本パラメータを理解し、問題解決の順序を守り、耳と視覚ツールを併用することで精度の高い処理が可能になります。

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参考文献