概要 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの交響曲第12番 ト長調 K.110(K6.75b)は、モーツァルトのサロン的・初期古典派スタイルをよく示す作品の一つです。作曲年代は概ね1771年頃(モーツァルトが15歳前後)の作品と推定されており、ケッヘル分類ではK.110とされることが多く、古い版や注記ではK6.75bと表記されることもあります。 規模は小編成の室内オーケストラ向けで、典型的な3楽章構成(速楽章–緩徐楽章–速楽章)をとり、明快で均衡の取れた古典派的対位と旋律感覚が特徴です。
作曲の背景と位置づけ 1770年代初頭、モーツァルトはザルツブルクに拠点を置きながら活発に室内楽やオペラ、宗教曲、交響曲を手掛けていました。当時の交響曲はイタリア楽派やJ.C.バッハ流の影響を受けつつ、宮廷や貴族のサロン、都市の音楽会で演奏されることを想定した器楽作品として発展していきます。 第12番は、若きモーツァルトが当時の様々な様式(イタリアの歌謡性、ドイツ的な対位法、オペラ的な表情付け)を統合し、短い規模の中で効果的に聴衆を惹きつける力量を示した例といえます。また、ホルンやオーボエなどの管楽器を効果的に配して色彩感を出すことにも注目できます。
編成と楽器法 標準的な編成は弦楽器に加え2本のオーボエ、2本のナチュラル・ホルン、低音域を支えるファゴットやコントラバスで補われることが多く、通奏低音(チェンバロなど)は当時の上演で用いられることもありました。ホルンは自然倍音列に基づく自然ホルンが使われ、調性による音域制約を作曲側も考慮していました。 モーツァルトは管楽器を単なる伴奏的な色付けに留めず、しばしば主題の提示や対話に参加させることで、オーケストラ全体の対話性を高めています。特に第1楽章の主題提示部や終結部付近では管楽器が効果的に用いられます。
楽曲構成と形式(概説) 第12番は典型的な古典派交響曲の小型版として、次のような大まかな構成を持ちます(楽章名・表記は版によって差異があることに注意してください)。
第1楽章:速い楽章(ソナタ形式あるいはソナタ風形式)— 明朗な主題提示と簡潔な展開、再現で構成され、明確なテーマの対比と短い展開部が特徴です。 第2楽章:緩徐楽章— 歌詞的で歌うような旋律が前面に出ます。和声や配器の変化で情緒を描きますが、長大にはならず端正な運びを保ちます。 第3楽章:速い終楽章(ロンド風、または速板)— 軽快なリズムで全体をまとめる小型のフィナーレ。主題の反復と対比を通じて短い物語を完結させます。 各楽章ともに、長大な展開や複雑な対位法よりも、明快な動機の反復とリズムの推進力により聴衆を惹きつける構成になっています。モーツァルトの成熟期の交響曲と比べると簡潔ですが、その分粒立ちの良いフレージングや対比感が際立ちます。
特徴的な聴きどころ(聴取ガイド) 冒頭のエネルギッシュな主題提示:若々しい推進力と明確な区切りを聴き取ってください。第一主題と第二主題の対比が古典派的なバランスの要です。 管楽器の色彩と役割:オーボエやホルンが旋律線を補完したり、短い応答を行ったりします。自然ホルン特有の音色やファゴットの低音支えに注目すると、当時のサウンドの実感が湧きます。 第2楽章の歌心:短い規模ながら抑制の効いた歌い回しがあり、フレージングや弱起の扱いにモーツァルトらしさが現れます。 終楽章の推進力:簡潔な動機の繰り返しとリズムの切れ味で曲全体を締めくくります。小編成ゆえに各声部の明瞭さが聴き取りやすい点も魅力です。 楽曲分析(簡易) 第1楽章は典型的なソナタ的配置をとるものの、展開部は短く、素材の扱いは主として動機的な分割と転調による色合いの変化に依拠します。第2楽章では歌謡的なラインが伸びやかに現れ、和声進行は安定感を重視します。終楽章はロンド風または簡潔なソナタ風の形式で、主題の反復と対比で構成され、全体の時間的緊張を短時間で解決します。
演奏上の注意点・実践的アドバイス テンポ感:速さは現代オーケストラと古楽アンサンブルで若干異なることが多いです。軽快さと明瞭さを保ちつつ、楽句の呼吸を大切にすることが重要です。 アーティキュレーション:短いフレーズの切れ味、特に弦楽器のストッカートとレガートの対比を明確に。管楽器は歌わせる場面では柔らかな音色を心掛けると古典派的な均衡が出ます。 ダイナミクスと装飾:当時の演奏慣習では装飾や小規模な即興が行われることもあります。過度に装飾を増やすよりは、装飾は歌曲的な節回しと兼ね合わせて自然に行うのがよいでしょう。 録音と版の選び方 この時期の交響曲は現代オーケストラによる演奏と、原典に近い古楽器編成による演奏で印象が大きく異なります。古楽器アンサンブル(例:Academy of Ancient Music、English Concert、Les Arts Florissants といった団体による演奏)は管楽器や弦の音色の軽さ、テンポ感の自然さが魅力です。一方で現代オーケストラ(Academy of St Martin in the Fields など)の演奏は響きの豊かさと明快なアンサンブルが魅力となります。
資料・楽譜を探すには 研究や演奏準備には、信頼できる原典版や批判校訂版(Neue Mozart-Ausgabe など)を参照することをおすすめします。公共ドメインのスコアはIMSLPなどで閲覧可能です。また、ケッヘル目録や主要な音楽学辞典(Grove Music Online 等)で作品番号や成立事情、版情報を確認するとよいでしょう。
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