モーツァルト:交響曲第13番 ヘ長調 K.112 を深掘り — 構造・演奏・聴きどころ徹底解説

概要:交響曲第13番 ヘ長調 K.112とは

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの交響曲第13番ヘ長調 K.112 は、少年期のモーツァルトが手掛けたいわゆる〈初期交響曲〉の一つです。作曲年は1771年とされ、当時15歳前後の作品にあたります。典型的な3楽章構成(速-緩-速)を採り、編成は弦楽器に2本のオーボエと2本のホルンを加えた比較的小編成で書かれています。演奏時間は録音や解釈によりますがおおむね10〜15分程度です。

作曲背景と歴史的文脈

1770年代初頭のモーツァルトは、イタリア旅行や当時の宮廷・教会音楽の潮流に影響を受けながら、交響曲を含む器楽作品を精力的に作曲していました。K.112はザルツブルク時代に位置づけられ、歌劇・協奏曲で培ったメロディー感覚やオペラ的表現が器楽作品にも反映されています。交響曲の様式自体は、当時のイタリアやウィーンで主流だった“ガラン(galant)”様式や古典派の均整感を取り入れたものです。

編成と楽器法

原典に基づく典型的な編成は弦五部(第1・第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)に加え、2つのオーボエと2つのホルンというシンプルなものです。時折、バスーンが通奏低音的に加えられる演奏もありますが、これは当時の慣習に基づく補強であり、必須の指定ではありません。トランペットやティンパニ、ミヌエット楽章の不在などもK.112の性格を決定づけています。ホルンは狭い音域の天然ホルンで、和音の輪郭やブラス色のアクセントを提供する役割を担います。

楽章構成と形式分析

この交響曲は典型的な3楽章構成です。以下に各楽章の形式や楽曲的特徴を概説します。
  • 第1楽章:Allegroソナタ形式に基づく快速楽章で、提示部・展開部・再現部という基本骨格を持ちます。主題は明快で歌うような旋律線が特徴的で、短い動機的断片の扱いやシーケンス(連続的な音型の移行)を用いた推進力が印象的です。木管は主に色彩的な役割を担い、弦の流れを支えつつ響きのコントラストを作ります。
  • 第2楽章:Andante穏やかで歌謡性の高い緩徐楽章です。旋律の装飾や内声部の対話、管楽器と弦の対比により、短いながらも安定した抒情が展開されます。古典期の交響曲に見られるような平明な和声進行と主題の明瞭さが魅力で、モーツァルトが早熟なメロディーメーカーであったことを実感させます。
  • 第3楽章:Allegro終楽章は軽快でリズミカルな性格を持ち、短い主題の反復やスケール的な上昇下降で曲全体を締めくくります。形態としてはソナタ形式またはソナタ=ロンドに近い構成を示すことが多く、短い動機を素材にしながらも明確な終結感を与える書法が取られます。

和声・旋律の特徴と作曲技法

K.112に見られる特徴は、何よりも「歌う」旋律線と簡潔な動機処理です。主題自体は長大ではなく、短い断片を連結して展開することで生き生きとした躍動感を生み出します。また和声は古典派的な機能和声に基づきつつ、突然の転調や短い装飾的な和音を挟むことで色彩感を獲得しています。管楽器の扱いは非常に機能的で、主に旋律の補強・対位法的な応答・和声的背景の色付けに徹しています。

演奏上の注意点(ピリオド奏法とモダン奏法の違い)

この時期の交響曲を演奏する際、ピリオド奏法(古楽器・古典派奏法)とモダン奏法では表現に差が出ます。ピリオド編成では自然倍音列のホルンや軽い弓使いの弦が音色の透明さを生み、アーティキュレーションやテンポの柔軟性がより重視されます。一方でモダン楽器編成では音量と均質な弦の響きが強調され、細かいアクセントやダイナミクスの幅でドラマを与えられます。どちらのアプローチでも、モーツァルトらしいフレーズの歌い回しと楽曲の均衡感を損なわないことが重要です。

聴きどころと分析ポイント(リスナー向け)

  • 第1楽章の冒頭主題:短い動機から広がる展開に注意。動機の反転やシーケンスで曲が如何に組み立てられるかを追うと面白い。
  • 管楽器の色彩:オーボエとホルンの掛け合いはシンプルだが効果的。旋律の輪郭を際立たせる使われ方をしている。
  • 緩徐楽章の歌唱性:歌詞のない歌としての「歌い回し」を堪能する。装飾の仕方や内声の動きに注意。
  • 終楽章の推進力:短いフレーズを繰り返しながらも、終結へ向かう構築力を示す。

代表的な録音とおすすめ演奏

K.112は交響曲全集内に収録されることが多く、演奏解釈は録音ごとに特色があります。歴史的演奏慣習に近い演奏ではクリストファー・ホグウッド/アカデミー・オブ・アンシエント・ミュージック(古楽器)やニコラウス・アーノンクールの録音が挙げられます。モダン楽器の名演としてはネヴィル・マリナー/アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズなどが聞きやすい解釈を提供します。聴く際は編成(ピリオド系かモダンか)を意識すると、同じ楽譜から異なる色彩が立ち上がるのが楽しめます。

楽譜と原典版

現代ではデジタルや新版の校訂譜でアクセスしやすく、特にニュー・モーツァルト全集(Neue Mozart-Ausgabe)やオンラインの楽譜ライブラリ(IMSLP / Petrucci Music Library)で原典や校訂譜を参照できます。初期稿と版の差異が残る場合もあるため、演奏や研究では原典資料の確認が推奨されます。

まとめ:K.112の位置づけ

交響曲第13番 K.112は、モーツァルトが若くして交響楽の造形を身につけつつあったことを示す好例です。短いながらも均整のとれた楽章構成、歌うような旋律、明快な和声感は彼の天賦の才を示しています。初期交響曲群のなかでは派手さよりも均衡と芸術性を重視した作品であり、当時のサロンや宮廷での実用性を兼ね備えていました。モーツァルト研究や聴き比べの出発点としても、学ぶことの多い楽曲です。

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参考文献