モーツァルト「行進曲 ニ長調 K.62」―成立・分析・演奏ガイド
概要
『行進曲 ニ長調 K.62』は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの幼年期に属する短い管弦楽作品で、儀礼的・祝典的場面で用いられる行進曲(マーチ)として作曲されたと伝えられています。作品番号K.62は初期ケッヘル目録による番号付けの一つであり、モーツァルトの若年期の作品群に位置づけられます。演奏時間はおおむね2分前後と短く、明快なリズムと親しみやすい旋律が特徴です。
作曲と成立
この行進曲は一般に1769年前後に成立したと考えられていますが、細かな成立年や作曲地については資料や研究者の間で見解が分かれる場合があります。モーツァルトは1769年にイタリア訪問を行っており、この時期には宮廷や教会、都市のイベントのために短い管弦楽曲や行進曲を作曲することがしばしばありました。K.62もそうした“実用音楽(occasional music)”の一つとして、祝典や行列、あるいは宮廷での入場曲として想定されたものと考えるのが自然です。
楽器編成とスコアの特徴
原典譜は小編成オーケストラを想定したスコアであることが多く、弦楽器(第1・第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ/コントラバス)に加え、オーボエやホルン、トランペット、ティンパニが伴われる編成が一般的に想像されます。特にトランペットとティンパニはニ長調(D)という明るい調性と相性が良く、18世紀の自然トランペットの響きを活かした祝典的な色彩を与えます。
スコア上の特徴としては、旋律がシンプルかつ明瞭で、伴奏はリズムを支えるための和音進行やオスティナート風のパターンが多用されます。管楽器はしばしばファンファーレ的な動きを担当し、行進曲らしい力強さと可視性を曲に与えています。
形式と和声の分析
形式的には、行進曲としての典型に沿った二部あるいは三部形式(A–B–Aまたは反復付き二部形式)を採ることが多く、A部が主調のニ長調で始まり、B部で属調(イ長調)へ一時的に移行する、といった典型的な構成を示します。A部は短い主題の提示とそれに続く展開的な小節で構成され、しばしばAの反復が指示されます。B部は対照的な旋律ややや流動的な和声進行を含み、再現部でAに戻ることで曲全体の均衡が保たれます。
和声面では、単純なトニック=ドミナントの往復が基調ですが、モーツァルトらしい締まりを与えるために二次ドミナントや偽終止、短い並進和音の挿入が見られます。特に若年期の作品ながら、不協和の処理や短いシーケンスによる推進力の付与など、後年の様式につながる作曲技法の萌芽が観察できます。
フレーズとリズムの性格
行進曲の基本的なリズムは「しっかりした拍」を強調することにあり、K.62でも短い音価と長い音価を交互に用いることで行進の歩調感を作り出しています。ダーティド(点付き)リズムやアクセントの配置により、聴衆に「前へ進む」感覚を与える設計です。旋律線は歌うようなフレーズを持ちつつも、装飾は控えめで明快さが優先されています。
演奏解釈のポイント
- テンポ:行進曲として適度に落ち着いたが確実なテンポ(大体歩行のテンポに相当)を基本に、フレーズごとの呼吸で微妙に揺らすのが自然です。実演では場面(行進として使うか、演奏会での短いアンコール的演奏か)に応じてテンポは変わり得ます。
- アーティキュレーション:短い音を明瞭に切ることで行進の輪郭を出す一方、弦楽器では滑らかな音のつながりを保ち、金管のファンファーレ的な立ち上がりを対比させると効果的です。
- ダイナミクス:祝祭性を示すために全般的にフォルテ志向になりやすいですが、内声や対旋律での細かな強弱の差を付けることで立体感が増します。
- 反復の扱い:当時の演奏習慣では反復を単なる繰り返しとせず、2回目の反復で装飾や応答楽器の繰り返しを工夫することがあり得ます。原典に従いつつ演奏上の変化をつけると聴衆に新鮮さを与えられます。
スコアと版の問題
K.62を含むモーツァルトの初期作品は、原写譜や散逸した資料、後世の写譜に依存する部分があり、楽譜上の細かい違いが存在します。信頼できる演奏を目指すなら、デジタル版や学術版(例えばデジタル・モーツァトエディション)と比較し、装飾やダイナミクスの記載について判断することが重要です。史料批判に基づく解釈が、演奏にも説得力を与えます。
モーツァルトの発展における位置づけ
K.62は短い器楽曲ではあるものの、モーツァルトの作曲技法の早期段階を窺わせる好資料です。行進曲という機能音楽を通じて、明確な主題提示、効果的なオーケストレーション、儀礼的表現を学んでいったことが窺え、後年のオペラや交響曲、協奏曲で見られる劇的な効果や管弦楽の色彩感覚の基盤がここにもあります。
現代の録音と入手法
K.62自体は長大な名作ではないため、単独で注目されることは少なく、モーツァルトの行進曲や祝典曲を集めた録音や全集の一部として収録されることが多いです。演奏は古楽器アンサンブルからモダンオーケストラまで幅広く、様々な解釈を聴ける点が魅力です。楽譜は公共ドメインで流通しているものもあり、インターネットの音楽図書館(IMSLPなど)やデジタル版で確認できます。
聴きどころとおすすめの楽しみ方
短い曲ながら、次の点に注目して聴くと面白さが増します。第一に、序盤のファンファーレ的な動機が全曲に与える統一感。第二に、B部での呼吸の変化や調の動きが曲全体のコントラストを作っている点。第三に、トランペットやホルンの自然音列的な響きが18世紀当時の音響美を伝えている点です。演奏会で聴く際は、前後の曲とあわせて祝典性の流れを見ると、当時の機能がより理解できます。
結び
『行進曲 ニ長調 K.62』は短くとも、モーツァルトの若き日の器楽技法と祝祭音楽へのセンスが凝縮された作品です。音楽史的大作と比べれば地味に見えるかもしれませんが、形式・和声・オーケストレーションの観点からは学ぶべき点が多く、実演や研究の場で再評価に値します。短い作品だからこそ、細部に宿る工夫や当時の演奏習慣を味わってください。
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参考文献
- IMSLP: March in D major, K.62(楽譜と注記)
- Wikipedia: List of compositions by Wolfgang Amadeus Mozart(作品一覧、K番号の参照)
- Digital Mozart Edition(デジタル・モーツァルト・エディション、学術版資料)
- Encyclopaedia Britannica: Wolfgang Amadeus Mozart(作曲家概説と年表)
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