モーツァルト:ピアノ協奏曲第1番 ヘ長調 K.37(1767)— 若き天才の出発点を聴く
モーツァルト:ピアノ協奏曲第1番 ヘ長調 K.37(1767)について
ピアノ協奏曲第1番ヘ長調 K.37 は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが幼年期に手がけた協奏曲群の一つです。生年1756年のモーツァルトが11歳となる1767年に作業されたこの作品は、当時の鍵盤作品(主にチェンバロ用ソナタなど)を器楽伴奏付きに編曲し、協奏曲風に仕立て直したものとして位置づけられます。モーツァルト自身の創造性と編曲技術、当時の演奏習慣が交差する初期の重要作のひとつです。
歴史的背景と成立の事情
1760年代のモーツァルトは欧州各地を巡る演奏旅行を終え、作曲技術を習得している時期でした。K.37は、モーツァルトが既存の鍵盤曲を拡張してオーケストラ伴奏を付けた一連の初期協奏曲(しばしばK.37〜K.41に分類される群)に属します。これらは完全な自作の協奏曲というよりも、当時一般的だった編曲や転用の手法を用いた教育的・実演的な作品群と考えられます。
作品の成立年として一般に1767年が挙げられ、これはモーツァルトが11歳の年にあたります。原曲(編曲の素材)として用いられたソナタや小品は他の作曲家の作品である場合があり、モーツァルトはそれらを踏まえつつ協奏曲の体裁に整えました。この点は初期の番号付けや編纂史にも反映されており、精密な版を参照すると編曲の出典や編曲過程が確認できます(後述の参考文献参照)。
編成と演奏習慣
K.37は当時の演奏環境を反映し、鍵盤(当時はチェンバロや初期フォルテピアノ)を独奏楽器として、弦楽合奏(第1・第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ/コントラバス)を基本に据えた編成で演奏されます。楽曲によってはオーボエやホルンが加わることもありましたが、原初稿や後の版により扱いが異なる場合があります。
18世紀後半の習慣として、独奏者は伴奏(通奏低音)とソロ両方の役割を兼ね、オーケストラはしばしばリトルネル(短い合奏リフレイン=リトルネッロ)で主題を提示する形を取ります。今日の演奏では、歴史的楽器(フォルテピアノや小編成の古楽アンサンブル)での再現を試みる演奏と、現代ピアノと現代的オーケストラで演奏するアプローチの双方が聴かれます。
楽曲構成と音楽的特徴
K.37は典型的な協奏曲の3楽章形式(急-緩-急)を踏襲しています。規模は小さく、主題の扱い・展開は簡潔で、幼年期の作品群に共通する明快で親しみやすい音楽語法が特徴です。以下におおまかな楽章の性格を示します。
- 第1楽章:明快な主題を持つ快活な楽章。ヘ長調の明るさを活かした書法で、オーケストラと鍵盤が対話するリトルネッロ風の構成を示します。
- 第2楽章:歌謡性のある緩徐楽章で、対旋律や装飾が独奏に求められます。簡潔ながら情感表現の芽生えが見られ、当時のアリア風曲法の影響が感じられます。
- 第3楽章:軽快なロンド風や終結的なフィナーレ。短いフレーズとリズムの切り返しで活気ある締めくくりを行います。
全体としてはバロックから古典派への移行期の語法(リトルネッロの痕跡、ガラン(galant)様式の優雅さ)が見られます。旋律線は明確で装飾は控えめ、和声進行は単純で聴き取りやすく、作曲技術というよりは編曲・実演向けの工夫が前面に出ています。
作曲技術と学習の跡
この作品群にはいわゆる“学習の跡”が色濃く残ります。既存の曲を基にしつつも、モーツァルトは和声処理や独奏部の追加、転調の扱いなどで自らの感性を反映させています。とくに以下の点が注目されます。
- 主題の簡潔さと即時的な魅力:聴衆に訴える短いフレーズを重視した書法。
- 伴奏と独奏のバランス感覚:独奏が通奏低音からソロ的な役割へ移る過程が試みられている。
- 形式への配慮:リトルネッロやソナタ形式の要素を編集し、短い楽曲の中で効果的に配置している。
この作品の聴きどころ
K.37を聴く際のポイントは、若きモーツァルトの《耳》と《手》の確かさを感じ取ることです。以下は具体的な聴取ガイドです。
- 第1楽章:主題提示とその繰り返し、オーケストラと鍵盤の呼応を追い、どこで作曲者が素材を“編曲”したかを想像してみてください。
- 第2楽章:旋律の歌わせ方、装飾の有無、ペダリングやアーティキュレーションにより表情が大きく変わります。歴史的鍵盤での演奏を聴くと当時の語法がより明瞭に伝わります。
- 第3楽章:簡潔な動機の反復とリズム感を楽しみましょう。終結部の快速さは作品全体を軽やかにまとめます。
演奏上の注意点と現代の解釈
現代ピアノで弾く場合、装飾の加減や音色のコントロールが鍵となります。フォルテピアノやチェンバロでの演奏では、粒立ちを重視し、オーケストラと密に合わせることが求められます。また、K.37のような初期協奏曲では、独奏者が即興的に簡単なカデンツァを演奏する伝統があるため、演奏者は当時の即興感を如何に再現するかで解釈が分かれます。
モーツァルトの協奏曲体系における位置付け
K.37は後のピアノ協奏曲の萌芽として重要です。成熟した協奏曲群(K.413以降の自作品)と比べると規模も技法も控えめですが、ここで培われた和声感覚や独奏と伴奏の配分の感覚は、後年の名作群へとつながっていきます。つまり学習期の作品でありながら、モーツァルトの演奏者としての自意識と作曲家としての芽生えが詰まった“実践的な習作”と位置づけることができます。
現代における受容と録音の楽しみ方
K.37はコンサートの主役になることは少ないものの、若き日のモーツァルトを知る上で貴重なレパートリーです。録音を選ぶ際は、編成(小編成の古楽アンサンブルか現代オーケストラか)と独奏楽器(フォルテピアノ/チェンバロ/モダンピアノ)に注目してください。歴史的楽器による演奏は当時の響きを、現代楽器による演奏は音色の豊かさやダイナミクスの拡張を伝えます。いくつかの版(校訂や異稿)を比較することで、編曲の過程や演奏慣行の違いも楽しめます。
聴き比べの提案
同じK.37でも版や編成の違いにより印象は大きく変わります。以下は聴き比べの視点です。
- チェンバロ+小編成vsモダンピアノ+現代オケ:響きの鮮明さ、装飾の有無、テンポ感の違いに注目。
- 古楽指向の解釈vsロマン派的表現:フレーズの歌い回しやリズムの揺らし方の違いに耳を澄ます。
- 版の違い:楽譜の校訂により追加されたホルン・オーボエの有無やオーケストレーションの差異を確認する。
まとめ
ピアノ協奏曲第1番 K.37 は、モーツァルトの幼年期における実践的な編曲作品であり、後年の偉大な協奏曲群へと至る過程を理解するうえで重要な鍵を握っています。簡潔で親しみやすい音楽ながら、作曲者の学習と創意が感じられる作品です。楽譜や複数の録音を比較し、歴史的演奏法と現代的解釈のどちらでも楽しんでほしい一曲です。
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参考文献
- IMSLP: Piano Concerto No.1, K.37 (Mozart) — 自筆譜/版の一覧やスコア参照に便利なパブリックドメイン資料。
- Britannica: Wolfgang Amadeus Mozart — 生涯年譜や作品群の概説。
- Neue Mozart-Ausgabe (Digital Mozart Edition) — モーツァルト作品の新版・学術資料を収録するモザルテウムのデータベース。
- List of works by Wolfgang Amadeus Mozart (Wikipedia) — 作品目録(参考用。一次資料の確認を推奨)。
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