モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番 K.467(C長調)徹底ガイド — 和声・形式・名演の聴きどころ
概要:K.467とは何か
ピアノ協奏曲第21番ハ長調 K.467(1785年)は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトによるピアノ協奏曲群の中でも特に人気が高く、通称「第21番」として広く親しまれている作品です。モーツァルトのピアノ協奏曲は通し番号で27曲(通称)ありますが、K.467はそのうちの中期〜後期に位置付けられる成熟した作風を示す代表作の一つです。全曲の所要時間は演奏によって差がありますが、通常約25〜30分程度です。
作曲の背景(1785年のウィーン)
1785年前後、モーツァルトはウィーンで活発に活動し、ピアノ協奏曲を自らの公開演奏やサロンで披露するために多く作曲しました。K.467は同年に作られた悲劇的なK.466(第20番ニ短調)と対をなす作品としても語られることがあります。K.466が劇的・情熱的な性格を持つのに対し、K.467は明るく歌唱的で端正な表情を備え、モーツァルトの多面的な作曲技法がうかがえます。
編成と楽器法
オーケストレーションは典型的な古典派の編成で、独奏ピアノ、弦楽合奏(第1・第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)、および木管・金管小編成(通常はオーボエ2本、ホルン2本)で成り立ちます。フルートやクラリネットは通常使われていません。モーツァルトはオーケストラとピアノを対等に扱い、会話的でバランスの取れた伴奏を書きます。オーケストラの序奏やリトルネッロ的素材を巧みに利用して、独奏が入るたびに新たな色彩を与えています。
楽章構成と聴きどころ
- 第1楽章:Allegro maestoso(ハ長調)
古典的な協奏曲形式に従い、管弦楽による序奏(オーケストラ提示部)に続いて独奏ピアノが主題を再提示する「二重提示(ダブル・エクスポジション)」的構造が基本です。ただしモーツァルトは単純に形式を踏襲するだけでなく、独奏とオーケストラの対話、主題の装飾や転調の鮮やかな処理で聴き手を引き込みます。展開部では一瞬の不穏な色彩や劇的な進行が現れ、終結前には独奏による華やかなカデンツァ(装飾的即興)を想定した箇所が設けられています(モーツァルトが完全な自筆カデンツァを残しているかは協奏曲ごとに異なります)。
- 第2楽章:Andante(ヘ長調)
K.467で最も有名な楽章です。静謐で歌うような旋律線をオーケストラが提示した後、ピアノが柔らかに応答する形で始まります。長い歌謡性と簡潔な伴奏の組合せが、心地良い余韻と透明感を生み出します。この楽章は1967年のスウェーデン映画『エルヴィラ・マディガン(Elvira Madigan)』の劇中音楽として使用されたことで20世紀以降さらに広く知られるようになりました(映画使用は後世の影響であり、モーツァルト自身の意図ではありません)。和声的には平穏なF長調を基調としつつ、微妙な転調や内声の動きで豊かな色彩を得ています。歌のようなフレージング、リタルダンドや装飾の使い方が聴きどころです。
- 第3楽章:Allegro vivace assai(ハ長調)
終楽章は典型的なロンドあるいはロンド=ソナタ形式に分類され、活発で軽快な主題が繰り返されます。独奏ピアノは装飾的で技巧的なパッセージを多用し、オーケストラとの掛け合いで躍動感を維持します。終結部では祝祭的な雰囲気が高まり、明るく完結します。
和声と様式的特徴の深掘り
K.467は一見すると優美で簡潔ですが、内部には巧妙な和声処理やモティーフの展開技法が隠されています。第1楽章の提示部から展開部にかけては、主題の断片化や転調の連続が、緊張感を高めつつも均整のとれた回帰へと収斂していきます。第2楽章では長三和音の安定感を基盤に、短い代理和音や近接音の動きが感情表現に微妙な揺らぎをもたらします。終楽章はリズムのスナップと短い動機的素材の反復によって、聴衆の注意を最後まで引き付けます。
演奏・解釈のポイント
- 第2楽章の歌い回し(フィレージング)は柔軟性が鍵。装飾はやや控えめにして、旋律の自然な呼吸を尊重することが多くの名演で共通する姿勢です。
- 第1楽章のカデンツァは自由度が高いので、演奏者によって個性が出ます。古典派的な簡潔さを守るか、ロマン的な装飾を加えるかで印象が変わります。
- オーケストラとピアノのバランス。モーツァルトのピアノ協奏曲は伴奏が単なる付属ではなく対話的なので、オーケストラが単に“背景”にならないことが重要です。
歴史的影響と文化的役割
K.467は映画音楽への転用などで大衆的な知名度を得たことにより、クラシック音楽の代表作として一般にも広く親しまれています。同時に、モーツァルトの協奏曲様式を理解するうえで重要な教材ともなり、音楽学・演奏実践の両面で研究対象となっています。
おすすめの聴きどころ(初めて聴く人へ)
- 第2楽章の冒頭(管弦楽の提示)— 旋律の歌い回しと間合いを味わってください。
- 第1楽章中盤の展開部 — 主題断片が転用される様子や調性の移り変わりを追うと面白いです。
- 終楽章の再現提示部付近 — 主題の回帰と装飾の違いに注目すると、演奏家の個性が見えます。
録音・演奏史に関する簡単な指針
名演とされる録音は時代様式(古楽器/モダン楽器)、テンポや表現の違いで多様です。モダン・ピアノによるテンポの安定感や音色の豊かさ、古楽・原典主義的演奏による軽やかさや透明感、それぞれに魅力があります。演奏者の解釈やオーケストラの音色を比較して、自分の好みを見つけるのも楽しみの一つです。
結論:K.467が教えてくれること
ピアノ協奏曲第21番 K.467は表面的な美しさの裏に高度な作曲技法と表現の幅を秘めています。ハ長調の明朗さ、ヘ長調の静謐な歌、そして終楽章の躍動。モーツァルトのバランス感覚と声部間の対話術を学ぶには格好の作品であり、演奏する立場でも聴く立場でも深い満足を与えてくれます。
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参考文献
- Encyclopaedia Britannica: Piano Concerto No. 21 in C major, K.467
- IMSLP: Piano Concerto No. 21, K.467 (score and parts)
- AllMusic: Piano Concerto No. 21 in C major, K.467 — work overview
- Naxos: Recording notes and commentary on Mozart concertos
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