モーツァルト:トランペット協奏曲 K.47c (1768?) — 真偽と演奏実践をめぐる深堀り

序論 — なぜK.47cは注目されるか

「モーツァルト:トランペット協奏曲 K.47c(1768?)」は、ウィーン古典派の代表格であるヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの名を冠する作品として一部のレパートリーや目録に挙げられてきました。しかし、本作は自筆譜(自筆譜=オートグラフ)が確認されておらず、成立年代や作曲者の同定に議論があるため、音楽学的にも演奏実践上も興味深い対象です。本稿では、来歴と真偽問題、楽曲の構造と音楽的特徴、当時の楽器事情と実演上の留意点、現代での受容に至るまでを詳しく掘り下げます。

来歴と版の伝承

本作が伝わる経路は断片的です。K.47cという番号で言及されることがあるものの、モーツァルトの正規カタログ(ケッヘル目録)における位置付けは流動的で、付随目録(付録)や疑問符付きの項目に含まれる場合もあります。自筆譜が存在しないため、現存する写譜や印刷譜が主要な資料となっており、それらは18–19世紀に成立したコピーや出版社版であることが多いです。このような伝承状況が、作品の真正性(authenticity)を巡る論点の根幹になっています。

真偽を巡る音楽学的議論

学界で指摘されている主な論点は次の通りです。

  • 自筆譜の不在:モーツァルトの確実なオートグラフが無いため、筆跡や修正痕による直接的な検証ができない。
  • 様式的特徴:一部の学者は和声進行や主題展開、管弦楽の扱いが若きモーツァルトの他作品と比較して異なる点を指摘する。一方で、若年期の自由な模倣や師匠・同時代人からの影響を理由に、モーツァルト作を否定しない見解もある。
  • 版の相違と加筆:現存版の間で旋律線や装飾、オーケストレーションに差異が見られ、後世の編曲や加筆が混入している可能性が示唆されている。

結論として、多くの近代的な目録・辞書では本作を「真偽不明」「疑作(spurious/ doubtful)」として扱うことが多く、モーツァルト確定作として扱う意見は慎重です。ただし、疑作とされるからといって音楽的価値が低いわけではなく、18世紀のトランペット文化を知る重要資料として価値があります。

楽曲構成と音楽的特色

伝承される協奏曲像は、古典派協奏曲の典型的な三楽章形式(急-緩-急)を踏襲していることが多いです。調はしばしばニ長調(D-dur)が想定されますが、これは当時の自然トランペット(ナチュラルトランペット)にとって扱いやすい調であり、管楽器協奏曲として合理的です。

音楽的特徴として観察される点は以下の通りです。

  • 高音域の使用:自然トランペットの特性を生かしてクラリーノ奏法(高音域での旋律)を多用する箇所が見られる。これにより華やかな音色と技巧的な見せ場が生まれる。
  • オーケストレーションの扱い:弦楽器の伴奏とトランペットの対話、短い合奏リトルネロ主題など、協奏曲形式の共通項がある。ただし和声進行や伴奏パターンの単純さを指摘する研究もあり、これは若年期の作品あるいは別作者の特徴とも解釈できる。
  • 装飾とカデンツァ:写譜版には装飾の差異が多く、カデンツァ部分は写譜者や初演者の即興的追加である可能性が高い。現代では奏者が歴史的様式に則した装飾を自作するケースが多い。

当時の楽器事情と演奏実践

18世紀後半のトランペットはまだ現代のピストン式ではなく、自然トランペットが主流でした。自然トランペットは倍音列に基づく音しか出せないため、協奏曲における技巧はクラリーノ奏法(高い倍音域を用いる)によって成立していました。本作がニ長調であるとすれば、自然トランペットが最も響きやすい調性を活かした作曲であると言えます。

演奏上の留意点:

  • 音程と調性:自然トランペットの音程は現代楽器と異なるため、ピッチ調整(コルネットやフリューゲルホルンへの移調、またはオーセンティックなナチュラルでの演奏)を決める必要があります。
  • 装飾の処理:18世紀様式に基づき、アーティキュレーションやトリル、ターンの扱いを歴史的資料から学ぶと説得力が増します。
  • カデンツァの選択:原典に明確なカデンツァが無い場合、奏者は当時の即興伝統に倣ったカデンツァを準備することが望ましいです。

音楽学的意義と比較考察

K.47cを巡る議論は、モーツァルト研究における「真筆と伝承」「写譜文化」「編曲と上演の相互作用」といったテーマを照らす鏡となります。若年期の作品群と比較すると、旋律の扱いや和声の進行にいくつかの差異が見られるため、別作者説が支持されやすい側面があります。一方で、若い作曲家が師匠や同時代作曲家の様式を模倣した可能性も否定できません。

また、18世紀のトランペット協奏曲自体がまだ発展途上にあったことを踏まえると、本作のように写譜や版ごとに差異が生じる作品は珍しくなく、こうした例を通じて演奏史(演奏慣習の変遷)を研究する価値も高いです。

現代での受容と録音・演奏例

現代では、K.47c相当の作品は音楽学的注記付きの録音や、疑作を含む全集録音の中で紹介されることが多いです。演奏家は史的演奏(古楽器)と現代楽器の双方でアプローチを試み、各版の差異を比較しながら演奏解釈を組み立てています。リスナーや研究者にとっては、「モーツァルトの名の下にあるが確定ではない協奏曲」として、作曲史や演奏実践を学ぶための教材的価値が高いと言えます。

実演者への実用的アドバイス

もし本曲をレパートリーに組み込むなら、以下の点を検討してください。

  • 版の選択:複数の写譜・版を比較し、旋律や装飾の差異を明確にする。必要に応じて批判校訂を自作するか、信頼できる版を選ぶ。
  • 楽器の選定:史的解釈を目指すならナチュラルトランペットやレプリカを用いると当時の響きを再現できる。現代金管で演奏する場合はフリューゲルホルンや変ロ管トランペットに編曲する選択肢もある。
  • カデンツァと装飾:当時の様式に倣った短いカデンツァを準備し、過度なロマンティシズムを避ける。

まとめ

K.47cは「モーツァルトの名で呼ばれるトランペット協奏曲」として、真偽問題・様式比較・演奏実践という複数の観点から学術的・実践的に興味深い題材です。自筆譜の欠如や版差異があるため作曲者を断定するのは困難ですが、本作を通じて18世紀後半のトランペット文化と協奏曲の成立過程を考えることは、演奏家・研究者双方にとって有益です。

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参考文献