モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番 K.515 — 豊穣な中声部が生む交響的世界
序論 — 大編成に迫る室内楽の傑作
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの弦楽五重奏曲第3番ハ長調 K.515 は、1787年に書かれた作品であり、弦楽五重奏という編成で交響的な広がりと室内楽的な親密さを同時に獲得した名作です。五重奏という編成は二本のヴァイオリン、二つのヴィオラ、そしてチェロからなり、特に中低域に厚みを与える二つのヴィオラの存在がこの作品の音響的特徴を決定づけています。本コラムでは成立背景、楽曲構成の詳細な分析、演奏のための実践的視点、そして本作が後世に与えた影響を掘り下げます。
成立と位置づけ
K.515 は1787年、ウィーンにおける成熟期の作品の一つとして書かれました。同年に書かれた陰影深いK.516 ト長調(G短調のK.516は悲劇的な性格を持つ)と対をなすとも見なされ、明朗さと古典的均衡を保ちながらも、和声的・対位法的な探求が随所に顔を出します。弦楽五重奏というフォーマットを用いることで、モーツァルトは交響曲やオペラ的なドラマを室内楽の枠組みに取り込み、各声部に対等な役割を与えることを可能にしました。
編成と音響的特性
編成は2つのヴァイオリン、2つのヴィオラ、チェロの標準的な弦楽五重奏。第二のヴィオラを加えることで中声域が豊かになり、和声の厚みや内声の対位法的展開が際立ちます。結果として、和声感が濃密になり、時に弦楽四重奏では得られないオーケストラ的な色彩を生み出します。またヴィオラ同士の掛け合いや内声の独立が、主題の展開や転調の推進力となっています。
楽章構成と詳細解析
本作は伝統的な4楽章構成をとります。各楽章の主要な形式と聴きどころを分析します。
- 第1楽章 アレグロ
ソナタ形式。堂々とした主題に始まりながら、展開部では対位法的な扱いや遠隔調への短い旅が挿入され、単なる古典派の「明快さ」を超えた深さを示します。第1主題の主張と第2主題の歌謡性の対比が明確で、再現部では内声の細かな装飾が加わり、各声部が交錯することで音楽が立体化します。
- 第2楽章 メヌエット アレグレット
優雅な舞曲ながらも単純な舞踏を超えた構造を持ちます。トリオ部では対位的な処理や和声の色彩変化が現れ、短いが充実した音楽劇が展開されます。舞曲のバランス感覚と、内声の技巧が特徴的です。
- 第3楽章 アンダンテ(通常へ長調)
柔和で歌を持つ緩徐楽章。伴奏と旋律の関係が非常に繊細に設計され、チェロや内声が旋律を支える役割を超えた対話を行います。ここではモーツァルト特有の親密性と透明な和声進行が耳を引き、部分的に挿入される短い対位法的エピソードが深い味わいを添えます。
- 第4楽章 アレグロ(終楽章)
活発な終楽章はソナタ形式あるいはソナタロンド形式の性格を持ち、再帰する主題と発展する動機のやり取りにより曲全体が締めくくられます。最終部分では和声的な確信が強まり、全体として明快な決意をもって終結します。
和声と対位法の技巧
K.515 の魅力の一つは、古典的均衡の枠内で繰り広げられる高度な和声操作と対位法的挿入にあります。モーツァルトはここでしばしば中声部にメロディを配置し、それを軸に和声の移動や転調を仕掛けます。結果として、表面的にはシンプルな古典様式の文章が、内部的には複雑な対位法的絡みを含む『小さな交響曲』のような深みを持ちます。
演奏上のポイント
- バランス感覚:二つのヴィオラを持つ中声部の存在を活かすため、ヴァイオリンは常に響きすぎないよう注意すること。内声を明確に出すことで和声の豊かさが際立つ。
- 歌唱性:緩徐楽章や第1主題の歌う部分では声部ごとのフレージングを丁寧に合わせ、フレーズの呼吸を共有すること。
- 対位法の明瞭化:対位的なパッセージでは各声部の独立性を保ちつつ、全体の流れを阻害しない発音を心がける。
- テンポ設定:古典派的な均衡を重視しつつ、楽句の内的速度(micro-rubato)を用いて情感を表現する余地を残す。
受容と影響
当時から高く評価された本作は、後の作曲家たちにも室内楽における『中声音域の役割』を再考させる刺激を与えました。ベートーヴェンをはじめとする後代の作曲家は、五重奏やそれ以降の室内楽で中声を重視する手法を採り入れていきます。また、モーツァルト自身の弦楽アンサンブル作品群の中でも、K.515 は交響的な視野を室内楽へ巧みに持ち込んだ先駆的な一作と見なされています。
現代の聴きどころと鑑賞法
鑑賞するときは、まず全体のプロポーションと主題の対比に注目してください。第一楽章の主題群がどのように展開部で変容するか、第三楽章の内声の支えが旋律にどのような色合いを与えるか、終楽章がこれまでの素材をどうまとめるかを追うと、作品の構築美が見えてきます。また、録音を聴く際は複数の解釈を比較することをおすすめします。弦楽器の音色、ヴィオラの扱い、テンポ決定が作品理解に大きく影響します。
結論
弦楽五重奏曲第3番 K.515 は、モーツァルトの成熟した技法と深い音楽的洞察が滲み出る室内楽の金字塔です。二つのヴィオラを用いることで生まれる中声域の豊穣さが、楽曲を単なる小品に留めず交響的な幅を与えています。技巧と感情の均衡が取れたこの作品は、演奏者にとっても聴衆にとっても幾度でも再発見のある名作です。
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参考文献
- IMSLP: String Quintet No.3 in C major, K.515 (スコア)
- Wikipedia: String Quintet No. 3 (Mozart)
- AllMusic: Mozart String Quintet No. 3 in C major K.515
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