モーツァルト:弦楽四重奏曲第2番 ニ長調 K.155 (K.134a) — 背景と詳細分析
作品の基本情報と位置づけ
弦楽四重奏曲第2番 ニ長調 K.155(旧番号 K.134a)は、モーツァルトが十代半ばの1772年頃に作曲した弦楽四重奏の一曲として伝えられています。作曲当時モーツァルトはおおむね16歳であり、若い才能が既に室内楽の技法や古典派の様式を十分に吸収していたことがうかがえます。番号付けには歴史的経緯から諸説があり、K.155 と K.134a の二つの番号が併記されることがありますが、これはケッヘル目録の改訂などに由来するもので、同一作品を指します。
歴史的背景
1772年前後はモーツァルトの創作にとって重要な時期で、オペラや宗教曲、協奏曲に加え、室内楽にも力を入れていた時期です。弦楽四重奏という編成自体はハイドンらを中心に成熟しつつあり、若きモーツァルトにとっては「会話(対話)」を音楽で表現する格好の場でした。四声それぞれに役割分担がある一方、モーツァルトは旋律の美しさと対位法的技法を融合させ、各声部に独立性と協働性を持たせることを志向しました。
編成と様式
編成は標準的な弦楽四重奏(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)です。本作は古典派の四楽章構成(速楽章→緩徐楽章→メヌエット(舞曲)→速終楽章)を基本とすることが多く、モーツァルトの初期四重奏に見られる対位法的要素や歌謡的な旋律が同居しています。和声は古典派の機能和声を基盤としつつ、若さゆえの大胆な転調や短い技巧的装飾が随所に見られます。
楽章ごとの特色(演奏・分析の視点)
- 第1楽章(典型的なソナタ形式): 序奏を持たないことが多い古典的なアレグロ系の楽章。主題提示部では第1ヴァイオリンが主導的な役割を果たしつつ、第2ヴァイオリンやヴィオラが応答することで主題が展開されます。展開部では主題素材が動機的に分解され、短い断片を用いた模倣や対位法的処理によって緊張が高められます。再現部では主題が調的に回帰し、終結部にかけて短いコーダで安定化します。
- 第2楽章(緩徐楽章): 歌謡的で内省的な性格を持つ楽章が置かれることが多く、旋律線の美しさと和声の微妙な流れが聴きどころです。モーツァルトの早期作品に特徴的な簡潔さと優雅さがあり、しばしばチェロやヴィオラに暖かい内声的な役割が割り当てられ、和声進行の中で親密な対話が行われます。
- 第3楽章(メヌエットとトリオ): 古典的な舞曲形式で、優雅さと軽快さを兼ね備えます。メヌエット部分は通常三拍子の舞曲的リズムを強調し、トリオでは対照的な調や質感が提示されて全体のバランスを取ります。モーツァルトは舞曲でもしばしば微妙な装飾や転調を用い、聴衆の興味を引き続けます。
- 第4楽章(フィナーレ): 終楽章はしばしば快活なロンド形式やソナタ形式の軽快なヴァリエーションで締めくくられます。動機の反復と変奏、リズム的な推進力により曲全体をエネルギーで収束させます。モーツァルトはここで技巧と明晰さを両立させ、室内楽らしい緊密なアンサンブルを要求します。
作曲技法と音楽的特徴
本作の顕著な特徴としては、声部間の対話性、旋律の歌わせ方、そして短い動機の積極的活用が挙げられます。モーツァルトは単に第1ヴァイオリンが旋律を独占するだけでなく、内声に豊かな和声的・対位法的興味を盛り込みます。特に第1楽章や展開部では、短い動機が模倣的に回転し、全体の統一感を生み出します。和声面では、調的中心(トニカ)からの動きが明確で、属調や同主調への短い転調を用いながら、つねに古典派の明瞭な機能和声へ回帰します。
演奏上の注意点(実践的アドバイス)
演奏する際には以下の点に注意すると作品の魅力が引き立ちます。まず、声部ごとの独立性を保ちながらも「会話」を意識してバランスを調整すること。第1ヴァイオリンの旋律線は際立たせつつも、ヴィオラやチェロの内声を潰さないようにすることが重要です。緩徐楽章ではフレージングと呼吸を丁寧に扱い、音楽の語り口を自然に保つこと。メヌエットやフィナーレではリズムの明晰さと軽やかなテンポ感を維持し、古典派の舞曲的躍動を忘れないことが肝要です。また、アーティキュレーション(弓遣い)や音色の変化を用いて各動機の性格を明確に描き分けると、対話の面白さがよく伝わります。
版と校訂、ケッヘル番号の注記
本作がK.155 と表記される一方で旧番号の K.134a が併記されることがあります。これはケッヘル目録(Köchel catalog)の改訂で番号が再整理された歴史的事情によるものです。演奏や研究の際は使用するスコアの版に注意し、信頼できる校訂版(可能なら原典版や新モーツァルト全集=Neue Mozart-Ausgabe の校訂)を参照するのが望ましいです。校訂によっては装飾やダイナミクスの表記が補われていることがありますので、演奏解釈に影響します。
聴きどころと比較視点
この四重奏曲を聴く際のポイントは、モーツァルトの若き日の創意と古典的様式の摂取の両立を見出すことです。ハイドンの弦楽四重奏から受けた影響と、歌謡性・旋律美というモーツァルト固有の要素が交差する場所を探すと面白いでしょう。旋律の素直さ、動機の展開の巧みさ、各声部の対話性──これらがバランス良く配置されている点が本作の魅力です。後年の《ハイドン四重奏曲》群と比較すると、より簡潔で露骨な模倣や実験的な和声処理は少なめですが、若い創作者としてのアグレッシブさが随所に見られます。
演奏史と現代的評価
早期のモーツァルト四重奏は、後年の大作と比べ世評が分かれることがありますが、近年は歴史的背景や様式理解の深化により、これらの作品の独自性が再評価されています。演奏家は初期作品ならではの透明感や簡潔さを重視し、過度なロマンティシズムを避けた解釈を採ることがしばしば推奨されます。こうしたアプローチにより、モーツァルトの若年期の音楽語法や発展の跡が明瞭になります。
鑑賞ガイド(何を聴き取るか)
- 各楽章での主題提示とその再現の仕方に注目し、動機がどのように展開されるかを追う。
- 内声部(ヴィオラ、チェロ)の役割に耳を傾け、和聲進行の支えや対話的応答を確認する。
- メヌエットやフィナーレでのリズムとの駆け引きを味わい、古典舞曲としての均衡感を理解する。
- 短い装飾やトリルの使い方、フレージングの自然さを聴き取り、演奏慣習の違いを比較する。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- IMSLP: String Quartet No.2, K.155 (Mozart)
- Wikipedia: List of compositions by Wolfgang Amadeus Mozart
- Neue Mozart-Ausgabe (Digital Mozart Edition)
投稿者プロフィール
最新の投稿
ビジネス2025.12.29版権料とは何か|種類・算定・契約の実務と税務リスクまで徹底解説
ビジネス2025.12.29使用料(ロイヤリティ)完全ガイド:種類・算定・契約・税務まで実務で使えるポイント
ビジネス2025.12.29事業者が知っておくべき「著作権利用料」の全体像と実務対応法
ビジネス2025.12.29ビジネスで押さえるべき「著作権使用料」の全知識――種類、算定、契約、税務、リスク対策まで

