モーツァルト フーガ 変ホ長調 K.153 (K.6.375f)(断片)を読み解く
作品概説
「フーガ 変ホ長調 K.153 (K.6.375f)(断片)」は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの対位法的な小品の一つとして伝わる断片楽曲です。作品番号の表記には諸説があり、古いコーッヘル目録から新版に至るまで整理が行われたため、K.153 と表記されることもあれば、改訂目録表記の一部として K.6.375f のように記載される場合もあります。いずれにせよ、本作はモーツァルトの若年期に書かれたとされる鍵盤(おそらくチェンバロまたはフォルテピアノ)用のフーガ断片で、完結していない素材が現存しているため「断片」として扱われます。
来歴と来所(来歴の概略)
モーツァルトの早期の対位法作品群は、彼が若年期に学んだ西欧の古典的・バロック的作曲技法の影響を色濃く反映しています。モーツァルトは幼少期から各地を巡歴し、イタリア滞在やパドレ・マルティーニらとの交流を通じて対位法の知識を深めました。こうした学習と実践の過程で残された数多くの小品や練習曲が、断片として流布しています。本作もその系譜に属すると考えられ、原資料は楽譜写本や自筆の断片譜が存在する可能性があります(資料の所在・成文の詳細は、Neue Mozart-Ausgabe やデジタル・モーツァルト版などの専門目録で確認するのが確実です)。
作品の性格と位置づけ
この断片フーガは、形式的にはバロック期のフーガの伝統に則った書法を基礎としつつ、モーツァルトらしい歌謡性や和声感を帯びています。厳密なフガートゥーラ(学習的フーガ)に近い性格を持ちながら、テーマ(主題)の造形には旋律的な魅力があり、単なる教則用作例以上の音楽的価値が感じられます。モーツァルトは生涯を通じて対位法を自在に用いており、晩年の交響曲や協奏曲、室内楽でも対位技法を効果的に活用しました。本作はその基礎が養われた若年期の習作として重要です。
楽曲分析(断片部分の構造と音楽的特徴)
断片であるため完全な通観はできませんが、現存部分から読み取れる主要特徴は次の通りです。
- 調性と主題:変ホ長調という温和で落ち着いた調を選んでおり、主題は比較的円滑で歌うような輪郭を持つ。長調における第Ⅴ度や第Ⅵ度の和声進行を巧みに用いている点が見える。
- 声部処理:対位法の書法に則り、模倣の技法(正格・逆行・転調的模倣など)が局所的に用いられる。モーツァルト独特の和声音型が現れ、バロック的な「機械的模倣」だけに留まらない音楽的発展がなされている。
- ハーモニーと転調:断片の段階でも副次的領域(属調や下属調)を経由する短いエピソードが存在し、終止感を作るための和声的な仕掛けが施されている。
- テクスチャー:二声または三声で展開することが多く、密度は決して過剰ではない。これは鍵盤楽器での実演を想定した書法と整合する。
対位法的学習の一端としての意義
モーツァルトが若年期に対位法を学んだ成果を示す作品群は、彼が単にメロディ作家でなく、複雑な声部間の関係性を統御する能力を有していたことを示します。フーガやフーガ風楽想は、教会音楽や古典的様相を持つ大規模作品でしばしば登場し、最終的には《ジュピター》交響曲の総奏的対位法(総合的フーガ)などにも結実します。したがって、本断片はモーツァルトの技術的基盤を理解するうえで重要なサンプルです。
補筆と実演上の問題点
断片作品を演奏・出版する際には、補筆(completion)や編曲が避けられません。編集者はモーツァルトの和声習慣や対位法的処理を踏まえつつ、欠落部分を補う必要があります。補筆に当たっての一般的な方針は次の通りです:
- 既存の主題材料と和声進行を尊重し、モーツァルトの典型的な動機処理(伴奏形、声部交換、連結句など)を模範とする。
- 過度に近代的な和声や非古典的解決は避け、18世紀末の和声感覚を優先する。
- 演奏上は鍵盤楽器(古楽器フォルテピアノやモダンピアノ)それぞれに応じたタッチや装飾を考慮する。チェンバロ的な均質なタッチとフォルテピアノのダイナミクス表現では表現の差が出るため、演奏目的に応じて補筆の密度や配分を調整する。
演奏上の実践的アドバイス
断片の演奏には解釈の余地が大きく、以下の点が参考になります。
- テンポ:主題の歌謡性を活かすやや遅めから中庸のテンポが基本。対位の鮮明さを保つために拍節感を堅持する。
- フレージング:声部ごとの独立性を強調しつつ、主題が現れるたびに適度な強弱のコントラストをつける。
- 装飾と発音:18世紀様式の簡潔な装飾(上行下行のスラーや短い軽いトリル)を用いる。過剰なロマンティシズムは避ける。
- 編成:鍵盤独奏以外にチェンバー編成での対位法的再構成(例えばヴィオラ・ダ・ガンバやチェロを加える)も可能で、複数声部の明瞭な提示が得られることがある。
史的・音楽学的注目点
この断片が学術的に注目される理由は、単に一つの未完作品である点だけでなく、モーツァルトの学習過程、師からの影響、そしてバロックと古典主義の接点を読み取れる点にあります。さらに作品目録上の番号付けの変遷(K.153 といった旧表記と、後の改訂目録における異なる表記)は、モーツァルト研究における資料学的問題を雄弁に示しています。確かなことは、一次資料(自筆譜や写譜)を直接確認することが最も確実なファクトチェック手段だという点です。
まとめ
「フーガ 変ホ長調 K.153 (K.6.375f)(断片)」は、モーツァルトの対位法習得の跡を伝える貴重な断片です。完全版が残らなかったために謎めいた側面もありますが、現存する素材からは旋律性と対位法の融和、そして古典派的和声感覚の萌芽が読み取れます。演奏や補筆を通じて再生されることで、若き日のモーツァルトの技術的な土台と創造の過程をより深く理解することができます。
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参考文献
- Digital Mozart Edition(デジタル・モーツァルト版) - Salzburg Mozarteum
- IMSLP / Petrucci Music Library(楽譜検索と原資料)
- Köchel catalogue - Wikipedia(目録番号の変遷についての概説)
- Grove Music Online(専門的記事および論考)
- Bärenreiter / Neue Mozart-Ausgabe(批判校訂版に関する情報)
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