モーツァルト「フーガ ニ短調 K. deest(断片)」──来歴・真贋・音楽的読み解き

概要:K. deestとは何か、断片作品の位置づけ

「K. deest(ケッヒェル番号欠番)」は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの作品目録(ケッヒェル目録)に番号が付されていない、もしくは確定番号が与えられていない作品を示す記号です。モーツァルトに帰属された断片や疑義のある作品、あるいは後世に付された写譜のみが残るものなどがこのカテゴリーに入ります。「フーガ ニ短調 K. deest(断片)」はその名の通り、ニ短調のフーガ断片で、作曲者帰属や成立年が確定していない作品の一つとして扱われます。

来歴と伝来の問題:資料が示すものと示さないもの

断片の伝来経路、原典の有無、筆跡や用紙の分析は、真贋を判定する上で重要です。K. deest に分類される作品群の多くは、以下のような理由で確定番号が与えられません。

  • 原典楽譜(自筆譜)が散逸している、もしくは未発見である。
  • 写譜があるが、それが確実にモーツァルト本人の作ではないことが判明している、あるいは筆跡の判定が難しい。
  • 作曲様式や和声進行が時代的・様式的にモーツァルトと一致しない箇所があり、専門家の間でも意見が分かれる。

「フーガ ニ短調」断片についても、資料的な裏付けは限られており、学術版(例えばNeue Mozart-Ausgabeの補遺やモーツァルト研究の文献)では疑義付きの作品として紹介されることが多いです。確実な自筆譜が存在する場合は帰属が容易になりますが、多くは写譜・断簡の形で残っています。

様式的特徴:ニ短調という調性が持つ意味

ニ短調はバロックから古典派にかけて悲愴さや劇的表情と結びつきやすい調です。断片がニ短調であるという事実は、作曲者が宗教曲や深い感情表現を意図していた可能性を示唆します。ただし、断片の長さや内容次第で印象は大きく変わります。短い主題の立ち上がりだけが残るタイプの断片では、作曲の意図や最終形を推定することは難しく、表情や展開は推測の域を出ません。

モーツァルトの対位法的素養と本断片の位置づけ

モーツァルトは若年期から対位法を学び、ローマやボローニャ滞在時にPadre Martiniらから学んだことが伝えられています。また、後年にはバッハやヘンデルの楽曲を研究し、古典的な様式とバロック的対位法を融合させた作品(たとえば《交響曲第41番「ジュピター」》の終楽章に見られる五声的対位など)を残しています。こうした背景から、ニ短調のフーガ断片がもしモーツァルトの手になるものであれば、彼の対位法的関心の一端を示す重要な資料と考えられます。一方で、モーツァルト風の古典的クリアな主題の作りや和声進行を模した後代の模作・模倣である可能性も否定できません。

真贋をめぐる論点:筆跡、用紙、様式分析

作曲者帰属の判断には複数のアプローチが用いられます。

  • 筆跡学的検査:自筆譜とされる場合、モーツァルト既知の自筆譜と比較して特徴(音符の書き方、略語、筆致)を検討する。
  • 物質的証拠:用紙の水印やインクの種類、筆写の年代を示す物的な証拠を調べる。
  • 様式的検討:主題の構造、対位進行、和声の処理、シーケンスやエピソードの展開方法がモーツァルトの他作品と整合するかを分析する。

これらを総合しても明確な結論が出ないことが多く、「真作」・「偽作」・「不詳(疑義あり)」といった態度表明がなされます。学術的には、Neue Mozart-Ausgabeやモーツァルト研究者の注記を参照するのが確実です。

音楽的読み解き:断片から読み取れる可能性

断片作品の分析は仮説的になることが多いですが、以下のポイントで読み解きを行えます。

  • 主題の輪郭:短い下降・上行の動き、長短のリズム、休止の位置はフーガ的推進力に直結する。
  • 調性の扱い:ニ短調という調性が維持されるか、途中で長調的な緩和(モデュレーション)を挟むかによって、フーガの表情が変わる。
  • 対位の展開:カノン的な開始、ストレッタ(主題の重なり)、反行形や逆行形の扱いがあれば、作曲者の技巧志向が窺える。

断片が短ければ、編曲者や研究者が補筆して演奏可能な版を作ることもあります。補筆の際はモーツァルトの他作品の語法を参照して、過度な現代化を避けることが重要です。

演奏・版の問題:断片の扱い方

断片を演奏する場合、次のような選択肢があります。

  • 原典に忠実に短い断片をそのまま演奏する。
  • 学術的に補筆して完成版を作成する(補筆箇所は明示する)。
  • 編曲者がモーツァルト風に拡張してコンサート用に仕上げる(補筆部分の出典・根拠を明示)。

実演では、断片の短さを逆手に取り、解説を添えて聴衆にモーツァルトの対位法への取り組みや断片が示す可能性を提示することが効果的です。録音や出版を行う場合は、編集者ノートで出典と補筆・編曲の程度を明確にすることが学術的マナーです。

現代の研究と今後の見通し

モーツァルト研究は継続的に進展しており、デジタル化や水印データベースの整備により、散逸していた資料の根拠付けが進んでいます。mozart-digitalのようなデジタル・アーカイブやNeue Mozart-Ausgabeの注記を参照すれば、疑義作品の最新の学術的扱いが確認できます。将来的に新資料が発見されれば、K. deestの作品群のいくつかは再評価され、番号付与や成立年の確定が行われる可能性があります。

まとめ:断片が残す意味

「フーガ ニ短調 K. deest(断片)」は、作品そのものが短くても、モーツァルトの対位法的関心や後世の評価のされ方、編集・演奏の問題を考えるうえで重要な材料です。確たる帰属が得られていないことは学術的な不確定性を残しますが、同時に研究者や演奏家にとっては解釈と創造の余地を与えるという意味でも魅力的な存在です。

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参考文献