モーツァルトと「ヴィオラ・ダ・ガンバ独奏曲 K. deest」──失われた作品の真相と通奏低音付きという伝承をめぐって
概要:K. deest 表記が意味するもの
「K. deest」とは、モーツァルトの作品目録であるケッヘル目録(Köchel-Verzeichnis)において、正式なケッヘル番号が付与されていない、あるいは目録作成時に作品と認められなかった断片・失われた作品等を表す表記です。従って「モーツァルト:ヴィオラ・ダ・ガンバ独奏曲 K. deest」という表記は、その曲が確固たる自筆譜や公刊譜として現存せず、あるいは真筆性が疑わしいことを示しています。
史料と真偽――何が伝えられているのか
結論を先に言えば、現存する確かな一次史料(モーツァルト自筆譜、確実に追跡可能なコピー、信頼できる同時代の目録記載等)によって「ヴィオラ・ダ・ガンバ独奏曲」がモーツァルトによって書かれたと断定できる根拠は見つかっていません。いくつかの二次史料や後世の伝承、あるいは作品目録の注記により〈ヴィオラ・ダ・ガンバ用〉とされる言及がなされた可能性はありますが、それらは断片的かつ疑義を含んでいます。
モーツァルト研究の主要な資料群(Neue Mozart-Ausgabe、ケッヘル目録の改訂版、モーツァルト全集カタログ、主要な音楽学辞典)では、ヴァイオラ・ダ・ガンバ独奏の確証ある作品としてはリストアップされていません。したがって、現在「K. deest」として言及される場合、それは「存在が報告されたが資料不十分で確証できない」ことを意味します。
18世紀後半におけるヴィオラ・ダ・ガンバの位置づけ
ヴィオラ・ダ・ガンバ(ヴィオラ・ダ・ガンバ属、通称「ガンバ」)は17〜18世紀前半にかけて盛んに用いられた弦楽器ですが、18世紀後半にはヴァイオリン属(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)の台頭により次第に衰退しました。そのため、モーツァルト(1756–1791)の活動期にはガンバによる新作が盛んに書かれる状況にはありませんでした。ただし地方や個別の愛好家、古楽志向の奏者のために例外的に書かれることはありえますし、古い楽器を扱う演奏会で既存の作品が演奏される事例もありました。
この史的背景を踏まえると、モーツァルトがガンバのために独奏曲を書く可能性は低いもののゼロではありません。だが実証がない現状では、推測の域を出ません。
通奏低音付きか——慣習と可能性
もし仮にモーツァルトがガンバ独奏曲を書いたとすれば、様式的には通奏低音(basso continuo)付きであることが自然に想定されます。ガンバは主にキーとなる旋律楽器や通奏低音と組み合わせて演奏されるケースが多く、独奏楽器と通奏低音の組合せ(チェンバロ等の鍵盤+低弦)は18世紀の通奏低音習慣に即しています。
一方、モーツァルトの時代の「通奏低音」の扱いはバロック期とは異なり、より室内楽的・古典派的な伴奏書法へ移行していました。従って通奏低音付きであっても、鍵盤の有無や低弦の扱い(チェロのみ、あるいはチェロとコントラバス併用など)は楽曲の場面や依頼主の編成により変化したはずです。
なぜ“失われた作品”が生じるのか—写本・口伝・誤認の問題
- 一次資料の散逸:楽譜自体が火災や戦争、散逸により失われること。
- 誤認・誤伝:別の作曲家の作品がモーツァルト作と誤って伝わる場合。
- 不完全な目録記載:当時のカタログ作成が不徹底で、作品が記載されなかったり誤って分類されたりすること。
- 後世の創作・模作:後の編者や愛好家がモーツァルト風の曲を付会すること。
モーツァルト作品に関しては、これらが混在しており、音楽学者は兄弟子の手書き譜、出版物、手紙などの複合的証拠を突き合わせて真偽を判断します。ガンバ独奏曲が「K. deest」として伝わる背景にも、こうした事情があると考えられます。
復元・編曲・実演の現場からの視点
現代においては、確固たる自筆譜のない作品でも、当時の様式や類似作品から「復元」や「編曲」を行い、演奏会で紹介する事例が多くあります。ガンバという古楽器に対する関心の復活に伴い、チェロやヴィオラのために書かれたモーツァルト作品や同時代の小品をガンバ用に編曲して演奏する例が見られます。
復元/編曲を行う際の具体的ポイント:
- 原曲の音域とガンバの音域を整合させる(低音の受け渡し等)。
- 装飾やアゴーギクスは当時の演奏習慣に基づき再考する(バロック的な装飾と古典的な装飾の違い)。
- 通奏低音の実演方法(チェンバロ+低弦/フォルテピアノ+低弦/チェロ単独)を楽曲の性格に合わせて選ぶ。
- 楽器のチューニング(ガット弦、チューニングの標準)やボウイングを歴史的楽器法に即して決める。
学術的評価と今後の課題
学術的には、単に「K. deest」と呼ばれる伝承情報だけでは著者特定は困難です。今後の課題は、欧州各地の図書館や私蔵譜のデジタル化が進むことで、もしかしたら断片的写本や目録記載が新たに発見され、真相が明らかになる可能性がある点です。すでに近年のデジタルアーカイブの整備は、そうした局所的史料の再発見につながる好例を生んでいます。
演奏家・リスナーへの提言
・演奏家は「モーツァルト作品」としてプログラムに掲げる際、真偽の不確かさを注記するべきです。歴史的文脈を解説することで聴衆の理解が深まります。
・リスナーは「K. deest」の表記は〔失われた/確証のない〕ことを意味する表示だと認識してください。演奏を楽しむにあたっては、編曲者や奏者がどのような音楽学的判断で楽曲に取り組んだかを注目すると興味深いです。
まとめ
現時点で「モーツァルト:ヴィオラ・ダ・ガンバ独奏曲 K. deest(通奏低音付きか)」を確定的に実在する作品として扱うことはできません。史料的根拠が不足しているため、学術的には「可能性の一つ」として留保されるべき話題です。ただし、ガンバという楽器とモーツァルトの時代背景、通奏低音の扱いを踏まえた演奏的アプローチは多くの芸術的価値を持ち得ます。今後の図書館資料のデジタル化や目録研究の進展によって、新たな発見があるかもしれません。
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参考文献
- Köchel catalogue — Wikipedia(ケッヘル目録についての概説)
- Viola da gamba — Wikipedia(ガンバの歴史と様式)
- IMSLP / Petrucci Music Library(楽譜データベース。モーツァルト関連資料の検索に有用)
- Digital Mozart Edition(Mozarteum)(Neue Mozart-Ausgabe のデジタル資源)
- List of compositions by Wolfgang Amadeus Mozart — Wikipedia(真贋・失われた作品に関する情報の出発点)
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