モーツァルト:キリエ ヘ長調 K.33 — 幼年期の宗教曲に見る様式と解釈
作品の概要
「キリエ ヘ長調 K.33」は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの比較的初期に属するラテン典礼文「Kyrie(主よ憐れみたまえ)」を扱った作品で、ケッヘル目録ではK.33という番号が付されます。作品は教会音楽としての機能を持ち、合唱を中心に弦楽や通奏低音などが伴奏する典型的な写し方で記譜されたと考えられます。形式的には、キリエ=クリステ=キリエ(Kyrie–Christe–Kyrie)の三部構成を踏襲する場合が多く、明るいヘ長調を基調に幼少期の天才らしい簡潔で明瞭な音楽語法が見て取れます。
作曲時期と背景
K.33はモーツァルトの幼年期、いわゆるサルツブルク時代の作品群にあたり、彼がまだ十代前半あるいはそれより若い時期に手がけたとされる作品の一つです。幼少期のモーツァルトは父レオポルトの指導のもと、国内外の宮廷や教会で演奏するための宗教作品や器楽曲を数多く作曲しました。K.33のような短い典礼曲は、ミサの一部として、あるいは礼拝の一場面で必要に応じて演奏されることを意図していたと考えられます。
楽曲構成と音楽的特徴
本作品はヘ長調という明るく温かみのある調性を選んでおり、これはキリエの呼びかけに対する慈愛や救済の願いというテキスト感情に合致します。幼いモーツァルトの作風は、対位法や模倣の技法を取り入れつつも、ガラン(galant)様式に基づく旋律の流麗さや分かりやすい和声進行が前面に出る点が特徴です。
典礼文に基づく「キリエ」は、一般に三部形式で構成され、最初のKyrieは合唱による呼びかけ、Christeはより穏やかで内省的、再びKyrieで冒頭の主題が回帰するという対比が取られます。K.33でもこれらの機能的な役割分担は保たれていると推察され、短い楽曲内で効果的なダイナミクスやテクスチャーの変化が配されています。
和声・対位法の扱い
モーツァルトの幼年期作品では、和声の明確さと短いフレーズの精緻さが目立ちます。K.33においても和声進行は比較的単純でありながら、ところどころにモーツァルト独特の非和声音の挿入や短い転調が見られることで、表情の豊かさが補われています。対位法的な手法は控えめですが、合唱の中での模倣やホモフォニーとポリフォニーの切替により、テキストの語勢に合わせた効果的なアクセントが付与されています。
声部と演奏編成
具体的な編成は写本や版によって差異がありますが、典礼用のキリエでは合唱(通常SATB)に弦楽器と通奏低音、場合によってはオーボエやホルンなどの管楽器が加わることが多いです。幼年期の作品はしばしば小編成を想定しており、教会の限られた人員で演奏できるように工夫されています。演奏時にはハーモニーを支える通奏低音(チェロと通奏鍵盤など)を堅実に配置することが、古楽的な響きを得るうえで重要です。
演奏と解釈のポイント
- テンポ感:幼年期の作品は、テンポ指定が明示されない場合が多く、テキストの語感と和声進行に応じた柔軟なテンポ感が求められます。過度に遅くすると陳腐化し、速すぎると典礼的な含蓄が失われるため、中庸を保つことが大切です。
- 発声とアーティキュレーション:教会空間での拡がりを意識した自然な発声が望まれます。フレージングはテキストの語尾や句切れを尊重して区切り、ポリフォニックな部分では各声部の輪郭をはっきりさせます。
- 装飾とイントネーション:幼いモーツァルトの楽想は装飾を過剰に施す必要はなく、原譜に示された基本線を尊重しつつ、小さな装飾やポルタメントを場面によって用いることで歌詞の意味を強調できます。
- バロック/古典の解釈区分:作曲年代がバロック終末〜古典初期にまたがるため、演奏スタイルは歴史的演奏法への配慮が有効です。通奏低音の処理、音程の取り方、ヴィブラートの節度などを考慮して表現を整えます。
楽譜と版の注意点
K.33のような初期の宗教曲は、写本譜や初期刊行譜に差異が残る場合があります。信頼できる版を使用することが望ましく、可能であればモーツァム研究機関や公的コレクションが提供する校訂版やデジタル・エディションを参照してください。現代の校訂版は、原典との比較や補筆の有無などを明示していることが多く、演奏解釈や研究に役立ちます。
演奏史と録音について
K.33はモーツァルトの大作曲群に比べて演奏機会は限られるものの、合唱団や小オーケストラによる宗教曲集の中にしばしば取り上げられます。録音を選ぶ際は、版の信頼性(原典版か校訂版か)や演奏スタイル(歴史的演奏法に基づくかモダン楽器によるか)に注目するとよいでしょう。演奏団体によっては、K.33を同時代の他の典礼曲と組み合わせて演奏することで、当時の典礼音楽の全体像を示すプログラムを組んでいます。
学術的な位置づけと意義
K.33は一定の学術的関心の対象となります。それは、モーツァルトの初期作曲技法を理解するうえで、宗教音楽が果たした役割を示す好資料だからです。幼少期の作品群を通じて、彼がどのように宗教語法を吸収し、後年の成熟した技法へと発展させていったのかを探る手がかりが得られます。また、地域(サルツブルク)の典礼音楽の慣習や、教会と宮廷の音楽需要といった社会的背景の研究にも寄与します。
演奏会での扱い方の提案
K.33を演奏会プログラムに組み込む際は、次のような扱い方が考えられます。短い作品であることを活かして、長大なミサ曲の間に挟む前座的な位置づけや、モーツァルトの幼年期作品を集めた特集プログラムの一部として提示することで、聴衆に親しみやすい入門的な曲として紹介できます。また、同時代の作曲家(たとえばローカルな教会作曲家)の作品と対比して上演することで、モーツァルトの特徴を浮かび上がらせることが可能です。
まとめ
「キリエ ヘ長調 K.33」は、モーツァルトの幼年期に位置する宗教曲の一つであり、簡潔で明快な音楽語法、典礼的な機能性、そして当時の地域的な音楽慣習を反映した作品です。研究・演奏の両面で、モーツァルトの成長過程を考察するうえで価値のある資料であり、適切な版と演奏スタイルを選ぶことで、現代の聴衆にもその魅力を伝えることができます。
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参考文献
- IMSLP: Kyrie in F major, K.33 (Mozart)
- Digital Mozart Edition (Mozarteum Foundation)
- List of compositions by Wolfgang Amadeus Mozart - Wikipedia
- Neue Mozart-Ausgabe (Bärenreiter)
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