モーツァルト「不幸なのはあなたではありません」K.73A(Anh.2)(散逸)――失われた小品の検証と再構築の可能性

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はじめに:散逸作品としての位置づけ

「不幸なのはあなたではありません」K.73A(Anh.2)は、現在では断片的情報と文献上の記載にしか現れない、いわゆる“散逸”または“疑義”の作品です。K番号に付される「A」や「Anhang(付録)」の表記は、原典の現存が確認できない、あるいは作者確証が得られない作品群を示しています。そのため、本稿では一次史料の現状確認、目録上の扱い、音楽学的な検討の仕方、復元や上演の可能性について、現存資料と信頼できる二次資料に基づいて慎重に検討します。

K.73A(Anh.2)の出典と目録上の扱い

モーツァルト作品目録(Köchel-Verzeichnis)は、最初の刊行以来何度も改訂されてきました。原目録では番号付けとともに、写譜や二次的記録に基づく作品が付録(Anhang)として扱われています。K.73A(Anh.2)という表記は、そのような付録的な扱いを受けていることを示しています。重要なのは、この種の番号が示すのは「確定した遺稿」ではなく、「文献上または写本上で断片的に記録されているが、正確な自筆譜がないか、作者性が疑われる」作品群だという点です。

タイトルについて:「不幸なのはあなたではありません」

日本語タイトル「不幸なのはあなたではありません」は、おそらくドイツ語本文の日本語訳あるいは断片の意訳に由来するもので、原称が確立しているわけではありません。散逸・断片作品の場合、楽曲の初行(incipit)や歌詞の一部から後世の編者が便宜的にタイトルを付けることが多く、英語や日本語の題名は必ずしも原資料に基づくものではありません。従って、記事や解説でこの日本語題を使う際は「通称」や「便宜的な訳題」であることを明記するのが学術的に誠実です。

原典の有無と現存資料の確認

現時点で自筆譜(autograph)が発見されていない場合、この曲は以下のいずれかに該当する可能性があります:

  • かつて存在したが散逸した自筆譜、あるいは古い写譜のみが存在した(現在は失われた)
  • 同時代の刊本や一覧表に曲目名だけが記載されているが、楽譜は伝わっていない
  • 別作の一部と誤認され、後の目録編纂者が分離して付録扱いにした

これらを確かめるには、モーツァルテウム(ザルツブルク)や大手アーカイブのデジタルコレクション、主要写本カタログ、18世紀の演奏会プログラムや書簡類の照合が必要です。現在の標準的な一次情報源としては、デジタル・モーツァルト・エディション(Neue Mozart-Ausgabe のデジタル版)や各種写本データベースが参照されます。

作者性の検討:どのように真偽を判断するか

作者がモーツァルトであるかどうかを判断する際、音楽学者は以下の手法を組み合わせます:

  • 写譜の筆跡・用紙・水印などの物理的検証(手稿学的検討)
  • 和声進行、旋律形、伴奏様式などの様式学的比較(同時期の確実な作品との比較)
  • 作品が引用されている史料(手紙、書誌、演奏会目録など)の信頼性評価
  • 作曲年代の可能性検討:モーツァルトの作風変化との整合性

散逸作品では、上のいずれの手法でも決定的な証拠が欠ける場合が多く、「可能性はあるが確証はない」という結論に留まることが一般的です。

作品の想定される成立時期と様式的特徴

K.73 の付近の番号群は主に少年期の作品群に属し、簡潔な歌曲や器楽小品が多く見られます。したがって、もしK.73Aがモーツァルトの作とすれば、1770年代前半(サンクト・ギルゲン〜ザルツブルク期)に成立した可能性が高いと推定されます。この時期の歌曲はシンプルな伴奏(通例ピアノフォルテやチェンバロ)に対して歌謡的な旋律を持ち、短い二節または三節構成であることが多いです。散逸した歌曲の題材は恋愛や感傷的な心情を扱うものが多く、「不幸なのはあなたではありません」という主題は当時の感傷歌の典型にも符合します。

復元・再構築の可能性と実際の手順

断片的な旋律・歌詞の断章しか残っていない場合、復元はあくまで仮説的な作業です。一般的な手順は次の通りです:

  • 残存断片の正確な記譜とデジタル化
  • 同種のモーツァルト作品(同年代の歌曲やピアノ伴奏付きリート)との様式比較
  • 和声付けや裏声部の推定(モーツァルトの和声語法に準拠)
  • 補筆箇所を明確に注記して版を作成(復元部分と原断片を区別)
  • 音楽学者・演奏家による演奏試行と学術的検証の反復

重要なのは、復元版は「復元者の解釈」であることを明示することです。資料学的誠実さを保つため、どの音符が原典に基づくのか、どの音符が推定なのかを版で明記するのが常道です。

上演史と受容(実際の記録がある場合)

散逸作品の場合、歴史的な上演記録も稀です。K.73Aについては、近代以降に断片を基に復元上演が行われたという確かな史料は限られています。現代の演奏家や学者が注目するのは、むしろこの種の作品を通じてモーツァルトの作曲技法の幅を理解すること、また失われた作品の痕跡を辿ることにあります。復元や学術的な録音を行う場合、演奏ノートで出典と不確定部分を明示することが求められます。

コンテンツ作成者(コラムニスト)への実務的助言

Webコラムや解説記事として取り上げる際の注意点は以下の通りです:

  • 出典を明示する:K.番号や「Anhang」の意味、一次資料の有無を明記する
  • 断定を避ける:作者性や原典の存在については確証がない点を明示する
  • 復元版を紹介する場合は、復元者名と版の出典、注記を掲載する
  • 聴衆にとっての魅力を伝える:失われた作品をめぐるロマン、発見の可能性、モーツァルト研究の手法を易しく説明する

結び:不確定さをどう伝えるか

K.73A(Anh.2)のような散逸・疑義作は、事実関係を慎重に整理して伝えること自体が重要な仕事です。「断片が示すもの」と「補筆による推定」を明確に区別し、読者に史料に基づく判断のプロセスを示すことで、音楽史理解の深まりにつながります。また、デジタルアーカイブの整備により、将来的に新たな写本や文献が発見される可能性もあります。コラムではその可能性と現状の限界をバランスよく提示することをおすすめします。

参考文献