モーツァルト「アレルヤ」K.553の真相と名アリア『Exsultate, jubilate』K.165を深掘り
はじめに — タイトルの混乱を解く
インターネットやCD解説で「モーツァルト:アレルヤ K.553」といった表記を見かけることがあります。しかし結論から言うと、現在の主要なモーツァルト目録(Köchel catalogue)や研究では、一般に知られる“Alleluia(アレルヤ)”がK.553として登録されている事実は確認できません。多くの場合、ここで指されているのはモーツァルトが1773年に作曲したモテット『Exsultate, jubilate(歓喜して、喜べ)』K.165(旧番号K.158a)の終結部にあたる有名な〈Alleluia〉のことです。本稿では、この混乱を整理しつつ、実際に演奏と聴取の中心となっている〈Alleluia〉=『Exsultate, jubilate』K.165の背景・音楽分析・演奏史的側面を詳しく掘り下げます。
作品番号の混乱:なぜK.553という表記が出るのか
モーツァルト研究では、Köchel(ケッヘル)番号が広く用いられますが、目録の版改訂や未確認断片の扱いにより番号や付加情報が揺らぐことがあります。さらに、CDやネット上の誤記・誤植、異なる編曲・抜粋に別番号が付されることも混乱の原因です。現行の学術的な目録や主要な楽譜データベース(Neue Mozart-Ausgabe, Köchel目録, IMSLPなど)を参照すると、一般に「Alleluia」と言えば『Exsultate, jubilate』K.165の終曲を指すのが正確です。K.553という表記は別の作品や編曲の誤表記である可能性が高いので、資料や音源を確認する際は曲目名とK.番号の両方を突き合わせることをお勧めします。
『Exsultate, jubilate』K.165 の成立と背景
『Exsultate, jubilate』は1773年、当時モーツァルトがイタリア滞在の折に作曲した宗教的モテット(カトリックの宗教曲)です。作曲はミラノで、ソプラノ(当時はカストラート、特にヴェナンツィオ・ラウッツィーニのため)と管弦楽伴奏のために書かれました。特に終曲の〈Alleluia〉は技術的に華やかで、短いながらも極めて印象的なアリアとして、世紀を超えて独立した演奏会用アンコール曲として広く取り上げられています。
編成とテクスチュア
楽器編成は基本的にソプラノ独唱と小編成のオーケストラ(弦楽器を中核に一部の管楽器やトランペット/ティンパニが加わることもある)で、モテット全体は輝かしい宮廷・礼拝の場にふさわしい色彩を持ちます。終曲〈Alleluia〉は短く明快な形式をとり、伴奏はソロ声部の自由な装飾を支えながらリズムの推進力を与えます。原初の対象歌手がカストラートであったことから、現代ではソプラノやカウンターテナーによる演奏が一般的です。
音楽分析(終曲〈Alleluia〉を中心に)
〈Alleluia〉は主に長音階的な跳躍と華やかな装飾的パッセージ(メロディックな流れの中でのトリル、スケール、アルペッジョ)を特徴とします。旋律は明朗で復唱が多く、聴衆にとって覚えやすい「歓喜の叫び」を形にしています。調はF長調(Exsultate, jubilate全体もF長調が基調)で、明るく輝かしい響きが宗教的な祝祭感を強調します。技巧的には、流麗な色彩感(bel canto的な発声)と確かな美声表現が求められ、短いながらも高度な技巧と音楽的表現力の両方が試されます。
演奏史と演奏上のポイント
- 歴史的背景:原初はカストラートの専用曲として書かれたため、モダンなソプラノが歌う際にはキーの転換や装飾の修正が加えられることが多い。
- 声域とカスタマイズ:現代の演奏では原調のままソプラノが歌うことが多いが、音域や声質に応じて移調することも一般的。
- 装飾と即興:当時の歌唱習慣に倣い、適度なアジリタ(速い装飾)やカデンツァ的な自由が許容される。とはいえ作曲家の筆致を尊重し過度の装飾は避けるべき。
- テンポと表情:短い曲ゆえにテンポの決定が曲全体の印象を左右する。生気のあるテンポでも、フレーズごとの呼吸とアクセントの配慮が重要。
現代の受容と録音・演奏の傾向
20世紀後半以降、〈Alleluia〉はオペラ・アリアとも通じる見せ場としてリサイタルの定番になりました。歴史的演奏法に基づく解釈(古楽器や軽めの弦楽伴奏、柔らかいビブラート)と、モダンオーケストラを用いる濃密な表現の両方向が共存しています。聴き比べによって、曲の持つ宗教的な厳かさと、ソロ歌手の技巧を際立たせるショー的要素のどちらを重視するかが明確になります。
聴きどころと入門のための聞き方
初めて聴くときは、まず全体の明快なフレーズ感と反復部分の親しみやすさに注目してください。そのうえで、歌手の呼吸、アーティキュレーション、装飾の選択(どこでスローダウンし、どこで流すか)を比較すると、解釈の多様性が分かります。短い曲のため、複数録音を短時間で聴き比べることが可能で、様々な解釈の違いが際立ちます。
まとめ — K.553表記への注意と真価
「モーツァルト:アレルヤ K.553」という表記を目にしたら、その出典を確認することをまず行ってください。研究的に正確なのは、終曲〈Alleluia〉を含む『Exsultate, jubilate』K.165です。本作は短いながらも高い芸術性と聴衆の即時性を兼ね備え、歌手の技巧と音楽性を示す好材料です。演奏史的にはカストラート向けの曲として成立しつつ、現代ではソプラノやカウンターテナーによる多様な解釈が花開いています。K.番号の混乱に惑わされず、まずは楽曲そのものを幾つかの録音で比較してみることをおすすめします。
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参考文献
- IMSLP: Exsultate, jubilate, K.165(楽譜と原典情報)
- Encyclopaedia Britannica: Exsultate, jubilate
- Neue Mozart-Ausgabe(Neue Mozart Edition) — モーツァルト正典版データベース
- Wikipedia: Exsultate, jubilate(参考情報、注記あり)
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