ショパン:ピアノソナタ第2番 Op.35『葬送行進曲付き』 — 構造・解釈・演奏の深堀り
概要
フレデリック・ショパン(Fryderyk Chopin)のピアノソナタ第2番 変ロ短調 Op.35(通称『葬送行進曲付き』)は、19世紀ロマン派ピアノ音楽の中でも最も象徴的で議論を呼ぶ作品の一つです。多くの聴衆にとっては第3楽章の「葬送行進曲(Marche funèbre)」が単独で知られており、楽曲全体の陰影や構成に関する諸説を生みました。作曲は1837年から1839年ごろにかけて行われ、1840年に出版されたとされます(注:楽譜の初版・刊行年については文献によって表記の差異があるため参照文献を確認してください)。
楽曲構成(楽章一覧)
- 第1楽章:Grave — Doppio movimento(変ロ短調)
- 第2楽章:scherzo. Molto vivace(変ロ短調)
- 第3楽章:Marche funèbre: Lento(葬送行進曲、変ロ短調/トリオは変ニ長調=変ロ短調の平行長調)
- 第4楽章:Finale: Presto(短く突発的な終楽章、変ロ短調)
楽章配列は伝統的な4楽章ソナタ形式に近いようでいて、第三楽章の存在感と第四楽章の非伝統的な短さが構造的な特異性を与えています。
第3楽章「葬送行進曲」の独立性と人気
第3楽章の葬送行進曲は、その哀感に満ちた旋律と深い宗教的・悲哀的な色彩のため、しばしば単独で演奏・録音されます。この楽章はしばしば国家的行事や葬儀などでも引用され、作曲以来広く人々の意識に根付きました。楽章のトリオ部分(中央部)は変ニ長調(変ロ短調の相対長)に移り、静謐で温かい対照を示すことで、行進曲の悲痛さを一層引き立てます。
第1楽章とソナタ的枠組み
第1楽章は短調の導入(Grave)から急速にダンピオ・モヴィメントへ移行します。主題素材はしばしば断片的・断続的に扱われ、動機が繰り返し変容する様はショパン独自の即興的な発想と結びつきます。従来のソナタ形式(提示・展開・再現)を部分的に踏襲しつつも、和声進行やリズムの処理はより幻想的・詩的で、古典派の明確なプロポーションとは一線を画します。
終楽章の“謎”と作曲意図
このソナタで最も議論を呼ぶのが終楽章(Presto)の扱いです。楽章は非常に短く、激烈なアルペッジョや急速な運動で進み、突如として終わるような印象を与えます。その短さや、葬送行進曲とどのように有機的に結びつくかについては、作曲当時および後世の批評家が様々な解釈を示してきました。
一部の研究者は、終楽章を『死の急襲』や『虚無』の象徴と読む一方で、他の論者は終楽章を付結(付記)的なフィナーレ、あるいは反復の不在が示す新たな意味として評価します。いずれにせよ、終楽章の突発性は曲全体に不穏さと記憶される瞬間をもたらし、葬送行進曲の嘆きとコントラストをなします。
和声・旋律上の特徴
ショパンは和声的にはしばしば変化和声や借用和音、半音階的装飾を用いて情感を深めます。葬送行進曲の主題は単純ながら効果的な旋律線で構成され、低音域のオスティナートと連動して行進の歩調を表現します。対位法的な処理は限定的ですが、第1楽章や第2楽章におけるモチーフの断片的な反復・変形により、楽曲の統一感が保たれています。
演奏上の課題と解釈のポイント
- テンポの選択:葬送行進曲は遅すぎず速すぎず、均衡した行進のテンポで悲哀を示すことが求められます。
- フレージングと呼吸:旋律線の呼吸感を上手く保ち、低音の伴奏とのバランスを取ることが重要です。
- 音色の対照:第3楽章の暗さとトリオの温かさ、第4楽章の冷たい突発性を明確に区別する音色設計が効果的です。
- ペダリング:ショパンらしい透明性を失わないように、濁らせない細やかなペダル操作が必要です。
受容史と批評
初期の受容は賛否両論でした。第3楽章は早くから高く評価される一方で、終楽章の短さや構成に疑問を呈する声も少なくありませんでした。後年、多くのピアニストや音楽学者が作品の緊張感と断片性に新たな価値を見いだし、20世紀以降、レパートリーの中で不動の地位を確立しました。多様な解釈が可能な点が、演奏史を通じてこの作品を生き続けさせている理由の一つです。
代表的な録音と解釈の比較(参考)
演奏史上、多くの名ピアニストがこのソナタを録音しています。アルトゥール・ルービンシュタイン、アルトゥーロ・ベネデッティ=ミケランジェリ、マルタ・アルゲリッチ、ミケランジェリ、マウリツィオ・ポリーニ、エフゲニー・キーシン、フジ子・ヘミングなど。各演奏はテンポ設定、終楽章の処理、葬送行進曲の歌い方において大きく異なり、聴き比べは解釈の幅を理解するのに有益です。
現代的な視点と楽曲の普遍性
現代の音楽学は、形式的整合性だけでなく、楽曲が聴衆にもたらす感情的インパクトや儀礼性にも着目します。葬送行進曲が社会的・文化的な文脈で繰り返し引用されることは、その旋律が持つ普遍的な共感力を示しています。また終楽章の突発性は、死や喪失といったテーマに対する決定的な表現というよりも、記憶と断片性を通じて新たな意味を生成する装置とも読めます。
まとめ
ショパンのピアノソナタ第2番 Op.35は、葬送行進曲の名声によって部分的に消費されがちですが、全体を通読するとその内部の矛盾や対比が作品を深く豊かなものにしていることが分かります。演奏者にとっては形式的な問題以上に、楽曲が提示する感情の幅をどのように聴衆に伝えるかが鍵となります。楽譜・演奏史・個々の録音を比較することで、新たな発見が得られる名曲です。
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参考文献
- Wikipedia: Piano Sonata No. 2 (Chopin)
- IMSLP: Piano Sonata No.2, Op.35 (score)
- The Fryderyk Chopin Institute: Works – Piano Sonata No.2 Op.35
- Oxford Music Online / Grove Music Online (検索ページ)
- The Cambridge Companion to Chopin(Cambridge University Press)
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