バッハ BWV17『感謝を捧げる者、われを讃えん』の深層解析

はじめに — BWV 17とは

『感謝を捧げる者、われを讃えん』(原題ドイツ語:Wer Dank opfert, der preiset mich、BWV 17)は、ヨハン・セバスティアン・バッハがライプツィヒ時代に作曲した教会カンタータの一つで、感謝を主題とする礼拝用作品です。正確な成立年や初演日は文献により差がありますが、1720年代のライプツィヒでの教会カンタータ創作期に位置づけられます。本稿では、歴史的背景、テキストと典礼との関係、楽曲構造と音楽的特徴、演奏・解釈上のポイント、代表的な録音や参考文献を整理して深掘りしていきます。

歴史的・典礼的背景

バッハの教会カンタータは礼拝のために特定の聖書朗読(福音書や使徒書)に対応して書かれることが多く、感謝を主題とする作品は該当する聖書箇所や説教文に応じて作られます。BWV 17もそうした文脈に置かれ、礼拝の聴衆に対する教理的・感情的な訴えを込めたものです。テキストには聖書の引用的要素と、当時の匿名の詩人による説教的・応答的な詩行が組み合わされていることが多く、カンタータ全体が説教(説教の前後に分けて演奏)と呼応する二部構成をとることが典型です。

テキストとテーマ

タイトルが示す通り、中心は「感謝(Dank/感謝の表明)」です。バッハはしばしば言葉の意味や語尾のアクセントを音楽的モチーフに変換し、テキストと音楽を密接に結びつけます。感謝の行為は個人的な信仰告白であると同時に、共同体による礼拝表現でもあり、その両義性がカンタータの構成と音楽語法に反映されます。典礼的には、癒しや救済に対する感謝、神への賛美と献納のイメージが対比的に示されることが多いです。

編成(楽器編成と声部)

BWV 17の正確なスコアは版によりますが、一般にバッハの礼拝カンタータで見られる編成―四声合唱(SATB)、4つの独唱パート(または合唱と独唱の使い分け)、弦楽器群(ヴァイオリン、ヴィオラ等)、オーボエ類(しばしばオーボエ・ダモーレ等の甘い音色が用いられる)、バス・コンティヌオ(チェロ、リュートやオルガン等)―が想定されます。オーボエやチェロの独奏的な扱いは情感表現に寄与し、弦のリズム的推進が合唱やアリアを牽引します。

楽曲構造と音楽的特徴(概観)

バッハの典型的なカンタータ形式にならい、本作も合唱(コラールや開幕合唱)で始まり、アリアとレチタティーヴォが交互に配され、最後に四声コラールで閉じられるという形を取ることが多いです。以下に、楽曲的に注目すべきポイントを列挙します。

  • 開幕合唱:集団的な感謝の表明を音楽的に描く場面。動機の反復や対位法的な扱いでテキストの語句を強調し、合唱とオーケストラが交互に応答することで、礼拝空間の重みを表現します。
  • アリア:個人の内的な思いを描く。独奏楽器(たとえばオーボエ・ダモーレやヴァイオリン)が語りかけるような旋律を担い、色彩的で叙情的な楽想が登場します。テクスチュアは多様で、ダイナミックなパッセージと静的な瞑想的場面が対比されます。
  • レチタティーヴォ:テキストを直接的に伝える部分。時に通奏低音のみ(secco)で進行し、説教的な語りを担います。
  • 終曲コラール:共同体が一致して歌う祈り/賛歌として機能。バッハは既存の教会歌を調和的かつしっかりとした和声進行でまとめ、聴衆の参加を促す終結を用意します。

音楽語法の注目点

本作で特に注目すべきは、言葉と音形の緊密な連関、器楽の「擬音的」あるいは「描写的」使用、そして合唱による共同体的表現の巧みさです。バッハは感謝や賛美といった抽象的な主題を、リズム的な跳躍や反復、ハーモニーの解決感によって具体化します。また、独奏楽器の色彩(オーボエ・ダモーレの暖かさ、弦の流動性など)は個人的信仰の心情を象徴的に示します。

演奏・解釈のポイント

歴史的演奏法の影響で、テンポ感、音色、発音(ドイツ語のアクセント)などが解釈を大きく左右します。以下は演奏家にとっての実践的な着目点です。

  • テキスト理解を優先する:言葉の意味を音楽的にどう翻訳するかが解釈の核心。
  • 器楽のバランス:オーボエやソロ弦の装飾的要素を明確にしつつ合唱を潰さない配置。
  • レチタティーヴォの自然な語り:装飾は節度を守り、説教的内容を伝えること。
  • コラールの和声感:終結における和声の明瞭さが共同体的決意を表す。

代表的な録音と聴きどころ

BWV 17 を録音・演奏している演奏家としては、歴史的演奏に基づくアプローチを採る指揮者(例:ジョン・エリオット・ガーディナー、鈴木雅明)、現代楽器と古楽器の橋渡しをする解釈を提示する指揮者など、複数の視点があります。各録音でテンポや合唱の扱い、楽器の色彩が異なるため、比較して聴くことで曲の様々な面が見えてきます。特に開幕合唱の対位法的な明瞭さ、アリアのソロ楽器の表情、終曲コラールの和声処理に注目してください。

現代への受容と意義

BWV 17は宗教的・音楽的価値だけでなく、共同体における「感謝」を音楽によって可視化する点で現代にも響きます。礼拝の場面を離れてコンサートで演奏される際には、テキストの普遍性(感謝・応答・共同体)が強調され、聴衆個々の内面を揺さぶる力を持ちます。

まとめ

『感謝を捧げる者、われを讃えん(BWV 17)』は、バッハが礼拝音楽の枠組みの中でテキストと音楽を緊密に結び付け、感謝というテーマを多層的に描き出した作品です。合唱と独唱、器楽がそれぞれの役割を果たしながら全体として深い宗教的感情と音楽的完成度を示します。演奏や解釈の際はテキスト解釈を出発点とし、器楽の色彩と合唱の力学に注意を払うことで、より深い理解と表現が可能になります。

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参考文献