バッハ BWV 39「Brich dem Hungrigen dein Brot(飢えたる者にパンを裂き与えよ)」徹底解剖:信仰・テクスト・音楽表現の深層
概説:BWV 39とは何か
ブランハルト・セバスチャン・バッハのカンタータBWV 39「Brich dem Hungrigen dein Brot(飢えたる者にパンを裂き与えよ)」は、その劇的なテキスト選択と音楽表現によって、バッハの教会カンタータ群の中でも特に重厚かつ道徳的訴求力の強い作品とされています。原題はルター訳聖書の言葉を引用したドイツ語であり、施しと隣人愛を主題に据えた典礼用の礼拝音楽です。作曲時期はライプツィヒ時代のカンタータ制作期に位置し、教会暦に連動する所定の主日のために書かれました。テキストの出典や自由詩の部分を誰が手がけたかははっきりしていない点も本作の興味深い側面の一つです。
典礼的/聖書的背景
タイトルとなっている文言は旧約聖書イザヤ書(Isaiah 58:7)に由来するもので、貧しい者に対する具体的な行為(食物の分かち合い、家の提供、貧者の救済)を神への義務として説きます。ルター派の礼拝において、こうした倫理的呼びかけは福音宣教(Evangelium)の実践的側面を強調する場面でしばしば取り上げられ、バッハは音楽によって説教の内容を補強する役割を担いました。本作はまさにその典型であり、聴衆に向かって行動の転換(信仰による実践)を促します。
構成とテクストの流れ(概略)
BWV 39は複数の楽章から成り、合唱・独唱・レチタティーヴォ・コラールが組み合わされて、テクストの神学的転回点を丁寧に描き出します。冒頭の合唱は命題的な引用句を掲げ、続く独唱やレチタティーヴォで個別の倫理観や具体的行動へと焦点を絞っていきます。最終的にコラールや合唱に戻ることで共同体としての応答が示され、礼拝音楽としての構築が完成します。
音楽的特徴:言葉と音楽のきめ細かな応答
本作の魅力は何よりも「テクストに対する音楽的応答」の精妙さにあります。バッハは言葉の意味を音形として具現化するいわゆるテキスト・ペインティングの手法を用い、語句ごとのリズム的アクセントや和声の転換を通じて語意の強調を図ります。冒頭合唱では声明的な動機が掲げられ、それが対位法的に展開して主題の普遍性を示します。一方、独唱アリアではソロ楽器と声の対話を通じて内面的な省察や慈悲の具体性が描かれます。
ハーモニーの扱いにも注目すべき点が多く、しばしば期待を裏切る和声進行や短調・長調の急激な摂動を用いて道徳的命題の重みや葛藤を表しています。また、レチタティーヴォではレシタティーヴォ・シンプル(セッコ)とアリオーソ的な部分を使い分けることで説教的語り口と心情表現を巧みに区別します。
合唱とソロの役割分担
バッハの教会カンタータでは合唱が共同体としての神の民を表し、ソロは個々の信者や説教者の視点を担うことが多いです。BWV 39でもその原則が貫かれており、合唱は命題を大きく宣言し、独唱はその命題を内面化し具体行為へと結び付けます。この交替が楽曲全体のダイナミクスを生み、聴衆(会衆)に対して内省と実践を反復的に促します。
演奏上の注意点・解釈の幅
演奏に当たっては、テクストの明瞭さを最優先にするか、音楽的流れと色彩感を重視するかで解釈が分かれます。歴史的演奏様式(バロック演奏法)に基づく小編成・軽いアーティキュレーションで聴かせるアプローチと、より豊かな合唱とオーケストラで神学的厳粛さを強調するアプローチがあります。どちらを選ぶにせよ、バッハが文字通りの説教的効果を意図している点を忘れてはなりません。
通奏低音(チェンバロ/オルガン+チェロ等)の役割は和声的支柱として重要です。またソロ楽器の装飾や句読点的なカデンツァは、語句の意味を際立たせるために緻密に配置されています。現代の演奏家はテンポの取り方、レチタティーヴォの語り口、アゴーギク(微妙な速度の揺らぎ)などで説教的効果をどのように演出するかが解釈の焦点となります。
神学的・社会的メッセージ:時代を超える倫理
BWV 39の主題である「施し」と「隣人愛」は、18世紀のルター派社会だけでなく現代においても普遍的な問いかけを含んでいます。楽曲は単に慈善を美徳として称揚するに留まらず、制度的な冷淡さや形式的信仰に対する批判的視線を伴います。音楽の強さは、聞き手を動かす(行動へと導く)力にあり、礼拝空間での初演を想定したバッハの設計がそこに反映されています。
おすすめの聴きどころ(トラック別の聞き方)
- 冒頭合唱:主題提示と対位法的展開、語句ごとのリズムづけを聴き取る。
- ソロ・アリア:声とソロ楽器の対話、装飾句と呼吸の置き所に注目。
- レチタティーヴォ:語り口の抑揚がテクストの意味を左右する。セッコとアリオーソの対比に注目。
- 終結部(コラールあるいは合唱):共同体としての応答、和声の確信に耳を澄ます。
代表的録音と参考にしたい演奏家
BWV 39は多くの主要なバッハ解釈者が録音しており、演奏スタイルによる違いを比較することで新たな発見があります。例えば、歴史的演奏実践を重視する指揮者の録音、小編成のアプローチ、あるいは大編成による宗教的荘厳さを重視した録音など、聴き比べをおすすめします(具体的なディスクは本文末の参考文献リストのリンク先で確認してください)。
まとめ:音楽と倫理が響き合う意味
BWV 39はバッハの宗教音楽の中でも、言葉と行為の結びつきを強く訴える作品です。音楽は説教を補強し、合唱と独唱、器楽が協働して信仰の倫理を具現化します。聴く者は音楽的享受とともに内面の問いかけを迫られ、結果として曲は単なる過去の宗教作品を超えて、現代の社会的良心にも訴えかける力を持ち続けます。
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参考文献
- Bach Cantatas Website — BWV 39
- Wikipedia — Brich dem Hungrigen dein Brot, BWV 39
- IMSLP — スコア(パブリックドメイン資料)
- Bach Digital — データベース検索(BWV 作品情報)
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