バッハ BWV70『目覚め、祈り、心を備えよ』—音楽と神学を読み解く

導入:『Wachet! betet! betet! wachet!』とは

ヨハン・ゼバスティアン・バッハの教会カンタータ〈BWV 70〉は、原題のドイツ語そのままに「目覚めよ、祈れ、祈れ、目覚めよ」と呼ばれる作品です。作品全体を貫く主題は「目覚め」と「祈り」といった終末的・戒めのモチーフであり、教会暦の年末に近い日曜礼拝にふさわしい精神を表現しています。バッハは、聖書の呼びかけ(「目を覚ましていなさい」「祈りなさい」)を受けて、合唱・ソロ・器楽の対話を通して信仰者の内的緊張と希望を描き出します。

典礼的・聖書的背景

この種の「目覚めよ/祈れ」を主題とするカンタータは、福音書(例:マルコ13章、マタイ24–25章、マタイ26章の「目を覚まして祈りなさい」など)に見られるイエスの警告や終末的な教えを背景にしています。礼拝においてその週の福音書朗読に呼応する形でカンタータが編まれることはバッハ時代の慣習であり、聴衆(会衆)は音楽を通じてテクストの意味を深く受け取るよう意図されていました。BWV 70も例外ではなく、信仰的な覚醒と行動への呼びかけを音楽的に具体化する作品です。

構成と音楽的特徴(概説)

BWV 70の具体的な楽章配列や編成の細部は版や編曲により差がありますが、典型的なバッハの教会カンタータと同様に、合唱による開幕、独唱的なレチタティーヴォとアリアが交互に現れ、最後は四声コラールで閉じる、といった構成をとることが多いです。開幕合唱では「目覚めよ(Wachet)」という命令形の語が反復され、それを支える強いリズム、しばしばシンコペーションや短いアクセントのモティーフによって緊張感が喚起されます。

バッハの言語(音楽語法)は、〈音による説教〉とも言われるほどテキストとの緊密な関係を持ちます。例えば警告や不安を表す箇所には短調や和声の不安定さ、急激な跳躍や対位法的な絡みが用いられ、祈りや安心を表す箇所には和声的な安定や長調、歌謡的な旋律が与えられます。BWV 70でも、言葉の意味に即した音響的な対比が随所に見られます。

テクストと神学的読み

テクストの神学は「目覚め」と「祈り」を軸に、備えと希望という二重性を提示します。終末論的な警告は自己反省と倫理的な目覚めを促し、同時に祈りは個々の信者が神との関係を保持し希望を抱く行為として描かれます。バッハはこれらを音楽構造に埋め込み、聴く者が受け手から能動的な参加者へと変化するようなドラマを生み出します。

楽器法・合唱と独唱の役割

バッハのカンタータでは、合唱が教会や群衆の声、あるいは神の呼びかけを象徴し、独唱ソロ(アルト、ソプラノ、テノール、バス)は個人的な応答や内的独白を表現することが多いです。器楽はしばしばテキストを色彩的に強調する役割をもちます。例えばオブリガート楽器が祈りの旋律を模倣したり、弦楽が緊張の層を作ることで、聴覚的なドラマが深化します。

演奏上の留意点(実践的アドバイス)

  • テンポ:開幕合唱の命令的な語り口を失わないために、適度な推進力が重要です。ただし速すぎてテクストの明瞭さが失われないこと。
  • 語節の明瞭さ:バッハの語るテクストは重要なので、子音の切れと母音の共鳴を意識して発語すること。特に合唱は言葉を揃える練習を。
  • 装飾とオルナメント:独唱ではバロックの装飾を節度を持って用いると効果的。装飾は感情を補強する手段であり、意味を曖昧にしてはいけません。
  • 編成:時には小編成(ワン・ボイス・パート各1名)での演奏がテキストの内省性を引き出しますが、合唱的効果を重視するならばやや人数を増やす選択も可能です。
  • ピッチとテンション:歴史的演奏実践に基づく低めのピッチ(A=415Hzなど)を用いると、響きに落ち着きと温かみが生まれることが多いです。

聴きどころ(ポイント)

・冒頭合唱のモティーフの反復に注目すると、バッハが“目覚め”という命令をどのように展開しているかが分かります。短い主題が器楽と声部で受け渡されるたびに、緊張が増幅されます。
・レチタティーヴォでは語尾のリズムの曖昧さや和声の突発的な不協和音に注意を向けると、言葉の切迫感がより明瞭になります。
・アリアではしばしば器楽のオブリガートが独唱に対する“対話者”となり、祈りや希望の情感を補強します。旋律の伸びや装飾の選択が演奏者ごとの個性を際立たせます。
・終曲の四声コラールは、教会的な閉じと共同体の確信を象徴します。ここでテクストのメッセージが集約され、礼拝の場に戻る感覚を聴き手に与えます。

版・楽譜と入手先

原典版(Critical/Bach-Gesellschaftや新版の新バッハ全集版)や各社の校訂版があり、演奏目的に応じて選択できます。オンラインのスコア・データベースや楽譜ライブラリで原典資料を確認することをおすすめします。演奏者や研究者は原典資料で編曲の差や残された筆写譜の相違をチェックすると良いでしょう。

現代での受容と録音ガイド

BWV 70は、Bachのカンタータ群の中では特定のテーマ性が強く、学術的・演奏的な関心が高い作品です。歴史的演奏実践に基づく解釈から現代的な合唱編成まで、多様な録音が存在します。録音を選ぶ際は、テンポ設定、コラールの音色、独唱者の語りの明瞭さ、器楽のバランスに注目すると良い比較ができます。

参考になる聴き方の提案

  1. まず全曲を通して聴き、作品全体の緊張と解放の弧をつかむ。
  2. テクストを目で追いながら、音の表現がどの語句に対応しているかを確認する(言葉と音の対応=ワードペインティング)。
  3. 特に開幕合唱と終曲コラールを繰り返し聴き、共同体的な呼びかけと応答の関係を意識する。

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参考文献