バッハ BWV 75『貧しき者は饗せられん(Die Elenden sollen essen)』徹底解説:作曲背景・編成・楽曲分析と聴きどころ
はじめに — BWV 75 の位置づけ
ヨハン・セバスティアン・バッハの教会カンタータ BWV 75 『Die Elenden sollen essen(邦題:貧しき者は饗せられん)』は、1723年にライプツィヒに赴任した直後に作曲・初演された作品で、彼のライプツィヒ初年度に着手した教会カンタータ年間周期の出発点を飾る重要作です。トリニティ(聖三位一体)節のために作られたこのカンタータは、典礼上の前半と後半で分割して礼拝の前後で演奏される二部構成を採り、豪華なトランペットとティンパニを含む祝祭的編成が用いられています。
作曲と初演の背景
1723年、バッハはライプツィヒの聖トーマス教会および聖ニコライ教会のカントール(音楽監督)に就任しました。任務の一環として礼拝用カンタータの制作・上演が求められ、バッハは赴任初年に独自の年間カンタータ周期を始めます。BWV 75 はその最初を飾る作品で、史料や伝承により初演は1723年のトリニティ(初年度の最初の該当日)であったとされています。初演の場では、バッハは新任の意気込みを示すべく、華やかな祝祭色の強い編成を選びました。
編成(楽器構成)と形式
BWV 75 は典型的なライプツィヒの祝祭カンタータに見られる豪壮な編成が特徴です。通例の記載に基づけば、声楽は合唱(SATB)と4名の独唱者(ソプラノ・アルト・テノール・バス)を用い、管弦楽は3本のトランペットとティンパニ、2本のオーボエ、弦楽(第1・第2ヴァイオリン、ヴィオラ)、通奏低音(チェロ、コントラバス、チェンバロ等)から構成されます。この派手な色彩は、トリニティ節の祝祭性や「神の恵み」を表す場面にふさわしい音響効果を生み出します。
楽曲の構成(全体像)
このカンタータは前半(礼拝前)と後半(説教後)に分けられ、それぞれ複数の小曲(合唱、レチタティーヴォ、アリア、コラールなど)で構成されます。史料的には全体で14曲前後(多くのカンタータ同様に、前半・後半合わせて複数の楽章)から成ることが知られており、最後は四声のコラールで締めくくられます。二部構成は礼拝の構成に合わせたもので、説教をはさんで物語と信仰告白が聴衆に対して段階的に示される設計です。
各楽章の特色と音楽的表現
以下では主要な聴きどころを示します。
- 序曲的合唱(Opening Chorus):祝祭的なトランペットとティンパニを伴う合唱は、力強い律動と対位法的な展開を特徴とします。合唱主題は明確で、しばしば短い呼びかけと応答、声部間の模倣を通じてメッセージを強調します。テキストの宣告的な性格が音楽的にも反映されます。
- レチタティーヴォ(Recitatives):福音的・説教的な語り口を担い、時に通奏低音の伴奏が強化されて感情の強弱や語の焦点に応じて即興的な流れが生まれます。バッハは単なる「つなぎ」としてではなく、テキストの内容を深める表情づけに巧みに用いています。
- アリア(Arias):ソロ・アリアでは器楽との対話性が際立ちます。トランペットを伴うアリアは威厳や喜びを、オーボエや弦楽の伴奏を受けるアリアは内省や慰めを表すなど、色彩豊かな音響でテキストの意味を拡大します。形は通例のA–B–A(ダ・カーポ)形式を用いる場合が多く、反復による瞑想的効果が意図されます。
- コラール(Chorale):最終コラールは信徒の応答としての機能を持ち、四声体で歌われることで礼拝共同体の確信を音楽的に示します。旋律はルター派の賛美歌伝統に根ざし、明確で親しみやすい対位を伴います。
作曲上の特徴とバッハの工夫
BWV 75 では、バッハが新任カントールとしての責任感と音楽的才気を示すため、典礼的適合性と高度な対位法、そして劇的効果のバランスに腐心している点が目立ちます。祝祭的な金管の使用は聴衆の注意を引き、同時に細やかな伴奏形(オブリガート楽器)や和声の処理で個々のアリアに固有の色合いを与えています。テキストに対する『文字付け(テキスト・ペインティング)』も随所に見られ、言葉の意味や宗教的感情を音響で具体化する手法が用いられています。
演奏と解釈のポイント
現代の演奏では歴史的な演奏慣行(古楽器、古楽奏法)に基づく解釈と、ロマン派以降の大型オーケストラ編成を用いる従来の解釈とが対立・共存しています。トランペットやティンパニの扱い、テンポの選択、レチタティーヴォのアガー(間)や装飾の有無などが演奏の印象を大きく左右します。重要なのは、礼拝の場での『語る』ことを意識した自然な呼吸と語り口を保ちつつ、合唱と独唱のバランスを崩さないことです。
歴史的評価と受容
BWV 75 はバッハのカンタータ群の中でも、特にライプツィヒ移行期の意欲作として高く評価されています。初演当時の祝祭性を色濃く残す編成と、礼拝実践に根ざした二部構成は、バッハが新天地で地域共同体に対して示した音楽的・宗教的メッセージを象徴しています。近現代においては、歴史的演奏法の普及とともにその構成美と表現の深さが再評価され、多くの録音・演奏で取り上げられています。
現代に向けた聴きどころ(簡易チェックリスト)
- 冒頭合唱:トランペットの入る華やかな声部運動に注目する。
- 独唱アリア:器楽との対話、特にオブリガートの旋律がテキストの意味をどう拡張するかを聞く。
- レチタティーヴォ:語りのニュアンスや和声進行の変化に耳を傾ける。
- 最終コラール:共同体の信仰告白としての力強さと和声の締めくくりを味わう。
まとめ
BWV 75 はバッハのライプツィヒ初年度を象徴する作品であり、典礼的な目的と音楽的創意が融合した傑作です。祝祭的な編成と緻密な対位法、テキストに応じた多彩な音響表現は、聴く者に深い宗教的・音楽的体験をもたらします。演奏史的にも重要であり、今なお新たな解釈を促す魅力に満ちたカンタータです。
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参考文献
Bach Cantatas Website — BWV 75
Oxford Music Online(Grove Music Online) — Johann Sebastian Bach(概説)
Christoph Wolff, Johann Sebastian Bach: The Learned Musician(書籍紹介)
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