バッハ BWV91「讃えられよ、イエス・キリスト(Gelobet seist du, Jesu Christ)」徹底ガイド:歴史・楽曲分析・演奏の聴きどころ

概要

BWV 91「讃えられよ、イエス・キリスト(Gelobet seist du, Jesu Christ)」は、ルター派のクリスマス賛歌を素材にしたヨハン・ゼバスティアン・バッハのカンタータ作品のひとつです。本作は伝統的なクリスマス賛歌(ルター作詞の〈Gelobet seist du, Jesu Christ〉)を基礎に、典礼的意義と礼拝の場での機能を強く意識して構成されています。バッハはこの素材を用いて、合唱・独唱・器楽を有機的に結びつけ、神学的なメッセージと音楽的技巧を両立させています。

歴史的背景とテキストの由来

原唱(詩)はマルティン・ルターによるルター派のクリスマス賛歌で、16世紀初頭からプロテスタントの礼拝で広く歌われてきました。バッハが用いたのはこの賛歌の言葉と旋律的素材で、彼は賛歌の各節をカンタータの構成要素として取り込み、礼拝の朗読箇所や祝祭日に即した説教的・賛美的な流れを作り上げます。

バッハの時代、賛歌(コラール)は会衆参加と教義伝達を担う重要な媒体でした。バッハはライプツィヒでの教会音楽監督として、コラールに基づくカンタータを礼拝の中心音楽として整備し、賛歌の旋律(カントゥス・フィルムス)を合唱や独唱、器楽に埋め込むことで、テキストの神学的意味を音楽で補強しました。

編成(編成の特徴)

本作の典型的な編成は、独唱者(ソプラノ、アルト、テノール、バス)と混声合唱(SATB)、弦楽器(ヴァイオリン、ヴィオラ等)、オーボエ類(2本のオーボエなど)および通奏低音です。管楽器やオーボエはクリスマスの祝祭色や牧歌的な色彩を付与する役割を担い、弦楽器は叙情性と対位法的動きを支えます。

構成と形式

バッハのコラール・カンタータに典型的な流れとして、冒頭にコラール主題を用いた大合唱(開幕合唱)を置き、中間に独唱アリアやレチタティーヴォ、対位的な器楽間奏を挟み、最後に四声体のコラール(会衆の賛歌風)で締めくくる、というパターンが見られます。BWV 91においても、賛歌の各節が音楽形式として巧みに配分され、テキストの展開と呼応します。

音楽的特徴と分析—冒頭合唱

冒頭合唱では、コラール旋律が何らかの形でカントゥス・フィルムス(多くの場合ソプラノ)に現れ、下位声部や器楽パートで対位法的・動機的な素材が編まれます。バッハはここで賛歌のメロディを尊重しつつ、和声的な展開や転調、対位法的重層を通じて『讃美』の力強さと荘厳さを音で表現します。器楽のリトルネロ(繰り返しの主題)によって大きな構造感が与えられ、合唱と器楽の応答がドラマを生み出します。

独唱パートとレチタティーヴォ/アリア

独唱パートはテキストに即した描写的・叙情的な役割を果たします。バッハはアリアで器楽伴奏を巧みに用い、例えば弦の分散和音やオーボエの重ねにより『牧歌的』または『祝祭的』な色合いを付与します。レチタティーヴォはしばしば説教的・説明的な語り部として機能し、合唱とは対照的に直接的なテキスト伝達に専念します。これにより、礼拝における説教的構造と音楽の形式が一致します。

合唱の役割と最後のコラール

合唱は会衆の代理として、あるいは天上的な合唱として機能します。終曲の四声コラールは伝統的に「締めの祈り」や「会衆参加」を想起させるもので、簡潔ながら和声進行や配置にバッハらしい深みがあり、カンタータ全体の神学的結論を音で提示します。コラールの終結部では、和声的安定が確保され、祈りの成立感が与えられます。

神学的・象徴的言語(音楽と言葉の結びつき)

バッハは音楽的モチーフや和声的決定によってテキストの意味を増強します。例えば『賛美』や『光』、『誕生』といった語句には上昇進行や明るい長調、管楽器の輝きが結びつけられ、『悔い改め』や『沈黙』に関しては短調や断続的なリズムが用いられることが多いです。BWV 91でも、賛美の高揚を表すパッセージや、歩みを表すリズムがテキストのイメージと一体化しています。

演奏上の注意点(実践的ガイド)

  • テンポ感:バッハの表情はテンポ設定に大きく依存します。礼拝的な機能を意識して、開幕合唱は崇高さを、アリアは適度な柔らかさを保つとよいでしょう。
  • 調性とチューニング:史的演奏慣習ではピッチや調音が現代と異なる場合があるため、演奏団体の音域と各楽器のテイストに応じたピッチ設定を検討します。
  • 装飾とヴィブラート:ソロ奏者・歌手の装飾は文脈依存です。バロック的な装飾を用いる場合は、テキストの明瞭さを損なわないよう節度を保つことが重要です。
  • 合唱人数:歴史的には小編成合唱での演奏も多く行われます。合唱の人数によって音色の透明度やアンサンブルの精度が変わるため、曲想に合わせて編成を選びます。

おすすめの歴史的・現代的解釈と録音

BWV 91の魅力は解釈の幅の広さにもあります。大規模な現代オーケストラ+合唱で壮麗に聴かせる演奏から、史的奏法(HIP)に基づく小編成でテクスチュアの透明さを際立たせるものまで、多様な録音があります。代表的指揮者としてはジョン・エリオット・ガーディナー、鈴木雅明(Bach Collegium Japan)、トン・コープマンなどが知られ、それぞれ異なる音色と宗教的解釈を提示しています。演奏を聴き比べることで、バッハの多面的な表現がより深く理解できます。

聴きどころ(パートごとの注目点)

  • 冒頭合唱:コラール主題と器楽リトルネロの関係、対位法の重なりに注目。
  • ソロ・アリア:伴奏器の色彩と独唱のフレージングにより、テキストの感情がどう増幅されるかに耳を傾ける。
  • レチタティーヴォ:語りの明瞭さと和声の動きで神学的な示唆が表現される。
  • 終曲コラール:和声解決の仕方や終止形の選択により、曲全体の「結論」が提示される。

研究上の注目点と未解決の問い

BWV 91を含むバッハのコラール・カンタータ群は、礼拝音楽としての機能と芸術作品としての自律性とのバランスをどのようにとっているか、という点で音楽学的に興味深い題材です。具体的には、原詩の解釈(ルター神学との結びつき)、編成の歴史的変遷、初演の具体的事情(日時や編成の正確さ)など、資料によって解釈が分かれる点がいくつかあります。これらの問いは、史料学的な検討や演奏慣習の再検討によって徐々に明らかにされています。

まとめ:BWV 91を聴く意義

BWV 91はルター派の賛歌を核に据えつつ、バッハが礼拝音楽としての責務と作曲家としての創意を融合させた作品です。テキストと音楽の緊密な対話、器楽と声部の有機的な組成、そして礼拝的締めくくりとしてのコラールは、バッハ音楽の本質を学ぶための格好の教材となります。聴く際は、個々のフレーズや和声の選択、器楽の色彩に耳を傾けることで、作曲当時の教会音楽的実践やバッハの神学的関心まで感じ取ることができます。

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参考文献