バッハ:BWV117『至高の善に賛美と栄光あれ』—楽曲解剖と鑑賞ガイド

序論:BWV117とは何か

ヨハン・ゼバスティアン・バッハの教会カンタータBWV117(日本語題例:「至高の善に賛美と栄光あれ」)は、ライプツィヒ時代に成立した合唱と器楽を伴う宗教曲で、特定の教会祭日へ厳密に結び付けられていない“汎用”のカンタータとして現代でも演奏機会が多い作品です。作者バッハは教会音楽監督として年間を通じて多数のカンタータを作曲・編曲しましたが、BWV117はその中でも穏やかで朗らかな宗教的感謝の情感が前面に出た作品と位置づけられています。

成立とテクストの出自

BWV117はライプツィヒ時代(1723年以降)に成立したとされ、明確な初演日や祝祭日への割当が記録に残っていないため、複数の機会で使用することを意図して書かれた可能性が高いと考えられます。テキストはしばしば匿名の賛歌や聖句断片を組み合わせたものとされ、統一的な詩人が一貫して書いたものというよりも、聴衆が知る宗教的言葉や賛歌のフレーズを再編した構成になっています。この点は、曲の性格が典礼的な“特定日用”よりも普遍的な宗教礼賛に向けられていることを示しています。

編成と楽曲構造(概観)

典型的な編成は混声合唱(SATB)、ソリスト群、弦楽器(ヴァイオリン、ヴィオラ等)および通奏低音、さらにオーボエなどの木管が含まれる比較的標準的なバロック教会オーケストラ編成です。トランペットやティンパニのような華やかな祭儀的楽器は必ずしも要求されないため、室内的で歌詞の明瞭さが重視される演奏が多く見られます。

構成は、序曲的な合唱(コーラス)から始まり、アリアやレチタティーヴォ、重唱、器楽的リトルルネル(リトルルネッロ)を挟みつつ最終的に合唱やコラール的な終結に向かう、というバロック時代の典型的なカンタータ形式の要素を備えています。楽曲全体を通して、対位法とホモフォニーのバランス、歌詞の明瞭化のための簡潔なテクスチュアが巧みに使われています。

音楽的特徴と分析(主要点)

  • 合唱冒頭の設計:冒頭コーラスは、喜びと賛美を表す明快なリズムと和声進行で開始され、バッハらしい対位法的展開や、短い主題の回帰(リフレイン的要素)により聴衆の印象が定着します。テキストの「賛美」「栄光」といった語句が音楽上でハイライトされ、反復・強調される箇所に注目すると、作曲上の意図が見えやすくなります。
  • アリアの語り口:各アリアは個人的な信仰告白や神への応答を表す場面として機能します。器楽伴奏は単なる支えではなく、しばしばアリアの感情を具体化する描写的な役割を果たします。例えば、ヴィオリンの軽やかなパッセージが希望や感謝を象徴する一方で、内省的なレチタティーヴォでは通奏低音が語りの基盤としての役割を強めます。
  • 対位法と和声の統合:バッハは複数声部を用いた対位法的技巧を駆使しつつ、和声進行で聴覚的な安定を確保します。結果として、聴き手は複雑な声部の流れを感覚的に享受しながら、テキストの中心命題を明瞭に受け取ることができます。
  • 終結部の宗教的確信:終曲では合唱と器楽が一体となって、感謝と賛美の最高潮を築きます。コラール的な閉じ方やホモフォニックな総合では共同体的な礼拝の感覚が強調され、作品全体の宗教的メッセージが総括されます。

神学的・詩的視点

BWV117が伝える宗教的メッセージは「至高なる善への賛美」という普遍的な命題に集約できます。個人的な救済感や共同体への感謝が交錯するテキストは、バッハが教会音楽を通して聴衆に呼びかけた“信仰と礼拝の共同体性”を示しています。劇的な救済物語を描くカンタータと異なり、BWV117は日常の礼拝や感謝祭、共同体の感覚に根ざした穏やかな神学を反映していると解釈できます。

演奏実践上の留意点

  • テンポ設定:合唱の明瞭性を重視してややゆったりとしたテンポを取り、テキストの語尾やアーティキュレーションを明確にするアプローチが有効です。快速にし過ぎると対位線が埋没しがちです。
  • 発声と合唱配置:バロック発声に基づく軽めの発声と、声部間のバランス重視が望ましいです。小編成での演奏では一人一声(one voice per part)を採る演奏家もおり、テキストの明瞭さと各声部の独立性が増します。
  • 楽器編成の選択:オーボエやヴィオラ・ダ・ブラッチョなど当時の響きを想定した音色選択が曲の神髄を引き出しますが、現代オーケストラ編成でも和声とバランスに配慮すれば魅力的な演奏が可能です。

録音・演奏史の注目点

BWV117はバッハの“全集”プロジェクトの一環として多くの指揮者・団体が録音してきました。特にジョン・エリオット・ガーディナー、トン・コープマン、鈴木雅明(Bach Collegium Japan)らの古楽指向の録音は、歴史的演奏実践に基づく解釈を知るうえで有益です。一方で、現代的フルオーケストラと合唱による録音も存在し、より豊かな音色によって作品の別の面が浮かび上がります。聴き比べをすることで、テンポ感、音色、合唱の扱いの違いが明瞭にわかります。

鑑賞のためのポイント(聴きどころガイド)

  • 冒頭コーラス:主題の反復と声部が交差する瞬間に注意。テキストのキーワードがどのように音楽的に強調されるかを追ってみてください。
  • アリア:器楽と声の対話を聞き、器楽モチーフが歌唱の感情をどう補強するかに注目します。
  • レチタティーヴォ:語りの自然さと和声の動きが語義の解釈に直結します。短いフレーズにも神学的含意が込められていることが多いです。
  • 終曲:合唱と器楽が一体となる場面を通じて、曲全体がどのように統合されるかを体験してください。

現代への意味と受容

BWV117は教会の典礼を超えてコンサートレパートリーにも定着しており、宗教的メッセージを持ちながらも音楽的普遍性が評価されています。宗教的背景を持たない聴衆にも、和声の美しさや声部の相互作用として純粋に音楽的に楽しめる点が本作の強みです。また、合唱団の発声・合奏アンサンブルの質を試す作品としても教育的価値が高いと言えます。

まとめ

BWV117は、バッハの教会カンタータ群の中で特に「普遍的な賛美」の精神を明快に伝える作品です。複雑な対位法と親しみやすい和声、歌詞の明瞭さを両立させる巧みな作曲技法が随所にみられ、演奏・鑑賞双方において深い満足を与えます。演奏史における諸解釈を比較しつつ聴くことで、作品の多層的な魅力がより豊かに理解できるでしょう。

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参考文献