バッハ「ミサ曲 ト短調 BWV235」徹底解説 — 歴史・編成・聴きどころガイド
概説 — BWV235とは何か
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(J.S. Bach)の《ミサ曲 ト短調》BWV235は、いわゆる「短いミサ(Missa brevis)」群の一つで、ラテン語のKyrie(主よ憐れみたまえ)とGloria(栄光)から成る、教会用の短いミサ形式で編まれています。BWV233〜236の4曲は総じて「Kyrie–Gloria ミサ」と呼ばれ、ライプツィヒの教会音楽実務の要請のもと、既存のカンタータ素材を転用(パロディ)して編曲されたと考えられています。BWV235はその中で特に深い対位法と抒情的な独唱群のバランスが魅力で、多くの演奏会や録音で親しまれています。
成立と歴史的背景
18世紀中期のライプツィヒでは、日々の礼拝や特別礼拝のために多数の宗教音楽が必要でした。バッハは教会楽長として、新作のカンタータを演奏するだけでなく、既存作品の再利用や再編を行って時間的制約に対応しました。BWV235を含む短いミサ群は、ラテン語の典礼文を短くまとめたもので、通常のミサ全曲に比べて実演時間が短く、典礼上の要請に適合しました。現存資料から、これらが1730年代から1740年代にかけて編まれた可能性が高いとされますが、正確な成立年や各楽章の原曲出典についてはいまだ研究が続いています。
編成(演奏要員)と楽器法
BWV235は典型的なバッハの教会作品と同様に、混声4部合唱(SATB)および4人の独唱(S, A, T, B)を中心に構成されます。伴奏は弦楽器(ヴァイオリン、ヴィオラなど)と通奏低音(チェロ、コントラバス、チェンバロ/オルガン)を基盤にし、オーボエなどの木管が色彩を加えることが多いのが特徴です。編成は出版社や演奏団体によって若干の差異がありますが、室内的な規模感で演奏されることが多く、合唱と独唱、器楽のバランスが聴きどころの一つになります。
楽曲の構成(概略)
BWV235はKyrieとGloriaのパートに分かれ、それぞれ複数の小節(楽章)で構成されます。バッハは典礼文の節ごとに表現を変え、合唱による壮麗な対位法と、独唱による親密なアリアや二重唱を交互に配して、形式的な変化と感情の幅を確保しています。具体的には、Kyrieの総合的な合唱で始まり、Christe(キリエ・クリーシュテ)といった独立した小品的箇所を置き、Kyrieの再現で締める構成が多く見られます。Gloriaは讃歌の喜びを反映して合唱、アリア、二重唱を組み合わせた多様なテクスチャーで展開されます。
作曲技法と音楽的特徴
- 対位法とコラール的展開:合唱楽章にはバッハ得意の対位法が活用され、主題の動機的展開や模倣が効果的に用いられます。短いミサであっても複雑なポリフォニーが随所に見られます。
- パロディ技法:BWV235を含む短いミサ群は既存のカンタータ音楽の転用(パロディ)によって編まれていると考えられており、これにより礼拝の場に相応しいラテン語文の抒情性と典礼的厳格さが両立しています。原曲が何であるかを巡る研究は現在も続いています。
- 声部の対比と独唱の表現:独唱アリアや二重唱では、バッハ独特の表現技法(装飾的なパッセージ、リズムの変化、器楽独奏との対話)が用いられ、合唱楽章とは異なる親密さや個人的信仰の告白性を表現します。
- 調性と色彩:ト短調という調性は抒情性と厳粛さを兼ね備え、Gloriaにおける明るい和声展開との対比が効果的に使われます。器楽色はオーボエや弦の使用で温かみとリリシズムを与えます。
聞きどころ(楽章ごとの簡潔ガイド)
下は典型的な聴取ガイドです。演奏や版によって楽章分割や配列が異なることがありますので、手元のスコアや曲目表と照らし合わせてください。
- Kyrie(合唱)— 緊張感と祈りの始まり。対位法的な主題提示と合唱の力強い応答が聴きどころ。
- Christe(独唱または二重唱)— より内省的で抒情的。ソロ声部と室内楽的な伴奏の対話が魅力。
- Kyrie(合唱・再現)— 始まりのモチーフを回収し、祈りを締めくくる。
- Gloria(合唱)— 讃歌の喜びを大らかに表現。明快なリズムと合唱の躍動感が際立つ。
- Gloria内のアリア/二重唱— 個々の節ごとに歌手が情感を掘り下げる。技巧的かつ表現的な歌唱が求められる。
- Cum sancto spiritu(終曲的合唱)— もし配置されていれば、荘厳なフィナーレとして総奏風にまとめられます。
演奏と録音の実践上の注意点
BWV235を演奏する際は、テクスチャーの明晰さを最優先にすることが重要です。バッハの宗教曲はリズムと和声の輪郭が明瞭であるほど説得力を増します。合唱は声部のバランスを保ちつつ、対位法的な模倣を際立たせること。独唱者は典礼文の意味を丁寧に発声し、器楽との対話を意識して表現を作り上げると良いでしょう。現代では原典版や歴史的奏法を参考にした演奏が多く、楽器編成やテンポ決定に歴史的観点を取り入れるか否かで解釈が分かれます。
受容と現代での評価
BWV235は、長大なミサ曲や受難曲ほどの知名度はないものの、バッハの宗教作品群の中で重要な位置を占めています。短いフォーマットながら音楽的密度が高く、研究者や演奏家からは「形式の中に込められた表現の凝縮」という評価が与えられています。現代では室内的編成での録音や、教会プログラムの一部として演奏されることが多く、多様な解釈が楽しめます。
聴き方のヒント
- 初めて聴く場合は、楽譜付きの録音(リスナー注記があるもの)を選ぶと、テキストと音楽の対応が理解しやすくなります。
- 合唱と独唱が交互に現れる箇所では、テキストの意味(祈り、讃美、告白など)に注目すると音楽の表情が読み取りやすくなります。
- 複数の録音を比較して、テンポ、音色、合唱人数の違いがどのように音楽の印象を変えるかを聴き比べてみてください。
まとめ
BWV235《ミサ曲 ト短調》は、バッハの宗教音楽における「凝縮された祈り」とも言える作品です。短い形式の中に対位法、抒情的な独唱、器楽色の工夫がぎゅっと詰まっており、教会礼拝の機能性と音楽的完成度が両立されています。専門家の研究と豊富な録音を手がかりに聴き進めることで、新たな発見が得られる作品です。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- Wikipedia: Missa in G minor, BWV 235
- Bach Cantatas Website — BWV 235
- IMSLP: Missa, BWV 235(スコア)
- Bach Digital(総合データベース)


